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相変わらず店内には、原色を配した派手な器たちが、所狭しと陳列されている。
(やっぱり面白い)
一見すると派手な器だが、その一つ一つには模様が描かれており、一つとして同じものはない。
動物モチーフの柄が多く、そのどれも目がとても印象的だった。どの商品も、カメラ目線というのか、こちらをギラリと睨みつけている。それでいて威圧感はなく、商品の絵柄と目が合うと、なぜか親近感が沸いた。
まるで旧知の間柄のような、
(いえ、違う、)
目が合う商品の一つ一つが、自分を受け入れてくれているようでもあったのだ。
自分を見つけ、まるで「私はあなたのバディだよ」と言わんばかりに。
(この子達は、なんて自己主張が激しいのかしら)
ふふ、と意図せず笑ってしまった。
「…あら、」
そんな店内の片隅に、小さな土鈴のチャームを見つけて弥栄は思わず手に取った。
色は派手だが、軽く揺らすと、土鈴はカランコロンと控えめに鳴る。
(可愛い)
目を細め、慈しむような笑みが漏れた。
真っ黄色の小さな土鈴には、真っ赤で不細工な猫が描かれている。真っ直ぐこちらを睨みつける猫は、例に漏れず強い意志を抱いているようだった。
(…素敵。)
細かな筆遣いのとても丁寧な仕事だと思った。
「よし、」
小さな土鈴と、以前の来店時に気になっていた真っ赤なカフェオレボウルを手にしてカウンターに向かう。
「こ、これを、」
少し緊張しながら商品をカウンターに置くと、女店主はどこからか計算機を取り出してカタカタと叩き、
「はーい、2750円ですねー」
領収書を切った。
「あ、じゃあこれで、」
弥栄が3000円出すと、再び女店主は計算機をカタカタと叩き、
「おつりは、えっと? 250円ね、」
いそいそとバックヤードへ引っ込んで、おつりを用意した。
「………」
女店主の一連の所作に、弥栄は軽く驚いていた。
(…えっと、)
おつりをトレイに乗せて、それを弥栄の前に差し出し、商品を包みだした女店主のすべての動きがあまりにもぎこちない。
(…まさか、)
弥栄の心に疑念が満ちる。
この女店主は、恐ろしく接客業に向いていないのではないか。
「…ふふふ、」
弥栄は思わず笑ってしまった。
「え? なに? なんで笑うのよー」
商品を丁寧に包んでいる女店主が、その手を止めて顔を上げる。強すぎる眼力が少し歪んでいるのは、自分の不手際を自覚しているからなのだろう。
「あの、家で使うので、そんなに丁寧に包装してくださらなくても大丈夫ですよ」
弥栄は微笑みながら労をねぎらうように声を掛けると、女店主は「アハハ」と笑った。
「気を使わせた? ごめんごめん、アタシ、不器用だろ、ほんと、お金の計算とか梱包とか、苦手でさー」
雑貨店店主らしからぬ発言に、弥栄も思わず声を立てて笑う。
「致命的ですね」
「だろー、そうなんだよー。事務仕事がからっきしで、計算もできないしさ、ホントはネット販売とかしたいけど、パソコン仕事も苦手でさー」
「でも商品はとても素敵ですよ」
「だからそれしかできないんだってば。前にも言ったでしょ」
女店主が以前の来店時を覚えていたことに弥栄は驚き、血が頬に集まっていくのがわかった。
「はい、できたよ。前にも見てくれてたね、このカフェオレボウル。やっぱりカフェオレ好きなんだねー」
英字新聞で手作りされたエコバッグに商品を詰め込み、笑いながら女店主は弥栄にバックを差し出した。
「………」
それをそっと受け取る弥栄は、泣きそうな顔をしていた。
接客業に向いていない女店主は、とても人の心に寄り添う接客をする。
「…もっと、ここに来たいから、」
いつでも開けててください、と声にならない声で弥栄が訴えると、自信がないから、と、女店主はカラカラと笑った。