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そうして「お母様を探してくるわ」と席を立った四人を見送った。もしかしたら、彼女達のお母様達も顧客になるかもしれないわね。渡す試供品は何個あったかしら。さっき反省したばかりだと言うのに、私はまた楽観的な想像をしてニマニマしてた。
しかし、その幸せな気分壊すように、今一番聞きたくない声が背後からかけられる。
「おいおい、化粧だって? クリスティナが?」
私は社交用の微笑の下で内心顔をしかめた。声の主はクラウディオだったのだ。
「魔力なしの黒髪が、見た目だけ取り繕ってるってバカにされるぞ。まぁ、俺は幼馴染として情けをかけて、笑ったりはしないけど」
クラウディオのからかうような言葉。以前の私ならこれで羞恥を覚えて下を向いていただろう。何回も何回もそう言われて、クラウディオの言葉が呪いみたいにしみついて、私は人と話せなくなっていた。こんな事言われたら、まるで悪い事をしてたみたいに顔を擦ってお化粧を落とそうとしてたかもしれない。
しかし、今の私には全然怖くなかった。
こいつが何でそんな事をしてたのかも何となくわかってるし。そう思い込ませて私が独りぼっちになるように仕向けてたのよね。自分以外の選択肢がなくなるように。……あー、また怒りが再燃してきたわ。
今も、私がちゃんとした友達を作って楽しそうにしてたのが気に食わなくて口を挟んできたのだろう。
「それはクラウディオ様の感想でしょう」
今までと違って反論してくる私に慣れないのか、クラウディオは一瞬ひるんだ。
「お、お前のその黒髪じゃ、いくら化粧なんてしても嫁の貰い手なんて見つからないって、無駄な努力を忠告してやってるんだ」
「別に、結婚相手を探すためにお化粧してるんじゃありません」
「じゃあ、何のつもりだよ。何にせよ、すぐ落とした方がいい。全然似合ってないぞ。ドレスだって、いつもみたいな地味な方がお前の身の程にあってるし」
似合ってない訳ないでしょ?! 自分の肌と今日のドレスの色味を考えて超選んだんだから。
いつも通りのバカにするような物言いに辟易としていた私は、クラウディオが何故いつもよりしつこく、こんなにも私に化粧をやめさせたがっているのかを考えて一つの結論に思い至った。
……ははーん。さてはコイツ、お化粧して素敵なドレスを着た私があまりに可愛いから、焦ってるのね。魔力なしとはいえ、自分以外にもクリスティナに目を付ける奴が出るかもしれない……って。
私はそれに全く気付かないそぶりをして話を続ける。
「我が家で新しく始めた事業の、化粧品の宣伝のためですわ。私は見ての通り魔力なしの黒髪ですから、結婚なんてせずに仕事をして自分の力で生きていこうと思ってますの」
「なっ……」
私が言った事がよほど予想外だったのか、クラウディオはポカンと口をあけている。
「な、何も結婚を諦めなくても、いいだろ。黒髪でもお前の事をもらってやってもいいって言う奴もいるだろうし……」
「ええ? そんな人いませんよ。いたとしても渋々結婚してもらうなんて嫌ですし。跪いて求婚されるなら、考えてもいいかもしれませんね」
「ッ……!」
クラウディオは面白くなさそうに下唇を噛んでいた。私がクラウディオに反抗して、自分の思い通りに動かないのが余程気に食わないらしい。
自分が私の事を好きだと気付かれたくないらしいクラウディオの事を、私は完全におちょくり始めていた。
いつもこの男に黒髪を蔑まれながら「頭を下げるなら幼馴染のよしみで婚約も考えてやってもいい」と言われていた事の、完全な意趣返しだった。ちょっとスッとしたわ。
「お、お前……調子に乗るなよ。少し変わったものが作れるようになっても、黒髪じゃ嫁の貰い手なんて見つからないぞ」
「ですから、結婚相手なんて求めてないんですってば」
私はきっぱりと言い返した。言い返す私に慣れてないみたいで、クラウディオは今にも歯ぎしりしそうなくらいに苛立っていた。
周りも見えなくなってるみたいで、声も大きくなって、話の内容に周囲の人達が眉をひそめている。そうよね、まともな感性持ってたら、貴族で魔力がないからってそれを面と向かってバカにするのは非常識だって知ってるし。
クラウディオがここまで人の目がある所でこんな事を言うなんて初めてだ。そんな事をいつもしてたなら、さすがにうちの親だってクラウディオとの婚約を考えたりしなかっただろう。
