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特別な女の子【メラニー視点】 前編

 オレリーが周りからどう見えていたのかについての視点が欲しくて、メラニー視点を入れてみました。

 私の住むクラメール村は、特段目立つ特産品があったり栄えたりしている村でもない。だけど、きっといい村なのだろう。

 大人は皆、領主様が良い人で良かったという。私には想像もつかないけれど、よその領主様はとても怖い人もいるんだそうだ。

 私たちにとって領主様は、他の大人よりも立派な服を着ているけれど、ちっとも偉ぶらずに気さくに話しかけてくれる優しい人だ。しかも、よくお魚をくれる。『また領主様がお魚を分けてくれたよ、ありがたいねえ』なんていうお母さんの言葉と共に時々お魚が食卓に並ぶものだから、私はもっと小さい頃、領主様のお仕事はお魚を獲ることだと思っていたくらいだ。その勘違いに、家族が大笑いしていたのはよく覚えている。

 とにかく、うちの領主様はそんな人なのだ。そして、よその領主様もそんなものだと思っていたけれど、そうではないらしい。

 うちは良い領主様に恵まれているから感謝しなきゃね、と大人は言っている。きっと、その通りなのだろう。


 そんな領主様の唯一の子供が私の友達のオレリーちゃんだった。

 オレリーちゃんは、領主様よりその奥様によく似ている。奥様と同じ色のピンク色の髪は大体ツインテールにされていて、顔の横でふわふわの髪が揺れているのが可愛らしい。ちょっと気の強そうな赤い瞳も、例えるなら野いちごの甘味の中のちょっとした酸味みたいにハッとするような魅力がある。

 奥様もとても綺麗な人だけど、私にはオレリーちゃんの方が綺麗な顔立ちをしているように見える。きっと、将来は奥様以上に綺麗な女の人になるんじゃないかな。

 オレリーちゃんは私たちの中でも特別な子だった。領主様の子供で、村の誰よりも可愛い女の子だ。村の誰も持っていないような素敵なものを沢山持っていて、髪も肌もいつもピカピカだった。そして、私たちが知らないようなことを勉強していて、しかも何をやっても一番になるくらいすごい子だった。

 そんなオレリーちゃんが特別じゃないはずがない。


  だけど、オレリーちゃんは口が悪かった。癇癪をおこすと、馬鹿だのグズだの罵ってくる悪いところがあったのだ。 

 でも、私がそれをそこまで気にしていたかというと別にそういうわけでもない。

 今でこそ落ち着いたけど、私のお兄ちゃんは本当に口が悪くて、慣れっこだったからだ。お兄ちゃんの悪口に比べたら、オレリーちゃんのそれなんて本当に大したことがなかった。


  例えば、お兄ちゃんだとこうだ。

 ある日、『おい、メラニー、顔に何かついてるぞ』と言ってきたことがあった。そう言われたら、何かついているのかと思って拭いたりするじゃない? そうしたら、お兄ちゃんはこう言って笑うのだ。『なーんだ、そばかすかあ。汚れついてんのかと思ったけど、お前生まれつき顔が汚いんだな』って。

 人からおおらかだとか能天気だとか言われる私でも、あれはさすがに傷ついた。大泣きしてしまって、お兄ちゃんはまた妹を虐めたのかとお母さんに怒られていたけど、お兄ちゃんはそれが気に食わなかったみたいで私にますます私に辛く当たるようになった。


 日頃からお兄ちゃんからそんな言葉をかけられていた私からしたら、オレリーちゃんの悪口なんてそよ風みたいなものだった。

 確かに、オレリーちゃんは馬鹿だのグズだの言う。だけど、オレリーちゃんがそう言う理由はいつも分かりやすかった。例えば、喉が乾いたのに飲み物がない時。あとは、新しいリボンを褒めて欲しいのに気づかれない時。オレリーちゃんはそういう時に癇癪を起こしていただけだった。


 例えば、いつもよりも機嫌の良いオレリーちゃんが私の前でくるりと回って、こう言う。『メラニー、何か気づかないかしら?』って。そう言われたら、私はオレリーちゃんが何を指摘して欲しいのかじっくり見ないといけない。

 その時にオレリーちゃんが新しいリボンを自慢したかったのに気づかなかったりしたら、『ちゃんと見なさいよ! このリボン、お父様に買ってもらったのよ! なんで気づかないのよ、メラニーの馬鹿ッ! もう遊んであげないんだから!』と怒って帰ってしまうからだ。

