ポンコツ幼女神の魔法講義録〜農作業に魔法を使ったら楽……出来ませんでした〜
その日は珍しくまとまった雨の降る日だった。
このところずっと晴ればかりで世間では水不足のニュースが流れ、節水を呼びかけるアナウンスの車が走るのを毎日のようにみていたので少しばかりホッとしていた。
「はーっ、やっと雨が降ってきたか。これでしばらくは畑の水やりに追われなくて済むぞ」
都心はずれのベットタウン近くで農業を営んでいた僕は降り注ぐ雨の音を聞きながら畑に植えられた野菜たちを見まわすと久しぶりの雨をその葉に受けて喜んでいるようにみえる。
「路地野菜はいいとして明日には市場に野菜の納品が控えているからハウスの中から収穫しておこう」
僕はそうつぶやくと収穫道具を持ってハウスへ行くために傘を開いたそのとき。
ぴかっ! ガラガラガラ!
「うおっ!? 雷か? こいつは近いぞ、頼むから停電にはなるなよ」
雷の音にびっくりしながらも僕はさっと道具倉庫から飛び出して 倉庫から100メートルほど離れた場所に建てられているハウスにむかいダッシュをかける。
ぴかっ! ガラガラガラ!
「うわっ! まじで怖いな。
本当に雷だけは勘弁して欲しいよ」
僕は空にむかってブツブツ言いながら走るが前向きにさしていた傘が一瞬の突風にあおられて舞いあがった。
「あっ! くそっ傘がとばされちまったらずぶ濡れになるじゃないか!」
僕は空高く舞いあがった傘を雨の中で見上げたが早々に諦めハウスに逃げ込むために走り出した。
「あと少し……100メートルって近いようで以外と遠いんだよな、世界的な陸上選手ならば10秒もあればたどり着くだろうけど」
世界的な陸上選手が野菜の収穫道具を抱えて走るわけではないのだがそのときの僕はもう少し足が速ければとどうでも良いことを考えていて足元をよく見ていなかった。
「うわっ!?」
雨で視界も悪くいつも歩いているあぜ道なので僕は完全に油断しておりハウスの直前で盛大に転んでしまった。
「いってー。なんだっていうんだ、石でもあったのか?」
もともと雨でずぶ濡れに近い状態だったのに転んだせいで服も顔も泥だらけになってしまい思わず悪態をついてしまう。
転んだ原因を見るために泥だらけの顔を服の袖で拭ってみるとそれは石などではなく小さな子供が倒れていた。
「うわぁ!? なんでこんなところに子供が倒れているんだ!? やばい、思いきり蹴ったかもしれないから怪我とかしてたらどうしよう」
僕は動揺してすぐさまその子を抱えると雨を回避するために目の前のハウスへと運び入れた。
「なにか、拭くものと寝かせる敷物は……」
ハウスの中には収穫物をカゴにつめる台がありそばには野菜を磨くタオルがあった。
(とりあえずここでいいか。それよりも怪我をしていないか確認しなくては)
僕は子供を台の上にひいたタオルのうえにそっとおろして声をかける。
「君! 大丈夫か? 意識があったら返事をしてくれ!」
僕の心臓がバクバク早く鼓動するのがわかる。
(なんで? どうしてこんな子供が僕のほ場に倒れてるんだよ。これじゃなんにもしてないのに警察案件だ。警察、警察、警察……いや、まずは救急車だよ。携帯、携帯……)
僕は救急車を呼ぼうと携帯電話を探してポケットを探るが手に当たらない。
(さっき転んだときに落としたのか?)
僕は慌てて外に探しに出ようとした瞬間、また雷が鳴った。
ぴかっ! ガラガラガラ!
「うわっ!」
「きゃっ!!」
僕のあげた声に重なるように女の子の声が重なったように聞こえて声の聞こえた方を見た。
ぴかっ! ガラガラガラ!