二人の時にしか見せてこない酷い態度を相談してなかったのは、魔力なしの黒髪の自分はこんな事を言われても当然だと諦めていたから。みっともない黒髪の事で親に相談して、これ以上迷惑をかけたくないとも思ってた。これもクラウディオのせいね。
「強がるなよ。商売なんてやってるのも、自分の価値を高めて嫁に行く時の条件を少しでも良くしたいんだろ。まぁ、俺だったらそんな事しなくても、考えてやっても……」
「全然違います。私は、自分の事を魔力なしの黒髪でみっともないとか、家族が可哀そうだとか、そんな嫌な事を言ってくる嫌な……嫌いな人と結婚しなくて済むように自分でお金を稼いで生きていくためにそう決心したんです!」
そう言い捨てると、私はフン、と鼻息荒く背筋を伸ばした。言うだけ言ってスッキリした私を、クラウディオがその場に呆然と立ち尽くして見つめていた。まるで雷に打たれたような表情だ。
とうとう言ってしまった。今まで親同士の関係とか、こんな事言われるのも仕方がないくらい黒髪の魔力なしは貴族令嬢として恥ずかしい事だと申し訳なく思ってたから言われるがままになって黙ってたけど、もう我慢する理由はなかった。
後悔はしていない。万が一化粧品事業が失敗しても、この男と結婚する道は選ばないもの。
「……う、嘘だろ?」
「何がですか?」
「俺の事が嫌いだなんて、そんな……」
「いいえ。私の本心ですわ。今まで家族や周りの目を気にして言えなかっただけで。自分でも気にしていた魔力なしの黒髪を何度もバカにされて、そんな人好きになりようがありませんわ!」
しっかりと、「いつもこういう酷い事を言われている」とアピールも忘れない。
私の言葉に、周囲の貴族夫人達が扇で口元を覆って「まぁ」と小さく非難の声を上げた。よしよし。これで、まともな感性をしてたらクラウディオの味方になるような人は出てこないでしょう。
「違う。だって俺は、そんなお前と婚約してやる男は俺ぐらいだって、教えてやってただけで……」
今更理由なんてどうでもいいわ。
……いえ、私に「婚約してください」って頭を下げさせたかったから、って考えると余計に腹立つわね。ここが衆人環視の中じゃなかったら一発くらいひっぱたいてたわ。
クラウディオの声は、どこか震えていた。まるで、自分が口にした言葉を信じたくないとでも言うように。
「……本当に、俺のこと、嫌いなのか?」
その問いかけに、私は一切迷うことなく頷いた。
「ええ、はっきり言いましたよね? 私は、魔力なしの黒髪だっていつもバカにしてくるクラウディオ様の事が嫌いです!」
クラウディオの顔から血の気が引いていくのが分かった。今まで何度こいつの言葉を反芻して泣いただろう。私がいかにダメな存在か、そんな女から友達になろうなんて言われたら迷惑に思うだろうなって吹き込まれて、それを信じてしまっていた。
初めての茶会の時には周囲に聞こえないように「今後ろの令嬢がお前の黒髪を指さして笑ってたぞ」「今日令息たちが魔力なしに声をかけたらどんな反応をするか当てるゲームをするって言ってたぞ、だから何を言われても真に受けて友達なんかになったりするなよ」なんて耳打ちもされた。おかげで私は茶会に出るのが怖くなって、人前に出ると言葉に詰まるようになってしまった。
だから人の目を避け、どうしても参加しないといけない茶会ではコンプレックスの黒髪を隠すボンネットを深くかぶり、いつも俯いていた。
魔力がない貴族令嬢がどんなに惨めで、それを示す黒髪がみっともなくて、存在するだけで家族に重荷になっていて。だからろくな嫁ぎ先がない私は絶対幸せになれない、友達になってくれるヤツすらいないって、ずっとそう思ってたから。
「私はあなたにこの黒髪をバカにされ続けて、ずっと苦しかった。生まれつきでどうしようもない事なのにって、惨めで、悲しくて。でも、もうあなたに何を言われてもどうでもよくなりました。だって私は、あなたに認められる必要なんてないんですから」
「へ……っ」
クラウディオは言葉を失い、口を開けたまま呆然と立ち尽くしていた。その間抜けな顔を見ていると、ほんの少しだけど気分がすっとした。こんな奴の言葉で傷付いて悩んでた過去の私、なんて可哀そうなのかしら。
私は何も言えなくなってるクラウディオを無視して、くるりと踵を返した。
「では、私はお化粧品を紹介するのに忙しいので」
それだけ言い残し、私は次の令嬢グループに狙いを定めた。ちょうど、私達のやり取りに聞き耳を立てていた三人組に声をかけた。私よりちょっと年上かしら?
