表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/34

自分のやりたい事


「姉さん、クラウディオは何の用だったの?」

「ヘクソン伯爵のお茶会のパートナーについて聞かれたわ。クリスと参加するって言ったら帰って行ったけど」

「そう……」


 何がしたかったのかしらね? なんて態度の私に、クリスはそれ以上何も聞いてこなかった。

 ……今までのクリスの反応を考えると、クラウディオが私を好きなのには気付いてたのでしょうね。第三者から見たからこそすぐ分かってたのかしら。

 けど私が苦手に思ってるのを分かってて、クラウディオとの仲を取り持ったりはしないで私の味方でいてくれていた。ほんとに良く出来た弟だ。


 両親、とくにお母様は変に私達をくっつけたがってる所あるからね。悪気がないのは分かる。魔力なしの私は実際、ろくな嫁ぎ先は無いから心配してるのだろう。

 だったらちょっと態度に難はあるけど、クリスティーナを好きみたいだし、幼馴染の彼に嫁ぐのが一番良いのでは……って思ってる感じよね。

 しかし私はそんなのお断りだった。


「でも……実際問題、クラウディオとの結婚をただ回避しても……もっと嫌な結婚が待ってるだけなのよね」


 クラウディオと結婚するのは嫌だけど、そっちも嫌だ。というか結婚自体したくない。だって、魔力なしって蔑まれている私にまともな結婚相手が出来るわけがないもの。この世界で十四年以上生きているからこそよく分かる。


 もしかしたら将来私の魔力の事なんて本当に全く気にしないで、「この人と家族になりたい」ってお互い思える人と出会えば考えも変わるかもしれないけど……あるかも分からない可能性の話なので置いておく。

 自分の部屋に戻った私は自分のこれからの行動について具体的に考えていた。


 結婚しないって選択するなら、最低限「一人で生きていける」と示す必要がある。つまり金銭的に問題ないと示せないと理解を得るどころの話ではない。しかしそこさえちゃんとクリア出来たら、私が心底嫌がる事を無理矢理させたりしないと思うのよね。


 お父様もお母様も、私が心の底から拒絶してたら無理に結婚させようとはしない方達だと思う。村の薬師の所で働くのだって強く反対されなかったし、この世界の「普通」と比べると、かなり理解があるタイプだろう。周りの貴族はヒソヒソすると思うから、そこはちょっと申し訳ないけど……。


 一応、前世を思い出す前の私も、似たような結論にたどり着いてはいた。将来の金銭的な問題がないと示して、クラウディオとの結婚を正式に断りたい、と。


 同時に、クラウディオのこれまでの言動を思い出す。今思うと、今日みたいに私から婚約して欲しいと言わせたかったのよね、今までのあれって。「幼馴染が不幸になるのは忍びないから、どうしてもと言うなら嫁にもらってやらなくもない」なんてよくごちゃごちゃ言っていたわね。でも婚約を申し込まれた事自体は一回もないのよ。


 ちなみに私はクラウディオには発言の通り嫌われてると思ってたので、魔力なしをもらってやったと我が家に恩に着せたいのだろう、結婚したら私は一生虐げられるんだろうなって思っていた。


 本音が分かるとマジで腹立つわね。

 だからあの男と婚約はしてないけど、今後もするつもりは無いと家族にははっきり意思表示する必要はある。そしてその時に、口だけではなくて……こうして一人でも生きていける、金銭を稼ぐ手段も手に入れてるのだと見せないといけない。


 以前の私は頭を何とか絞って、手に職を……と考えて、我が家が治める村の薬師の工房に弟子入りをしていた。でもそれだけで将来食べていけるとは私も思ってなかった。新しく薬師を名乗っても需要は無いし、村の人達にとって貴重な働き口を私が奪って跡を継ぐ訳にはいかないし。そして他の土地では、伝手も資金もないので店も開けない。

 行き詰まってたのよね。


 しかし今の私には、前世の記憶がある。

 この世界にはまだ存在しない商品のアイディアがいくらでも。それを作って売れば、絶対儲かるわ。それに、新しい需要を産むわけだから、誰かの商売の分け前が減る事もない。


 私は化粧品について「将来オリジナルブランドを立ち上げたい!」と製造の事も調べてたので、役に立てられる知識も多い。OEMっていう……化粧品の開発・製造を、他の化粧品メーカーに委託して作る方法もあるんだけど。私はいつか自分で化粧品を一から作りたいって思って、化粧品製造業の許可を取る事も考えていた。


