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6.柔軟性と臨機応変

 忘れないために原作について色々書き留めながら思うが、運命が悪意に満ち満ちていると思うのは私だけだろうか。

 オレリーの元々の性格がちょっと厄介な子だったとしても、一過性のもので落ち着いていた可能性もあったと思う。でも、強奪スキルなんていうハズレ枠——でありながら、良心を売り飛ばせば限りなく最強のものにもなるスキルを手に入れてしまって。それでもちょっと不貞腐れながらも普通に生きてきた子供の前に、死にかけのスキル持ちなんていう降って湧いたような存在が現れて。しかも、この時に強奪することに成功したのも、また人格の歪みを増長させるようなスキルであるというオマケ付きだ。

 ちょっと運命が違ってそんなものに遭遇しなければ、オレリーだって自分のスキルの問題に割り切りをつけて成長する日だってあったかもしれないのに——というのは自己弁護がすぎるだろうか。


 だけど、それはあくまで原作のオレリーの話だ。現在の私はもちろんそんなことをするつもりはない。


 そもそも、人からスキルを奪うのはリスクが高すぎる。鑑定スキル持ちはレアだし、原作にも登場しなかったことを考えると基本的に考えなくていいとは思うけれど、それでもどこかに存在している可能性はある。鑑定スキルを使われてしまえば、私が強奪スキルを持っていることはおろか、スキルによって他者のスキルを奪った——すなわち人を殺したこともモロバレになる。

 ただの強奪スキル持ちならば、生まれ持ったスキルが最悪だっただけで使うつもりはないという弁明もできる。でも、すでに他者を殺してスキルを奪った強奪スキル持ちともなれば、周りの目がどうなるかの想像は難くない。そして普通に人を殺したくなんてない。


 つまり、私の悪役令嬢ルートを回避するために一番大切なのは、スキルを使わないと言うことに尽きるだろう。

 原作を思い返すと、基本的に「オレリーが悪い」で決着がつく。例えば悪役令嬢とは別に黒幕の悪の宰相がいたりとか、魔王を討伐するクエストがあったりとかそういう話ではないのだ。

 ひたすら、嫉妬や邪魔者を排除する目的でオレリーがカトリーヌを攻撃した話だった。


 ——自画自賛になるかもしれないが、物語が二転三転するために必要な主人公への試練や逆境の全てを作り出したオレリーは逆にすごいような気もする。

 オレリーが存在しなかったら、カトリーヌは巻き戻りを経験する必要もなく、1周目の流れのまま順調に王太子の婚約者として結婚していたはずだ。そして、遅れはするが十代のうちにスキルを授かって聖女として認められて、王太子妃兼聖女として国中に祝福されて終わるという、波乱万丈要素は一切ない平穏な話になっていたかもしれない。


 そもそも生まれからしてあちらは、国内でも有数の力を持つ公爵家の令嬢。こちらはど田舎の貧乏男爵家令嬢。

 あちらのスキルは1周目こそ授かるのが遅れるとはいえ筆頭聖女として認められる破邪スキル。こちらは忌み嫌われる強奪スキル。

 あちらは1周目は王太子の婚約者で、2周目は婚約者でこそないものの王太子の想い人としての位置を保持したまま学園編に突入。こちらは学園に入るまで王太子と面識すらないし、2周目に至っては王太子はカトリーヌからオレリーは要注意人物だと吹き込まれてさえいる。

 そして、あちらは2周目からはなんというか逆ハーレム要素がとても強い。騎士団長の子息と、外務大臣の子息は学園編に突入するまでにカトリーヌに惚れるし、大商人の子息と南部の筆頭公爵の子息も学園編で落とすことになる。これに王太子を加えた5人がカトリーヌを取り合って牽制し合っているけれど、鈍いカトリーヌは何も気づいていないという展開だった。