「あの、お見苦しい所を見せてしまって申し訳ありません」
令嬢たちは、声をかけた私に興味津々の視線を向けてくる。目配せをしているが、でも直接クラウディオの事を聞くようなはしたなさを出す勇気はないようだ。私は自分から話題に出してあげる事にしよう。
「あの方は、私がずっと悩んでいた黒髪の事をああしていつもバカにしてくるのです。生まれつきの事でどうしようもないのに、酷いですよね。私いつもつらくって……」
「まぁ、酷いですわね」
「ほんとに」
「けど、目標が出来て、私は変わる事が出来たんです。お化粧という、夢中になれる物と出会ったお陰で、あの人の言葉で傷付くなんてもったいないって気付けましたの。良かったら、皆様も私が意識を変えるきっかけになったお化粧品を試してみませんか?」
私はクラウディオのせいで目立ったのを利用して、お化粧品のセールスに持ち込んだ。何だか怪しい青汁の紹介みたいになっちゃったけど、まぁいいか。
「ぜひおうかがいしたいわ」
「実は先ほどお化粧品を紹介されてたベルトラン子爵令嬢達を羨ましく思ってましたのよ」
私はにんまりと笑みを浮かべた。きっと、彼女達も口紅の顧客になってくれるだろう。
私達はテーブル席にうつって改めて自己紹介をし合うと、真っ白なテーブルクロスの上にさっきと同じように口紅を並べて商品のプロモーションを始めた。もちろん、特別なコーティング液のおかげで、カップに口紅が付かない事も実演してしっかりアピールする。
そうしているとなんと、説明していた彼女達が口紅を欲しがってくれたばかりでなく、周りで見ていた令嬢達からも次から次へ注文が申し込まれ始めたのだ。
私はいっぱいいっぱいになってしまって大きく慌てた。注文が殺到し、手元のメモに書き込むのが間に合わないくらいに次々に声をかけられる。
ああ、もう、スラスラ書ける前世の筆記用具が恋しいわ。木炭に布を巻きつけただけのペンはすぐ折れるし書きづらいし、手も汚れる。インクを使う羽根ペンなんて持ち歩けないし……化粧品だけじゃなくて、文房具も改革したいわね。
「ルミリエさん、私もこの口紅をお願いしたいわ!」
「私はダークレッドとピンクと両方注文したくて」
「今日注文を確定したらいつ頃手元に届けてもらえるかしら?」
「はい! 少々お待ちくださいね」
きっとすごく売れるわ、とは思っていたけどこれほど注目を集めるとはさすがの私も予想できなかったわね。
私は息をつく間もなく注文を書き留める。
「ティナ、ここにいたのね」
「まぁ、お母様。どうされたのですか?」
私が令嬢達に囲まれて注文をさばくのに必死になっているところにお母様がやって来る。そうだ、我が家の家計にも関わる事だし、お母様にも注文を記録するのを手伝ってもらいましょう。しかしそう考えた私の期待はキレイに外れる。
「こちらの皆さんが私の使っている白粉と、あと口紅も注文したいとおっしゃってるの」
「え……ええ?! 皆様全員ですか?!」
見ると、お母様の後ろにはご婦人たちが取り巻くように列をなしていた。目を爛々と輝かせ、さながら狩りをしている肉食獣のようだった。驚く事に、その中にはこの茶会を主催しているヘクソン夫人までいる。
「肌と同じ色の白粉なんて、王都の流行に敏感なわたくしも初めて見たわ!」
王都の社交界でも影響力の大きいヘクソン夫人のその言葉に、周りの女性達の興奮は更に過熱しているように見える。
「魔法のようにシミが隠せるこの白粉、わたくしもぜひ欲しくて」
「そうおっしゃっていただけて光栄ですわ。ねぇティナ」
「本当にこの白粉は素晴らしいわ! ルミリエ夫人のお悩みがこんなにキレイに消え失せて」
「ええ、そうなのです。この白粉のおかげであんなに目立っていたシミがこうしてなかったように見えなくなってますでしょう」
