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はじめての港町


「わー……ここがメイソン領の港町かぁ。すごい人ねぇ」


 街の入口から、大勢の人でにぎわっていた。けど竜車を使っているのは他に誰も居なくて、人ごみが遠巻きにしている。一般人と商人がほとんどみたいだし、馬車と獣車の中に竜がいたらそれは目立つわよね。

 集まる視線にちょっとそわそわする思いをしつつ、街の中に入る。

 竜車だと驚くくらい速く着くわねぇ。私は知識で知っていたメイソン領の港街までの距離を頭の中で計算する。多分竜車って前世の自動車くらいのスピードで走れるんじゃないかしら。……最高の乗り心地だったけど、長い時間乗っていたからなぁ。途中休憩はあったものの、気が付いたら固まりかけていたらしい体を座席の上でちょっと気持ち伸ばす。


「あ! すごいよ、姉さん。あれ、海だよね!」

「ああ、ほんとね」

「本で読んだ潮の香り、ってやつもするかな?」


 窓の外、クリスが差す方向を見ると、背の低い建物の合間に煌めく水面が見えた。

 普段は冷静だけど、十四歳らしくはしゃいでるクリスは可愛いわね。私はほっこりした気持ちで弟を見る。


「クリス君は海を見るのは初めてなの?」

「そうだよ。メイソン領までは遠いしね。本ではどういうものか知ってたけど」

「私はこの国……トールジャン王国に来る時に見たわ! ……でもその時は船の窓から外を眺める気持ちになれなくて、ほとんど見てないけど」

「じゃあ、今日はたくさん海がある風景を楽しまないとだね」

「うん!」


 シアちゃんと可愛いやりとりをするクリス……うーん、可愛いものと可愛いものが合わさると最強ね。私は後方腕組み姉目線で二人を眺める。

 シアちゃん、こうして竜車に乗って外出できるまで回復して良かったわ。

 それはきっと、傷が隠せるようになったから、だけではない。あの日、ジークさんの愛情をきちんと知ったからだろう。私が作ったお化粧品で、その手助けが出来た事をとても誇らしく思う。


「ティナちゃんも海は初めて……よね?」


 不思議そうな様子のシアちゃんにハッと意識を取り戻す。

 そう言えば、こっちの世界の海を見るのは私も初めてだわ。


「私もクリスも初めてよ。今、海でとれるものに、新しいお化粧品を作る材料があるかなって想像してワクワクしてたの」

「新しいお化粧品?! すごい、出来たら私にも見せてね」

「もちろんよ」


 窓の外から明るい太陽の光を浴びて笑顔を浮かべるシアちゃんを見ると何回でも「良かったわ」って思っちゃうわね。


「まずは昼食にしようか。海が見える通りにレストランがあるんだ」


 シアちゃんと一緒にキャイキャイはしゃいでいた私は、ジークさんの言葉に空腹を自覚した。確かに、今朝家を出たのが早かったし……竜車の中でレナさんが出してくれたお菓子は食べたけど、よく考えたら腹ペコだわ。

 そしてなんとジークさんはこの海が見えるレストランを手配してくれていたらしい。大きな市場のある街に行くって、街歩きをするような服の中で一番良いものを着て来たけど、それでもちょっとドレスコードとかが心配になるくらい高そうな店だった。

 生まれて初めて「この世界の貴族令嬢としてテーブルマナーを身に着けていて良かった」と心底思ったわね。



「ジークさん、ご馳走様でした。とても美味しかったです」


 私とクリスはジークさんに、先ほどのレストランで御馳走していただいたお礼を口にする。


「こちらこそ、ライとレナも同じテーブルに着くのを快く受け入れてくれてありがとう」

「そんな、当然の事ですよ」


 彼らはジークさん達の従者ではあるが、ほぼ家族のような存在だものね。それに、ジークさん達の滞在している屋敷ではお茶の時には二人も一緒に楽しんでるし。

 けど、私のこの感覚が一般的じゃないのは分かっている。前世の記憶が戻ってから、どうしても考え方とかは変わったわよね。


「ティナさんは見てみたい店があるんだよね?」

「はい。鉱石とかを扱ってるお店が見たいんです」


 この街にどんな店があるか私は知らないので、これについてはジークさんとライさんが調べておいてくれたそうだ。なんてありがたい。

 食事をしたレストランから出て竜車にまた乗りこむと、私達一行は大通りに戻る。次にジークさんに案内された店は、さっきのレストランよりも更に豪華な建物だった。

 鉱石や鉱物を扱う問屋さんみたいな場所を想像していた私は、「思ってたのと違う感じの店が来たわね……」とごくりとつばを飲み込む。これは、店に入るのに決心が必要な奴だわ。


「ティナちゃん、ここでお買い物するの?」

「多分……」


 無邪気に聞いて来るシアちゃんに、私は不安になってジークさんの方を見た。ここで私が言ってた買い物、出来るんですよね……?


「ここは海外に支店もある宝石店なんだ。鉱石についても詳しいそうで、今日は色々な石を用意してくれたようだよ」

「なるほど、そういう事だったんですね」


 たしかに、前世でも化粧品の成分によく使われてたシリカなんかは、水晶として宝石店でも扱われてたわ。

 私は一応納得したものの、ちょっと戸惑いながら豪華な宝石店の扉をくぐった。

 その店内には、息を呑むような光景が広がっていた。高い天井の中心にはシャンデリアが下がっている。床も壁紙も黒で統一された空間の中、毛足の長い布の上に陳列されたいくつもの宝石が見える。宝石には一つ一つ魔道具で光があてられ、煌びやかな輝きを放っていた。

 宝石が飾ってあるテーブル一つ一つに店員が立っていて、まるで前世のテレビで見たハイブランドの店内みたいだわ。いや、実際似たようなものか。


「すごい……」


 クリスがもらした呟きに、心の中で完全同意した。これはすごいしか言えないやつだわ。

 ……でもこんな高そうな宝石を売ってる店で、化粧品に使えるような素材が手に入るかしら?

 私はちょっと心配になった。

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