「きゃあ! 雷キライ、雷コワイ、雷アッチいけ!!」
先ほど声かけに全く反応しなかった子供が台の上に起きあがり両耳を塞いだままそう叫ぶと身体から光が溢れてきて僕は思わず目をつむった。
「うわっ!? な、なんだ?」
目をつむっているのに明るく光るのがわかるほどだったがほんの数秒でそれもおさまり僕はおそるおそる目をひらいた。
「はーっ 怖かった。まったく不意打ちはやめてほいのよね。こんな姿を人間に見られたら女神としての威厳が地の果てまでめり込んでしまうところだったわ」
光こそ放っていなかったが空を見上げながら独り言を言う子供の身体はプカプカと宙に浮いており普通ではないことは僕の目にも歴然であった。
(この子はいったい……)
僕の存在には気がつかない様子の子供は空に向かって両手をあげて気の抜けた口調で「あめあめあがれ、おひさまきらり〜」と歌いだした。
次の瞬間、あれだけの雷が鳴るどんよりとした厚い雨雲が急に消えていき薄くなった雲の隙間から明るい太陽の光が差し込んでくる。
「は、晴れた。あれだけ土砂降りの雨が降っていたのに!?」
あまりの天気の急変に驚いた僕は天を見上げながらそう叫んでいた。
「あーっ! に、人間がいるー!」
僕の叫びに気づいた子供は今度は僕を指差しながらそう叫んで慌てて地上に降り立った。
「き、きみはいったい?」
僕は目の前でおこった現象に頭がついていかずにそう問いかけることしか出来なかった。
「うー、みたわね。あなたは見てしまいましたね。見られたからにはあなたの記憶を消して……」
涙目になりながらその子がなにやら物騒なワードを言いかけたとき『ぐぅ』とその子のお腹の音がなった。
「ぬぉっ!? これは違うのじゃ! わらわはお腹が空いて倒れていたわけでは決してないぞ。雷……雷に驚いて転んでただけの普通の人間なのじゃ、決して女神などではないぞ」
(うわっ この子、自分で女神って言っちゃってるよ。さっき僕が蹴り飛ばしたせいで頭を打って妄想の世界に浸ってるんじゃないだろうな。それとももともと天然系の思考の持ち主なのか?)
僕はもともと神が現実に存在しているとは思っていなかったので目の前にいる幼い子供が女神と言われても信じることができなかった。
(だけど、いま浮いていたよな。あんなの手品でもなければ現実にあるはずがないし)
僕は自分の中にある常識とたった今、目にした非現実的なことを天秤にかけて頭がこんがらがっていたが目の前にいる女の子のお腹が鳴ったことを思い出して思い切って話しかけてみた。
「女神とかどうとかは置いといて君はお腹がすいてるのかい? 残念ながらここはお店じゃなくて作物を育てるハウスの中だからあっても野菜ばかりしか無いんだけど」
「やさい……。やさいはあんまり好きではないのじゃ。特に青臭い匂いと苦味のあるものは苦手なのじゃよ」
「青臭いのが苦手ならそうだなこれならどうかな?」
僕はそう言ってハウス内に栽培している真っ赤なイチゴを2つばかりもいで幼女に手渡した。
「これはなんじゃ?」
幼女は受け取ったイチゴを眺めながら匂いを嗅いでみるがなんとなく甘い匂いがして僕に「食べてもよいのか?」と聞いてくる。
僕は「どうぞ、手元の緑のヘタは食べないように」と言って笑いかけた。
「はむっ」
幼女は大きめに品種改良されたイチゴをほおばるとたちまち目を輝かせて夢中にイチゴにかぶりついた。
「うまい! こんなものはじめてじゃよ。もっとないのかえ?」
そんな幼女を僕は微笑ましく感じてもう数個イチゴを渡す。
「うほほっ。地上にはこのようなうまい食べ物が存在するのか。これは是非とも天界でも栽培できないか検討してみなければ……」
イチゴをリスのように頬張りながら幼女がそうひとりごとをつぶやくが僕はそれには気が付かないふりをして嬉しそうにイチゴを食べるのを眺めていた。
