社畜勇者と魔王の転職相談
勇者・田中は、今日も定時を過ぎたギルドの執務室でため息をついた。
「魔王討伐、全然終わらねえ……」
彼が勇者に選ばれてから五年、魔王軍の勢いは衰えず、むしろここ最近は書類業務ばかりが増えていた。
「勇者様、この決裁印お願いします」
事務員のエルフがそっと山積みの書類を置く。
「もう俺、戦うより書類書いてる方が長いんだけど」
「人手不足ですからね」
この国の官僚機構は完全に崩壊していた。
魔王を倒せば終わる、そう信じていた日々は遠く、今や魔王もブラック企業の社長のごとく、頻繁に業績改善策を打ち出している。
そんな中、勇者・田中のもとに一通の手紙が届いた。
「勇者様へ。近日、お話ししたいことがございます。お手隙の際に魔王城までお越しください。 魔王」
「魔王から招待状が来た……?」
奇妙な話だ。
だが、彼は魔王城へ赴くことにした。
魔王城に到着すると、意外にも魔王は普通のオフィスで待っていた。
「おお、よく来たな、勇者よ」
「いや、なに普通に出迎えてんの?」
「実は、転職を考えておる」
「……は?」
「いやな、もう魔王業も限界なのだ」
魔王は深いため息をついた。
「ブラックすぎる」
「わかる」
「毎日、部下の管理、資材の調達、人材の採用、戦略会議……」
「俺も似たようなもん」
「最近は勇者も働きすぎて、魔王討伐が業務みたいになっておるし」
「そうなのよ!討伐って、月末にまとめてやる仕事じゃないのに!」
二人はブラックな労働環境について熱く語り合った。
そして、意気投合した結果——
「俺たち、一緒にこの世界から逃げないか?」
「いいな、それ」
こうして、勇者と魔王は共に新しい人生を模索し始めた。
まずは転職サイトに登録することから始めた。
「この職歴、どう書けばいいんだ?」
「俺は『魔王』でいいだろうが、お前はどうする?」
「『勇者(対魔王業務五年)』……いや、なんか転職市場では弱そうだな」
悩む二人。
とりあえず、求人を見てみると——
「『勇者経験者歓迎! 未経験でもOK! 社会貢献度の高いお仕事です』……絶対、またブラックだろ」
「こっちは『魔王のリーダーシップを生かせる職場!』……うさんくさい」
二人はしばらく黙り込んだ。
「……やっぱり、独立するか?」
「いいな、それ」
こうして、新たなビジネスを立ち上げることを決意した二人だった——。
新規事業のコンセプトを考えながら、二人は街のカフェに向かった。
「まず、俺たちに何ができるか考えよう」
「戦闘経験は豊富だから、傭兵業?」
「いや、それだとまたブラックだ」
「じゃあ、異世界ツアーガイドとかどうだ?」
「いいな!異世界の文化を紹介する仕事なら楽しくやれそうだ!」
こうして「勇者と魔王の異世界観光案内所」が誕生した。
しかし、初日から問題が発生した。
「魔物がガイド対象に襲いかかってるんだけど!」
「いや、俺たちが倒すと観光要素がなくなるぞ!」
「じゃあ、適度に追いかけさせてスリル体験ツアーにするか?」
「それだ!」
こうして、スリル満点の観光ツアーは大人気となり、二人の新しい人生は意外な形で軌道に乗り始めた——。
次なる企画として、二人は新たなサービスを考えた。
「やっぱり、異世界グルメも大事じゃないか?」
「確かに。旅の醍醐味は食事だしな!」
こうして「異世界食べ歩きツアー」を開始。
「今日のメニューはスライムの唐揚げです!」
「おお、意外といけるな」
観光客にも大好評。
その後も「勇者と魔王のビジネスコンサル」「魔王の魔法講座」など新事業を次々と展開し、二人は世界一忙しい元勇者と元魔王になってしまった。
「……結局、働きすぎじゃないか?」
「俺たち、転職に失敗したかもしれん」
かくして、勇者と魔王の終わらぬ労働の日々は続くのであった——。
タンペン…ムズイ…(Part2)