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全知全能のドジっ子女神、天界会議でパチンコを打つ 〜効率厨のエリート神々に不合理の美学を教えてやる〜  作者: はくもじゃ
現世降臨編

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15/18

第15話:暁の始発列車と、立ち食いそばの聖餐(サクラメント)

午前5時30分。渋谷駅前。

空は白み始め、カラスの鳴き声と、清掃車の駆動音が遠くから聞こえる。


「……ふぅ。これが『徹夜明け』という現象か。全知全能の肉体に、鉛のような『重力』を感じる」


ソフィオスが、ヒョウ柄ステテコの膝をさすりながら呟いた。彼の腕に抱えられた「びっくりチキン」も、こころなしか空気テンションが抜けて萎んでいるように見える。

タナトスは、法被ハッピの襟を合わせ、冷たい朝の空気に身を震わせた

「……ああ。だが、この疲労感、悪くない。魂を燃やし尽くした後の、心地よい『虚無』だ。……まるで、神話の終焉ラグナロクを生き延びたかのようだな」


「ガハハ! 全くですな! カツ丼のエネルギーも、昨夜の詠唱カラオケで完全に消費し尽くしましたぞ!」


マルスが腹の虫を盛大に鳴らす。千切れた手錠がチャリンと朝の空気に響いた。

アストラは、ヨレヨレになった法衣の袖で目をこすりながら、満足げに微笑んだ。


「皆さん、おはようございます。これこそが、人間が娯楽の果てにたどり着く『賢者タイム』です。……さあ、天界へ帰る前に、オフ会最後の『儀式』を行いましょう」


「……まだあるのか。アストラよ、余はもう、限界……いや、神力を持て余しているのだが」


ゼウスは、泥だらけのスーツのまま、電柱に寄りかかって腕を組んでいた。

威厳に満ちたその声とは裏腹に、彼の額に貼られた「すきぴ♡」のプリクラは朝露に濡れ、今にも剥がれ落ちそうだった。


(……マジで無理! 眠い! 帰りたい! ふかふかの雲のベッドで爆睡かましたい! てか、朝の渋谷、エモいけど寒すぎっしょ! 足パンパンなんですけど! でも、ここで「疲れた」とか言うの、超絶ダサいから絶対我慢! これぞ神の威厳!)


「最後の儀式。それは……『始発待ちの立ち食いそば』です!」


アストラが指差した先には、ガード下でひっそりと黄色い看板を光らせる小さな蕎麦屋があった。

換気扇からは、醤油と出汁の暴力的なまでに食欲をそそる香りが漂い、徹夜明けの神々の胃袋を鷲掴みにした。

狭い店内。カウンターのみの、椅子すらない空間。

そこには、タクシー運転手や、夜勤明けの労働者たちが、無言で黒いツユの蕎麦を啜っていた。


「……椅子がない。そして、注文から提供までが異常に速い。……効率の極みだな」


ソフィオスが、券売機を感嘆の眼差しで見つめる。

神々は、アストラに教えられるまま「天玉そば(天ぷら・生卵入り)」の食券を買い、カウンターに並んだ。


「へい、天玉四丁!」


店主が、流れるような手つきで麺を茹で、ツユを注ぎ、かき揚げと生卵を落とす。その間、わずか40秒。


「……見事だ。無駄のない剣の型を見るようだ。彼らこそ、暁の戦士……!」


マルスが丼を受け取り、感極まったように叫んだ。

神々は、立ち並んで蕎麦を啜った。


「ズズッ……! こ、これは……!」


「……濃い。だが、この疲労しきった肉体アバターには、この過剰な塩分と出汁の旨味が、まるで『命の水』のように染み渡る……!」


タナトスが、珍しく目を見開いて生卵を麺に絡めている。

ソフィオスは、かき揚げの油が溶け出したツユを、数学の難問を解いた時のような恍惚の表情で飲み干した。


「……フン。チープな味だ。だが……悪くない」


(やっば!! 何これ、五臓六腑に染み渡るんですけど! カラオケで叫びすぎた喉に、温かいツユが優しすぎ! てか、卵崩すタイミング、今だよね? 麺と絡めて……優勝! はい、俺、今この店で一番優勝してる!)


ゼウスは、表面上は静かに、しかし内面ではギャル特有のフルスイングなテンションで蕎麦を堪能していた。

そして、彼らは気づいた。

隣で蕎麦を啜っている、疲れ果てた表情の人間たちのことを。


「……アストラよ」


ゼウスが、ツユを飲み干した丼を置き、静かに口を開いた。


「あの者たちも、我々と同じように、夜の混沌を越えてここに来たのだろうか」


「ええ。人間たちは、こうして不完全な娯楽で魂をすり減らし、そして温かい出汁でそれを補修して、また不条理な日常へと戻っていくんです。……彼らなりの『調和』の形です」


アストラは、自分の蕎麦を盛大にこぼし、法衣のシミをさらに広げながら笑った。

神々は、無言で店を出た。

渋谷駅のシャッターが開き、始発電車を待つ人々の波が動き出す。


「……よし。帰るぞ、我らが天界へ」


ゼウスが、朝日に向かって振り返る。

ヒョウ柄、泥、法被、手錠。客観的に見れば、渋谷の朝でも一際ヤバい集団だ。

だが、彼らの背中には、かつて天界で見せていた「冷たい完璧さ」ではなく、確かな「人間の体温ノイズ」が宿っていた。


「……次は、人間界の『温泉』という熱湯の拷問施設を視察するのも悪くないな」


「いいですね! オータムリーフ(紅葉)の季節を狙いましょう!」


神々の笑い声が、始発を告げる電車のベルにかき消され、彼らは朝の光と共に、ひっそりと天界へと帰還していった。


現世降臨編はこれにておしまいです!

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