「うむ。わらわは満足したぞよ」
結局その幼女は子供の握りこぶし大のイチゴを10個ばかり食べきったあたりで満足してふわふわと空中に浮かびだした。
(あー、やっぱりこの子は人間じゃないのか。それか僕が夢をみているだけなのかもしれないけれど)
僕がそんなことを考えていると幼女が急に光を放ちだして光がおさまると彼女の背中には真っ白な天使の羽が生えていた。
「わらわは大変満足したのでお礼に魔法を授けようと思う。どんなものでも良いとは言えんがおぬしの仕事を手助け出来るものが良いだろうと考えておるのでなんでも困ったことがあれば言ってみるとよいぞ」
幼女は無い胸を張ってそう宣言をする。
「魔法……? それってなんでも出来るのか?」
「もちろん! と言いたいが魔法にも限界はあるぞ。たしかにあまり複雑なものは出来んが普通は人間にはつかえん魔法だから存分に味わうがよいぞ」
(ふむ。機械の上位バージョンってところかな?もし本当ならば手間でしょうがなかった除草作業や収穫作業があっという間に終わったりするんじゃないのか? ものは試しだ、頼んでみるとするかな)
僕はそう考えてぷかぷか浮かぶ幼女にお願いしてみることにした。
その結果がどうなるかなど全く考えもせずに……。
「では、この作物の間から生えているたくさんの雑草をすべて抜いてもらえるか? 抜き取った雑草はこっちのゴミ置き場に置いてもらえればいいから」
僕はハウスから出ると隣の畑に植えてあるにんじんを指さしてそうお願いをした。
「出来る?」
「そんなの簡単だよぉ。くさ、くさ、みどりのくさぜんぶ、ぜーんぶぬけちゃいなさーい」
幼女は歌か呪文かわからないがクルクルと踊りながらそう宣言をする。
「本当にそんなので草抜きができるのか?」
半信半疑に幼女を見つめていた僕はその身体が光を帯びてその指先から一筋の風が舞ったと思うとにんじん畑に突風がふいた。
すぽぽぽぽぽぽん
その風と共ににんじん畑の草という草が空に舞い上がるのが見えた。
きれいなオレンジ色に染まったにんじんと共に……。
「ぬわっ!? に、にんじんが! まだ収穫するには早すぎる小ぶりのかわいいにんじん達がぁ!!」
とさとさとさ
魔法による風が収まったときにはにんじんの植えてあった畝の上には草の芽一本も生えておらず見事なまでの除草ぶりであった。
「どうじゃ? わらわにかかれば草を取り除くことなど造作もないことじゃよ。ん? どうかしたのかえ?」
「あ、あ、あ」
「あ?」
「あほたれがぁ!! 誰がにんじんまで抜けといったぁ!!」
草と一緒ににんじんまですべて抜いてしまった魔法に僕は思わず強烈なツッコミをいれてしまっていた。
「なによ? 言われたとおり《《みどりの草を全部抜いた》》だけじゃろ?」
「いや、みどりの草とは言ったがにんじんは抜いてくれとは言わなかったはずだ」
僕はそう言ってため息をついたが、抜けてしまったにんじんはもとには戻らないので諦めて草置き場に飛ばされたにんじんを拾いあつめた。
「ゔー。もう一回、もう一回わらわにやらせてほしいのじゃ。今度こそうまくやるから」
「え? もう十分手伝ってもらったから他はないんだけど」
正直いっていまのを見てしまったらほかの仕事を頼む気にはなれないのが本音なのだが……。
「うーん。ならば今から僕がかぼちゃの収穫をするからそれをカゴに入れて倉庫に運んでもらえるかな? 結構重いから運んでもらえるならば助かるけれど」
「そんなことで良いのか? 簡単なことじゃ」
「じゃあ収穫するまでは少し待ってて欲しい」
僕はそう言ってかぼちゃ畑からかぼちゃをひとつずつ丁寧に切り取っていった。
「ほほう。これは立派なもんじゃの。しかし、硬すぎてとてもではないが歯がたたぬ。これはどうやって食べるのかの?」
