第14話:神々の狂宴(カラオケ)と、深夜の絶叫 〜マイクは剣よりも強し〜
夜の帳が下りた渋谷、センター街。
アストラに連れられ、神々は『カラオケの鉄人 〜飲み放題・朝までフリータイム〜』の看板をくぐった。
ゼウスが無言で(内面では「個室! 早く個室! 歌いたい!」と叫びながら)ブラックカードを提示したため、最奥のVIPルームへと通した。
「……狭いな。だが、この密室感。悪くない」
タナトスが、法被の裾を払いながら、ソファに深く腰掛けた。
部屋には、タバコの残り香と甘い芳香剤、そして揚げ物の油の匂いが混ざり合った、独特の身体的な空気が充満している。
「まずは、この『デンモク』という石板で、詠唱する呪文を選びます」
アストラが操作を教えると、ソフィオスが食いついた。
「……ほう。数百万の楽曲データが、この端末に? 検索アルゴリズムは……歌手名、曲名、そして『年代別』か。……ふむ、UIが少々非効率だが、興味深い」
ソフィオスは、ドンキで買った「びっくりチキン」をテーブルに置き(グェェと鳴いた)、高速で履歴を分析し始めた。
先陣:軍神の咆哮
「……では、先陣は私が切ろう!」
軍神マルスが立ち上がり、マイクを握りしめた。
「聞け! 警察署からの生還、その喜びの凱歌を!」
マルスが選んだのは、激しいロック調のアニメソング。
『紅蓮の弓矢』
「イェェェェェガァァァァァッ!!!」
キィィィィィン!!(ハウリング音)
「ぐわぁっ!? マルス様、声量がデカすぎます! マイクが悲鳴を上げてます!」
狭い個室に、物理的な衝撃波が走る。
だが、マルスは止まらない。タンバリンを盾のように叩きつけ、カツ丼のエネルギーをすべて音圧に変えていく。
「ふははは! 見ろ、画面の採点バーが真っ赤だ! 測定不能、これぞ軍神の証!」
次鋒:死神の献身
「……次は、私だ」
沈黙の主タナトスが、静かに立ち上がった。
彼が選んだのは、地下アイドルめろんちゃんのデビュー曲『マジカル・メロン・ビーム☆』。
曲が始まる。しかし、タナトスはマイクを持たない。
彼は真顔のまま、両手に持ったサイリウムを高速で振り始めた。
「……ウー! ハー! (野太いコール)」
「タナトス様、歌ってくださいよ! フリータイムなんですから!」
アストラがツッコむが、彼は一瞥もせず答えた。
「……推しの聖なる歌声に、私の声を被せるなど万死に値する。私は『打つ(オタ芸)』のみ」
タナトスは完璧なキレで「ロマンス」を打ち、サビでは「め・ろ・ん・ちゃーん!」と、死を司る神とは思えない愛の叫びを上げた。
中堅:知恵の実験
「……ふむ。次は私が、この空間の音響特性を検証しよう」
知恵の神ソフィオスが、ヒョウ柄ステテコ姿でマイクを持った。
彼が選んだのは、歌詞のないインストゥルメンタル曲『情熱大陸』
「……!?」
神々がざわつく。歌わないのか?
ソフィオスは、マイクを「びっくりチキン」の腹に当てた。
そして、画面のリズムに合わせて、全知全能の指圧でチキンを演奏し始めた。
「グェッ、グェッ、グェェ〜〜〜♪(チャラッチャラッチャラ〜)」
「……音階が、ズレているようで合っている……? これが、圧縮陳列の魔術か……」
ゼウスが唸る。ソフィオスは真顔でチキンを鳴らし続け、採点画面には「表現力:99点」が叩き出された。
大将:最高神のバラード
そして、ついに最高神の番が回ってきた。
部屋の照明が落ち、ミラーボールが回り出す。
「……待たせたな。余の歌声は、天界の雷そのもの。心して聴け」
(キターーー! バラード! ここは絶対バラード! EXILEとか歌っちゃう系? それとも、あえての米津? 震えろ、人間界! 俺の美声に酔いしれろ!)
ゼウスが選んだのは、壮大なラブバラード『I LOVE YOU』。
マイクを逆手で持ち、目を閉じ、泥だらけのスーツで、額にプリクラを貼り付けたまま、感情たっぷりに歌い上げる。
「I Love You〜♪ 今だけは悲しい歌〜♪」
うまい。
無駄にうまい。全知全能の美声が、安っぽいスピーカーを限界まで震わせる。ビブラートが部屋の空気を振動させ、マルスの千切れた手錠が共鳴して音を立てる。
「……(うっとり)」
ゼウスは自分の歌声に酔いしれ、間奏中に、今日覚えたばかりのギャル語で囁いた。
「……マジ、エモい。……これ、俺のことじゃん?」
(やべぇ、泣きそう。俺の歌、マジで心に刺さる。てか、この歌詞、俺とリナちゃんの別れの曲じゃね? プリクラ機の爆発で引き裂かれた俺たち……うっ、尊い!)
ゼウスの目から、一筋の涙(プラズマ発光)がこぼれた。
神々は、そのあまりの「上手さ」と「見た目の酷さ」のギャップに、言葉を失い、ただ聞き惚れていた。
結び:混沌のアカペラ
その時、ソフィオスが「ドリンクバー」から戻ってきた。
「……皆さん。この『メロンソーダ』と『カルピス』と『コーンポタージュ』を混合すると、宇宙の味がすることを発見しました」
「ソフィオス様、それ絶対マズいやつです! ……あ、こぼした!」
アストラが、ソフィオスのびっくりチキンにつまずき、テーブルの上のドリンクをすべてひっくり返した。
バシャァァァッ!
極彩色の液体が、デンモクとマイクにかかる。
『ブツッ……キュルルル……』
カラオケの画面がノイズに包まれ、音楽が止まった。
「あ……」
静まり返る個室。
だが、次の瞬間。ゼウスが叫んだ。
「……止めるな! アカペラだ! 音楽は、機械ごときでは止まらん!」
(そうだろ!? ここで止めるのが一番ダサい! 音が消えたなら、俺たちが奏でればいいじゃん! これぞ、ライブ感!)
「オオオオオッ!」
マルスが机をドラム代わりに叩く。
タナトスが手拍子でリズムを刻む。
ソフィオスがチキンの腹を押して「グェェッ」とベース音を入れる。
「I Love You〜♪」
神々は、夜明けまで歌い続けた。
採点機能も、エコーも、伴奏もない。
ただ、泥と汗とドリンクバーのベタベタにまみれながら、彼らはかつてない「一体感」を感じていた。
朝5時。
渋谷の路上に放り出された神々は、サラリーマンや始発待ちの若者たちに混じり、完全に「朝帰りの集団」として溶け込んでいた。
「……楽しかったな」
ゼウスが、朝日を浴びて呟いた。
その顔には、もうプリクラも泥も関係ない、清々しい笑顔があった。
アストラは、全員の集合写真を撮り(指が入って半分隠れていたが)、満足げに言った。
「皆さん。これで私たちは、正真正銘の『面白い神様』になれましたね!」
なぜ神々が人間の音楽を知ってるか、それは現世降臨前に神々が各々で下調べしてたからです。神様だって旅行前はウキウキするものですw