 さらにカトリーヌ陣営をすごい布陣にしているのが精霊王関連で、闇の精霊王を除く5柱の精霊王——つまり、光と風と土と水と火の精霊王が彼女の味方になる。精霊王についてはざっくりとしか知らないけど、なんか神でこそないけれど、圧倒的上位存在だ。しかも、精霊王が味方についたからには普通の精霊たちも彼女の味方になるということだ。だから、カトリーヌが使えるものこそ破邪スキルだけだが、精霊たちに頼めば水でも風でも何でも使い放題というわけだ。

 また、前も言ったようにこの作品は巻き戻りものなので、カトリーヌには1周目のことを知っているというアドバンテージがある。彼女は未来のことがある程度予測できるし、光の精霊王が巻き戻らせたついでにオレリーのスキルことやら親切に色々話したので、オレリーの手の内を知ってもいた。

 あちらは実家がめちゃくちゃ太い上に全面的にカトリーヌの味方、王太子筆頭に国内の権力者の子息達はベタ惚れして味方、果ては上位存在の精霊王達もあちらの味方。精霊王が味方をしている相手に一般精霊たちも喜んで力を貸す。聖女認定されるスキル持ちで未来の情報やオレリーの手の内を承知した状態。

 一方、こちらに味方といえる味方はいなかった。悪事をしているから悪いのだけど、うちの両親は悪事に加担するような性格ではないし、それはきっとオレリーも分かっていた。おまけに悪魔認定されるスキル持ちで普通に1周目の記憶などない真っさらな状態。

 学園に入る前の段階で、これだけ周回差をつけられていたのに、強奪スキル持ちというだけでカトリーヌを何度も窮地に陥れていたオレリーは化け物かと思ってしまう。いや、人を貶めようとするメンタリティが化け物じみた醜悪さと言うのもあるのけれど、それと同じくらいにガッツがすごい。その根性をもっと良いことに使っていたら、凄い偉業でも成せたんじゃなかろうか。

 一応言っておけば、強奪スキルで最初にゲットしたスキルが魅了スキルという、これまた忌まれがちだけど便利なスキルというのもあるのだけど。ただこの魅了スキル、破邪スキルと相性が悪いのだ。魅了スキルは魂に対する攻撃とも言えるので、破邪スキルで打ち消すことが可能だ。

 はっきり言って、これでまともな勝負になっているのがおかしいのだ。

 一部ではウサギと亀なんて言われていた。圧倒的優位にありながら後手に回り続けるカトリーヌがウサギで、手持ちの札が悲惨なのに創意工夫と挫けぬ心で目的を遂げようと努力し続けるオレリーが亀というわけである。

 原作オレリーは性根がねじ曲がっていて、自己中心的で、目的のためなら何でもする極悪人だった。だが、目的を遂げるための一途さと努力だけは本物だったように思う。

 一方カトリーヌは……あれだけのアドバンテージを全く活かせずに、何事も後手になってしまうように見えた。

 

 私は原作オレリーを褒めているようだが、別にそんなことはない。ヴィランをことさら好きになるタイプの人もいるのは知っている。でも、私は単純に悪辣なオレリーに腹を立てていた。最初は普通にオレリーは報いを受けて、カトリーヌには幸せになってほしいと思って読んでいたのだ。

 でも、カトリーヌを応援していたからこそちゃんと行動してほしかったのに、「どうしてそこちゃんと対策しないのかな」とか「どうしてそういう行動しちゃうのかな」とかガッカリする感覚が続きすぎてそれは次第にカトリーヌへの苛立ちになってしまったように思う。

 学園編に突入するまではまだ良かったのだ。周囲との関係改善が主なストーリーだったので、それはわりとうまくいっていった感じだった。首を傾げるような判断がなかったわけじゃないけど、それでも許容範囲内ではあった。曲がりなくとも味方を増やすことには成功していたからだ。だけど、学園編に入るまでに相当に有利な布陣ができていたからこそ、そこからの指し手の不味さが際立ってしまったのも否めない。