僕の収穫する横で幼女はかぼちゃをつついたり叩いたりしてみるがその硬さにいきなりかぶりついたりはせずに僕に食べ方を聞いてくる。
やはり食べものに対する好奇心は相当なのものなのだろう。
「かぼちゃは生で食べることはほとんどなくて大抵は適当な大きさに切り分けて煮るか焼くか揚げるかをして食べるのが一般的だね」
「ふむ。焼けば食べられるのか? どれ、ひとつもらっても良いかの?」
「まあ、ひとつくらいは構わないけどひとりで食べるならば小ぶりのやつを選んだほうが良いだろう。コイツなんか良いんじゃないか?」
僕はそう言って本来の出荷用サイズのふたまわり小さいものを幼女に渡した。
「火炎」
僕からかぼちゃを受け取った幼女はそのかぼちゃを宙に浮かせたまま火の魔法を使ってその場でかぼちゃを丸焼きにする。
「うおおおっと!?」
目の前でいきなり火の球がかぼちゃを包み込んだ光景に僕は思わず声をあげ、その場に尻もちをつく。
「頼むから火の取り扱いは気をつけてくれよ。施設を焼かれたら商売あがったりになるからな」
火は魔法のためかすぐに消え、真っ黒になったかぼちゃがふよふよと浮かぶシュールな光景にあぜんとしながらも「これだけ焦がしたら炭の味しかしないんじゃないか?」と味の心配をしていた。
「とりあえず切ってみるか」
僕は真っ黒になったかぼちゃを手にとり大ぶりの包丁でかぼちゃをふたつに切り分けてみる。
「おお? 思ったよりも簡単に包丁が入ったけれどもしかしたら中はいい具合に焼けているのか?」
包丁は本来のかぼちゃの硬さを無視してすんなりとその実を切り裂いていく。
すぱぱぱぱぱ
きれいに切りそろえられたかぼちゃのスライスがこれまた奇麗な皿に並べられた。
「ほほう。これは美味しそうだの。どれ、味見をしてやろうかの」
幼女はそう言ってかぼちゃのスライスをほおばった。
「これは美味い! ほどよい甘みとホクホク感がたまらん」
「それは良かった。では、これを食べたらもう帰ってもらえますか?」
僕は夢中でかぼちゃスライスを食べる幼女にそういって笑いかけた。
「む、それはできん相談なのじゃ。なぜならば帰る場所への帰り方がわからんからじゃ」
幼女はかぼちゃを食べる手を止めることなく何でもないようにとんでもないことを言い出した。
「マジかぁ! だけど僕にだって都合ってものがあるからずっと君の面倒をみることは出来ないよ」
「そう言うな。おそらく神力の不足が原因だと思うからお腹いっぱいになればもしかしたらなんとかなるかもしれん」
「それはどのくらい食べればなるもんなんだ?」
「それはわからん。とにかくもっと美味いものを希望する」
「うーん。甘みのあるものでまだ畑に植えてるものってあったかなぁ……」
僕はどうにかして帰ってもらうために次なる食べ物を探し始めた。
「オクラ、アスパラ、パプリカ、きゅうり、ナス、トマト、玉ねぎ」
圃場に植えてあるものを片っぱしから思い出すが甘みのあるものが思いつかない。
「のう、あそこにあるしましまの丸いものはなんじゃ?」
ぽこのその一言で僕は自分で食べるためだけに植えていたスイカのことを思い出した。
「あれはスイカといって皮は食べないけれど中の赤い実は美味しく食べられるものだよ。ただ、これは売り物にするつもりではなかったので僅かしかつくってないんだ」
「そんなに美味いのか? ならばたくさん食べれるように大きくして食べようぞ。そら、おおきくなあーれ」
幼女が気の抜けたような言葉を唱えると目の前のスイカがみるみるうちに直径2メートルくらいまで大きく成長した。
「これならばお腹いっぱいになるやもしれぬな」
「――たしかにこれならなるかもしれないけれど、先にお腹をこわさないか?」
僕がべつの心配をしてるそばから風魔法でスイカを切り分けて目を輝かせながら口にい頬張った。