 ちなみに、遊んであげないと言われても、大体は次の日になったら『謝ったら許してあげる!』と言ってくる。多分、一緒に遊べなくてつまらなかったんだろうなあと思いながら私は謝るんだ。


 確かにオレリーちゃんはちょっとしたことで機嫌を損ねた。だけど私からしたら理由が分かりやすい分、気が楽だったし、私を傷つけることが目的じゃなくて単なる癇癪でしかなかった。自分の望むようにならないのが腹立たしいだけだと分かっていたので、そこまで気にならなかったんだ。オレリーちゃんはそういう子なんだなあと思っていた。

 

 逆に、私はずっとお兄ちゃんが怖かった。分かりやすいオレリーちゃんとは逆に、お兄ちゃんがどうして酷いことを言ってくるのか、全く分からなかったからだ。それに、私がそばかすを気にしていることに気づいてからは、そのことをよくからかってきた。オレリーちゃんは私の見た目のことやそばかすのことなんて全く言わなかったから、お兄ちゃんの言葉の方が何倍も傷ついた。

 それに、お兄ちゃんはカエルや虫を使って嫌がらせをすることもあった。特に私はカエルが苦手で、何度もお兄ちゃんに泣かされた。暴力はさすがに振るわれたことがなかったけど、それでも私は怖くてたまらなかった。

 酷いことをされることもだけど、何でお兄ちゃんがそんな酷いことをするのか分からないのが、余計に意味がわからなくて不気味だった。お兄ちゃんは悪魔なんじゃないかって本気で思ったこともある。

 お兄ちゃんの目的は、私を傷つけることのように思えた。私が物心ついた時にはすでにお兄ちゃんは酷いことばかりしてくる人で、あまりの理不尽に私は怯えることしかできなかった。


 だけど、そんなお兄ちゃんは逆にオレリーちゃんが怖いみたいだった。きっとオレリーちゃんが領主の子供だから、下手なことをできないと思っていたんだと思う。皆で遊ぶこともあったけど、オレリーちゃんがいるとお兄ちゃんはいつもよりおとなしかったし、私に意地悪もしなかった。私がオレリーちゃんと2人で遊んでいる時に割り込んでくることもなかった。

 だから、私はオレリーちゃんと遊んでいると、お兄ちゃんに意地悪をされる心配をしなくていいのがとても楽だった。私はできるだけオレリーちゃんと一緒にいるようにしていた。

 

 それに、オレリーちゃんは強引で自分勝手なところもあったけど、自分の気持ちに正直な子だった。

 新しいリボンに気づかないと癇癪を起こしたけど、逆に気づいて褒めると分かりやすく喜んだ。『分かってるじゃない!! そう、これお父様が買ってくれたのよ! さすがメラニーね!』そう誇らしげに言うオレリーちゃんは、何だか可愛らしくさえあった。

 何をしてもどうやっても気に食わなくて嫌がらせをしてくるお兄ちゃんと違って、オレリーちゃんは褒められたら機嫌がよくなって褒め返してくれることもよくあった。

 私は、それが嫌いじゃなかった。

 

 そもそも、村の人たちは皆、オレリーちゃんを「お嬢様」とか「お嬢」とか呼ぶ。お兄ちゃんだって、「お嬢」って呼んでる。私がオレリーちゃんのことをオレリーちゃんって呼んでいるのは、オレリーちゃんがそう呼んでいいって言ってくれたからだ。それは、ある種の特別扱いだった。

 自惚れじゃなくて、オレリーちゃんは私を特別扱いしてくれた。周りから見ても、私がオレリーちゃんのお気に入りなのは明白だったと思う。

 ——オレリーちゃんは、やっぱり特別な女の子だったのだ。あの恐ろしいお兄ちゃんですら、オレリーちゃんの前では縮こまってしまうくらいの。そんな特別な子に与えられた特別扱いは、何だかくすぐったいくらいに特別なことに思えた。

 領主様の子供で、すごく可愛くて、何でもよく知っていて、運動神経も抜群のオレリーちゃん。誰よりもキラキラと輝いている宝石みたいな女の子が、特別な取り柄なんかない私のことを気に入ってくれて、『さすがはメラニーね!』と華やかな笑顔を向けてくれる瞬間が、私は好きだった。

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