 そのために必要だから、成分の事や化学についてもかなり勉強したし。まぁ、この世界と物や成分の名前は全部違うけど参考にする事は出来るでしょ。こちらの薬師としての知識はあるし。

 それに、私がこの世界でも再現出来そうな……詳しい作り方まで知ってる物というと、化粧品関連のものしかないからね。


「でもそれをするための資金がないのよね……」


 弟子入りして得たこの世界の薬師の知識と、前世の記憶の中の知識を合わせると、売れそうな商品のアイディアがいくつか浮かんできた。

 しかし、まず道具と材料を揃えて実際ちゃんと作れるのか試さないとだし、売る商品をある程度たくさん作らないとだけど……そもそもそのお金がない。


 それに、商品が完成してからも問題だ。この世界には特許とか知的財産権なんて無いので、売れる商品を作っても他の所にそのまま丸パクりされる危険が全然ある。

 そんな事したらやったお店の評判は悪くなるだろうけど、うちより大きい貴族とかに開き直って商品を真似されたら何も打つ手がない。それを防ぐには大きな貴族に後ろ盾になってもらって、「これはうちが発明した商品ですよ」と宣伝するしかないだろう。


 でもそんな大きな貴族に頼みを聞いてもらったら一体いくらかかるか。儲けがなくなるどころか……うーん、一歩間違えたらアイディアだけ盗まれて終わり、とかなりそう。


 理想は、製法が分からない……真似されない商品を作る事かしら。それでいて、私一人で作れる量で十分な利益が出る、という条件も必要だ。

 当然だが、全てを解決する魔法のような商品のアイディアはないので、現実的にやっていくしかない。


「まずは、お金をかけずに何とか試作品を作らないと」


 何せうちにはお金がない。普段からまぁある訳ではないけど、今は……来年クリスの魔法学校入学があるから、特に。

 というか、このままでは入学金が足りないかもしれない……と両親は絶賛顔を青ざめさせている。そのくらいのピンチだった。そこに、確実に儲かるか分からない商品開発に投資して欲しいなんて言えない。


 まったく。貴族子息は必ず通わなければいけない、義務だって言うなら学費は無料にして欲しいわね。

 もちろん私達も金策には協力していたわよ。クリスは隣街の本屋に依頼された翻訳を、私は弟子入りしてる薬師に買い取ってもらう素材を採りに森に。あとは刺繍の内職もしている。


 実はさっきも、何か売れるものはないかとお母様が探し物をするのを手伝っていたのよね。しかし残念ながら嫁入りの時に持ってきためぼしいものは三年前の不作の時に売り払ってしまってて、金策の当てに出来そうにはないという結論になったけど。

 私が前世の記憶を取り戻したのはその最中、「これは私のお母様からもらった古い化粧道具なんだけどね」と見せてもらったのがきっかけだった。大好きだったお化粧の事を思い出して、自分を取り戻したような気持ちだ。


 でもこの世界には、ろくな化粧品がない。うちが裕福じゃないからってだけじゃなくて、そもそも存在しないの。


 白粉は真っ白なものだけ、肌の色に合わせたファンデなんて無い。口紅も前世みたいなカラーバリエーションはほぼゼロ。炭や黒鉛を削って油に溶いて眉やアイラインを描いたりしてるだけ。

 アイシャドウはごく一部の裕福な貴婦人が宝石を削った粉を塗っているとか、そんな世界。

 せっかくもう一度人生を生きるなら、もう一回好きな事を思いっきり楽しみたい。でも今ある化粧品は高価すぎるし、前世の記憶のある私には到底満足できないものしかない。

 なら、自分の納得する化粧品を自分で作るしかないわよね。


 記憶を取り戻したのはこのためだったのかもしれない。

 前世の知識を使って、この世界で売れるような商品を作る。それを売ってクリスの学費を稼ぐ。それを以て「この方法でお金を稼いで自立できます」と示して、婚約も結婚もしないで生きていく。全部解決しちゃうわ。それが出来るようにって神様が前世を思い出させてくれたのかもね。


「そうと決まれば明日は朝から森に行きましょう」


 今の私でも作れそうなもの。そして売れるもの。まず最初に作るものは決めた。早速一つ目の商品の材料探しに行こう。

 もちろん薬師のトトラさんに頼まれてる素材採取も忘れずにこなさないと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