――数十分後にはすっかり皮だけになったスイカの残がいが転がるだけになり満足気な幼女の姿だけが目の前にあった。
「ふぁあ、満足したのじゃ。これならばなんとかなるやもしれん」
幼女はそう言うとまたよくわからない歌を歌いだした。
「私の身体は重いけど気持ちと魔力はまんたんだ。あがれあがれてんまであがれ」
歌う最中から幼女の身体が光を帯びて宙へと舞い上がる。
「うむ。そなたのおかげで魔力が戻ったようじゃ。なんとか元の世界に戻れそうじゃから礼をせねばならぬな。なにがよいかのぅ」
幼女は宙に浮いたまま少しの間考えていたがニンマリと笑って言った。
「そうじゃ。さきほど見せた3つの魔法を使えるようにしてやろうぞ。われは失敗したがうまく使えば役に立つやもしれん」
ぽこはそう言って手のひらから光の玉を生み出し僕へ向けて投げつけた。
「うわっ!?」
僕は反射的に目を覆ったが光の玉は僕を包み込んだようで閉じたまぶたをすり抜けて光を感じていた。
ものの数秒で光は消えたらしく僕が目を開けるとそこにはぽこの姿はなくなっていた。
「白昼夢でもみていたのか?」
僕はそうつぶやいて気を取り直そうとしたが側に落ちていた巨大なスイカの皮の残がいに現実であったと認識した。
『――さきほど見せた3つの魔法を使えるようにしてやろうぞ』
「まさかな」
(この現実世界で魔法など存在出来るわけないだろう)
僕はそう自分に言い聞かせながらも試してみたくて思わず叫んでいた。
「くさ、くさ、みどりのくさぜんぶ、ぜーんぶぬけちゃいなさーい」
(うわっ 中二病か僕は……)
だれも見てないことにほっとした僕はふと目の前のカブ畑に目をやると。
すぽぽぽぽぽぽん
さきほどニンジン畑でおこった事と同じことがカブ畑でもおこった。
「うわわわわっ!? 僕のカブ畑がぁ!」
本当に魔法が使えたことよりも大事に育てていたカブがすべて抜けてしまったことに衝撃をうけて僕はその場に呆然と立ちつくしていたのだった。
「つ、つかえねぇ。これは永久に封印だな」
その惨状を見て僕はそう固く誓ったのだった。
◇◇◇◇◇
それからちょうど1年後、結局魔法は力加減がうまくいかずに使えない魔法としてすっかり忘れて本来の農作業に精をだしていたときのことだった。
「クソっ 急に大雨なんか降るんじゃないよ。早くハウスを閉めないと大切な作物が傷んでしまう」
僕は急に降り出した大雨の中をハウスに向かって急いでいた。
『ピカッ ガラガラガラ!』
「うわっ 雷まで鳴ってきやがった」
そう叫びながら走る僕の目の前にいつかと同じ光景が飛び込んできた。
「雷コワイ! 雷キライ! 雷アッチイケ!」
なんだか懐かしい声が聞こえてくる。
「くもくもひらけ、おひさまみえた!」
その声がするとほんのいままで雷をともなう大雨だった空がぽっかりと雲を飛ばして太陽が顔をだした。
「すげぇ……。以前よりも力があがってないか?」
そこにはお腹いっぱいになり満足した表情で天に帰っていったはずの幼女が天に手を拡げた格好で立っていた。
「……なんでまたここに来たんだよ?」
僕はその懐かしさを感じながらも幼女にそう問いかけるとひとこと「またお腹空いちゃったから会いに来ちゃったのだ」と満面の笑みを見せながらそう言った。
「し、仕方ないやつだな。いいぜ、今年は君でもたくさん食べられるものを植えてみたんだ。気がすむ……いや、腹が納得するまで食べていけ!」
僕はそう叫びながら幼女神の手をひいて畑へと走りながら幼女神に問いかけた。
「そういえば君の名前を聞いて無かったな。教えてくれるかな?」
「わらわにはこの世界での名前など無いのじゃ。良かったらおぬしがつけてくれぬか?」
「そうだな。魔法がポンコツだから『ぽこ』ってのはどうだ?」
「誰がぽんこつじゃあっ!!」
「わははははー」
ぽこの魔法ですっかり晴れた空の下で僕は大声で笑った。
― 完 ―