お母様は自分の肌を自慢するように、誇らしげに顎をツンと上げる。
そんなお母様の肌を羨ましそうに見つめる貴婦人たちに囲まれてまんざらでもなさそうな顔をして、注文受け付けを手伝ってくれる気配はなさそうだった。なんて薄情なのかしら。
「こんなに深い赤の口紅なんて初めて見たわ」
「肌色と同じ色の白粉だって今までにないわよ」
「ルミリエ夫人、これはどこで手に入るの?」
「ぜひとも私の分を確保していただきたいのですが……!」
「ええ、娘のティナに今伺わせますね」
その言葉に、貴婦人たちはますます興味を持ち、ヒートアップして私の元に押し寄せる。
「は、はい。皆様、順番にお伺いするので少々お待ちください!」
嬉しい悲鳴を上げながら、私は次々と注文を受けていった。しかし横から「他の肌の色もあるのか」とか「くすみも隠せるかしら」なんて色々聞かれたりして、作業はスムーズにいかない。
「姉さん、大丈夫? 注文を受けるんだよね、手伝うよ」
「クリス!!」
そうしててんやわんやの状況で私の頭がパンクしそうになってたところに、素晴らしい神の助けがやってきた。な、なんて出来た弟なのかしら。
「僕がお伺いしますね。注文を一人ずつおっしゃっていただいていいでしょうか」
「まぁ、クリスフォード様……」
「ええ、ぜひよろしくお願いしますわ……」
私には争うように勢いよく迫っていた女性達も、クリスの前ではしずしずと居住まいを直していた。……これで問題は解決したけど、したんだけど……。
うん、解決したからいいか。私は前向きに考える事にした。
「姉さん、試供品? ってやつを用意したんでしょう? 使わないの?」
「あ! そうだわ! 忘れてた」
そしてもまたしても優秀な弟のナイスアシストで、私は自分がすべき事を思い出して次の行動を始めた。注文はクリスが取ってくれてるから、私は私にしか出来ない事をやろう。
「ヘクソン夫人、我が家が扱いを始めた化粧品に興味を持っていただいてありがとうございます」
「ええ。最初に挨拶した時はこんな素晴らしい物を使ってるなんて気付かなかったわ」
「はい、私もご紹介できて良かったと思います。それで、もしよければ、この白粉を実際に使ってみませんか?」
「まぁ! 今使えるの?! ぜひやってみてちょうだい」
「はい、それではお手を……」
そこで私は手の甲に白粉を実演して見せる予定だったのだけど、ババンと顔を突き出して期待に満ちた表情をされてるヘクソン夫人に、実際にお顔にお化粧をする流れになってしまった。
テーブル席に移って、他の女性達の見守る中、あれよあれよと言う間に実演販売の場が設けられていく。私は注目を集める中、覚悟を決めてヘクソン夫人に向かい合った。
ヘクソン夫人は当然既にお化粧はしてあるが……今の社交界の流行りの通り白粉は極力薄め、なので色白粉の素晴らしさはこの上から使うだけで充分分かるだろう。
「特に隠したいお肌悩みに対して使うのはこちら。この色白粉を少し取り分けて、少量のクリームを混ぜて練ったものです」
蝋引きのしてある紙の中に包まれていたコンシーラーを見て、女性達は興味津々になる。初めて見る化粧品だからその反応も当然だろう。
「まずこれを隠したいところを中心に指などでそっと乗せてあげて、周囲をトントンと指の腹で優しく叩いて馴染ませます」
私は喋りながら手を動かす。ご年配の女性なら誰でも持っているシミがコンシーラーの下に隠れていくと、見ていた人達は皆「まぁ」と驚きの声を上げていった。
「この作業が終わったら、お顔全体に、お肌の色に合わせた白粉をふんわり乗せてください」
試供品の中からヘクソン夫人の肌に近い色のものを選んで、持ち込んだパフで色白粉をつける。