 そのハラハラする展開が刺さった人もいたのだろうけど、私にはどうにもストレスが溜まる展開だった。


 しかし、自覚はしているが私がカトリーヌに感じる反感は読者としての反感だ。つまるところ、スカッとしたいという私の要望と作者が作中で描写したかったことが噛み合わなかったのだろう。

 読者としては後手にまわり続けるカトリーヌがもどかしくて仕方がなかったけれど、でも逆に言うならカトリーヌは前回の知識持ちとはいえ先手を取って攻撃してくる性格ではないと言うことだ。それは、私がオレリーである今、助かるといえば助かるとも言える。

 はっきり言って、しがない男爵家の令嬢なんて国内トップクラスの家柄の公爵令嬢が本気出して攻撃したら、それだけでプチッとやられる。

 カトリーヌがこちらを先制攻撃してくる可能性が少ない以上、こちらが攻撃しなければ、何事も起こらない可能性が高い。


 1周目で考えても、2周目で考えても、オレリーが積極的に攻撃しなければ正直問題は起こらない。

 1周目ならカトリーヌは心は通じ合わないまでも王太子の婚約者として、王妃教育を受けつつ普通に暮らすはずだ。2周目ならばカトリーヌは王太子の婚約者を固辞しつつも、王太子含む周囲からの愛されルートを辿るはずだ。原作は最終的に王太子との元鞘エンドだったので、やっぱり王太子妃になるかもしれない。

 1周目のカトリーヌにはオレリーに対する特別な感情はないだろう。何なら、存在すらよく知らないかもしれない。

 しかし、2周目ならオレリーに対する警戒や恐怖も強いはずだ。親しい相手にオレリーが要注意人物だと根回しをするというのもある。それでも、さすがにカトリーヌに根回しをされただけで先走って断罪したりするほど周囲も盲目的ではない。要注意人物としてマークはされるかもしれないが、何事もしなければ周囲だってどうしようもないはずだ。さすがに冤罪を仕掛けたり、他の方法で排除までは……しないと、思うけど思い込みすぎるのはよくないか。とはいえ、可能性は低いと見ていい。


 総じて、原作通りの挙動を皆がするのなら、私がスキルを使ったり悪事を行わなければ問題がない……と言えそうだ。

 だけど、あまりにも簡単なことすぎて、逆にそれでいいのか不安になってくる。死亡フラグとは法定速度をぶっちぎって爆速で突っ込んでくるものなのだ。

 原作の強制力とか、私以外の転生者の存在とかとんでもない罠が存在しそうで怖い。例えば、カトリーヌが転生者だったら最悪だ。本来なら、公爵令嬢が本気出して私を排除にかかれば、こんな吹けば飛ぶような立場ではプチッとされるのが関の山だ。カトリーヌの転生者(仮)だって、原作の後手後手っぷりにイライラして先手で排除にかかるかもしれない。はっきり言って、そうなったらもうどうしようもない。

 手のひらを高速回転させるが、カトリーヌはぜひ原作のままであってほしい。ほぼ先手を打たずに問題が起きてから行動するその姿勢は何て素晴らしいのだろう。


 色々と考えた結果、「スキルを使わない、悪事をしない」と書いたのち、「カトリーヌや他の人の行動を注視。この世界が1周目か2周目か、あるいはどちらでもないかを見極める」と書き込んだ。

 カトリーヌが早々に王太子の婚約者となるかどうかは大事な見極めどころだし、他にも原作の挙動と比べてカトリーヌやその周囲がどうなっているかは要確認だ。

 正直なところ、こんな片田舎で得られる情報もそう多くはないだろうけれど、できるだけ情報を探って状況を見極めていくしかない。


「つまり、『高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処する』といったところかな……」


 日本の誇るスペースオペラの名作の台詞を引用してみてから、私はその台詞に対する返答——『要するに、行き当たりばったりということではないかな』を思い出して私はガックリと肩を落とした。本当にその通りだ。しかも、その台詞から始まる大侵攻で大々的な敗北を喫することまでをも思い出して、その縁起の悪さにもますます肩を落とすしかなかった。

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