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異世界スローライフ誌編集長  作者: やしゅまる


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第39話「雑誌よ各地へ」

翌朝、村の集会所の机の上には、厚みのある冊子が積み上げられていた。澪と子どもたちが夜通し書き、アルトやエマが挿絵や図を添え、カインの型を文章に落とし込んでまとめたもの――それが暮らしの知恵の最新刊だった。

 表紙には子どもが描いた太陽と「光の村だより」という文字。粗削りだが、不思議な力強さを放っている。


 澪が一冊を手に取り、深く息を吸った。

 「戦いの記録も、再建の様子も、ちゃんと残せた。これが、私たちの声だよ」

 周りで子どもたちが胸を張る。

 「僕が挿絵描いたんだ!」「あたしはページを綴じたの!」

 カインは雑誌を手に取ると、自分の型を紹介するページを見て眉をひそめた。

 「……似てねぇ。俺はこんな格好つけた顔してねぇぞ」

 「似てる似てる!」と子どもたちが笑い、広場に笑い声が広がった。


 そんな賑やかな空気を割って、ガラガラと荷車の音が近づいてきた。

 「おーい! 村のみんな!」

 声に振り向いた村人たちが一斉に顔を輝かせる。

 「サミュエルだ!」


 埃まみれのマントを羽織り、瓶や布袋を積んだ荷車を引く商人サミュエルが、いつもの調子で現れた。

 「お前ら、領主を倒したんだってな! 聞いてびっくりしたぜ。まさか本当にやっちまうとはな!」

 村人たちが駆け寄り、口々に「久しぶり!」「無事だったか!」と声をかける。


 澪は胸を張り、雑誌を差し出した。

 「これが、私たちの戦いの記録。サミュエル、あなたにお願いがあるの。この雑誌を、各地で売ってほしい」

 サミュエルは受け取り、ぱらぱらとページをめくった。戦いの記録、倒壊した家を直す図解、子どもたちの笑顔の挿絵。やがて彼は真剣な表情になり、静かに言った。

 「……いいな。これは“物”じゃなく“声”だ。困ってる人に届けば、きっと希望になる」


 その言葉に、村人たちの目が潤んだ。


 ふと木工職人のエマが笑って言った。

 「そういやサミュエル、あんたがくれた瓶入りのスライム、あれでどれだけ助かったか! 落とし穴に落ちた兵士に投げたら一網打尽だったよ」

 カインも頷き、口角を上げた。

 「ああ。兵士どもが手も足も出なかった。……お前の商売は侮れねぇな」

 サミュエルは肩をすくめ、にやりと笑った。

 「商人ってのはモノを売るだけじゃない。縁をつなぐのも仕事さ。俺が運んだのは、ただのスライムじゃなくて、お前らの“つながり”だったのかもな」


 村人総出で雑誌を束ね、荷車に積み込む。子どもたちが真剣な顔でサミュエルを見上げた。

 「サミュエル! ちゃんと売ってきてよ!」

 「たくさんの人に見てもらって! うちの村、すごいんだって!」

 サミュエルは胸をドンと叩き、頼もしげに答えた。

 「任せろ。お前たちの村の名は、俺が広めてやる!」


 出発の準備が整う頃、村には新しい日常が広がっていた。

 広場ではカインが若者たちを前に「腰を落とせ、腕は振るうんじゃねぇ、流れを感じろ!」と指導している。

 少し離れた場所ではアルトが光の魔法を小さな光球にして子どもに渡し、「魔法は怖がらせるためじゃなく、助けるためにあるんだよ」と教えている。

 家の前ではエマが梁を組み直し、仲間たちと笑い合っていた。

 澪は膝にノートを広げ、次号の下書きを進めている。


 サミュエルが荷車を引き、村の出口に向かうと、村人たちが一斉に手を振った。子どもたちは荷車を追いかけて走り、「気をつけて!」「また来てね!」と声を張り上げる。

 カインが小さく呟いた。

 「これで……俺たちの声は広がっていくんだな」

 その隣で澪が微笑んだ。

 「うん、もう一人じゃない。サミュエルだって、仲間なんだから」


 ――数日後。


 遠い町の市場の真ん中で、サミュエルは荷車から雑誌を広げ、声を張り上げていた。

 「新刊だよ! 一つの村が、自分たちの力で領主を倒した物語だ!」

 人々が群がり、雑誌を手に取る。疲れた顔に光が差し、希望の色が浮かんでいく。


 ナレーションが重なる。

 「村の物語は、サミュエルの手で各地に広がり、やがて新しい光となった」


 こうして、村の声は国中に届き始める。剣でも魔法でもなく、人と人をつなぐ言葉と心によって――新しい時代が動き出していた。


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