さらに口紅の売り込みもさせてもらおう、とお茶を飲んで薄くなっていた口紅も塗り直して、コーティング液もちゃっかり使っておいた。
「はい、こちらでお化粧のお直しは終わりです」
「ありがとう、ティナさん。ローラ、手鏡をちょうだい」
「はい、こちらに」
その声を聞いてすぐ、ヘクソン夫人の後ろに控えていた侍女の方がサッと鏡を差し出した。
そうか、化粧品を試してもらうなら鏡って絶対必要よね。我が家にはお母様の嫁入り道具の鏡台の小さな鏡しかないから、私用の手鏡を街に行った時に買わなくちゃ。
私は自分の改善点を心の中にメモしながら、ヘクソン夫人の反応を見守った。
「まあ、何これ! 真っ白に塗ってないのに、シミがなくなってるわ!」
ヘクソン夫人は先日のお母様と同様、自分の顔に目が釘付けになったまま口をあんぐりと開けた。
「シミがこんなに自然に隠れるなんて、信じられないわ。肌と同じ色だから、まるで何も塗ってないように見えるのに……」
夫人の感想が上手い。私は内心いいぞいいぞと思いながら「そうおっしゃっていただけて嬉しいですわ」なんておしとやかに答えておいた。つい得意げな表情になってしまうわね。
「この口紅も、今までにない深い赤で素敵」
「ありがとうございます、ヘクソン夫人。実はその口紅ですね、色が素敵なだけではないのです。お茶を一口飲んでいただけませんか?」
そう言うと、夫人は不思議そうな顔をしつつも給仕されたティーカップに口をつけた。
「まぁ……?! どうしてこれ、ティーカップに口紅が付かないの?!」
「はい。こちらの、我が家が開発した特別なコーティング液のおかげなのです。石鹸で洗うまで落ちませんので、塗り直しをせずに食事やお茶を楽しむ事が出来ますの」
「なんて便利なの!」
説明を聞いていた周りの女性達も皆歓声を上げた。ふふふ。やっぱりこの口紅って超需要あるわよね!
「この白粉と口紅。これはきっと、社交界に欠かせない化粧品になるわ。早速、この私の肌の色と同じ色白粉と、口紅を全色欲しいのだけど。そのコーティング液もたっぷり買わせてもらうわ」
「ぜ、全色ですか! 分かりました!」
社交界でも影響力の高いヘクソン伯爵夫人に、ここまで評価していただけるなんて。その言葉を聞いた私はとても誇らしくなった。ヘクソン夫人だけでなく、他の女性達もクリスの前に並んで次々注文を申し込んでいる。
これは確実に、学費を全部払えるくらいのまとまったお金が入って来るわね。目標は今日一日で達成できてしまいそうだった。
「次の社交シーズンに間に合うように手に入るわよね?」
「私は母とお義母さまにも贈りたいから白粉も口紅も3つ欲しいわ」
「私は姉の分も入れて4つ買いたいわ。こんな素晴らしい物を自分のだけ買ったら恨まれちゃうもの」
「は、はい! ただいま伺わせていただきますね」
「ぜひお友達にも紹介させて欲しいの。どちらに連絡したらいいかしら」
「ありがとうございます。今日以降のご注文はクリスティーナ・ルミリエ宛で手紙をいただければ対応しますわ」
化粧品を求める女性達の目はキラキラ輝いていた。こうして素敵なものが作れて、皆さんが欲しがってくれるなんて、私はなんて幸せなんだろう。
誰も、私が黒髪だから、なんて気にしてお化粧品を買うのを躊躇したりしない。クラウディオのせいだけじゃない、私は自分で自分に呪いをかけてたのね。
「今までにないまったく新しい化粧品ブランド『ルミリエ』を皆さまどうぞよろしくお願いします!」
こうして、お化粧品事業は大成功の滑り出しを見せたのだった。
✨祝・書籍化決定✨
いつも応援ありがとうございます!!
このたび、『異世界でもメイクがしたい!』が書籍化することになりました!!
発売日など詳しい情報は、また随時お知らせします~




