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「ただいま戻りました」

「お帰りなさい、ティナさん」


 家族にお昼ご飯を届けてきた私は再びジークさんの休んでいる部屋を訪れていた。

 昼食はキレイに平らげてある。まだ痛むみたいだけど、食欲はしっかりあるみたいで安心したわ。


「それで……あの、家を出る前にした話の続きなんですけど……」

「白粉の事だね」


 ジークさんが姿勢を正してベッドに座り直そうとしたのを手で止める。


「怪我をしてるんだし、楽な体勢で話してください」

「お言葉に甘えさせてもらうよ」


 私はベッドサイドに木の椅子を持ってくると、そこに座ってジークさんの話に耳を傾けはじめた。


「さっきも話したけど、妹が使うために安全な化粧品を作って欲しいんだ」


 真剣な目のジークさん。その言葉に一切の迷いはない。なので私は逆に気後れしてしまっていた。


「お気持ちは分かりましたけど……絶対に作れるってお約束は出来ないですよ。こういうものが作りたい、って構想はありますけど、私自身はただの薬師見習いですし」

「……それでもいい。必要な資金や道具は全て用意する、だから……」


 昼食の前までの、どこか一線を置いた態度の彼の姿はない。人間味の溢れる表情を浮かべていた。


「妹さんの事、心配なんですね」

「……ああ、大切な家族なんだ」


 会ったばかりの私にこんな頼みごとをするくらい、ジークさんにとって妹さんは大切な存在なんだろう。

 私も家族の事が大好きだからその気持ちはよく分かる。家族が毎日使ってるものが危険かもしれない、って聞いたら穏やかな気持ちでいられないわよね。


「まずは、ジークさんが家に戻った後……妹さんに会って話をしたいです」

「話を……」

「それに、使ってる白粉も確認したいですね。私が知ってる、『これは体に悪いかもしれない』って思ってるものと成分が違うかもしれませんし」


 それなら何も問題はないから良いんだけどね。


「そうだな、分かった。シアもずっと部屋に閉じこもっているから、白粉の事を別にしても是非話し相手になって欲しい」

「分かりました。私もジークさん達のいらっしゃる別荘にお伺いするのに、家族に相談しておきますね」


 まぁ詳しい話については、ジークさんのお家の人と連絡がついて、怪我も治ってからすればいいわよね。


「それと……ティナさんに謝りたい事があるんだ」

「私に? 何をですか?」

「……親切にしてくれた貴女に、私は随分態度が悪かったなと思って」

「そう……でした? でも怪我して具合悪かった訳ですから、気にしなくても」


 まぁ、言われてみると、口数は少なかったかしら? でも確かにタイムの沢の滝のとこで会った時、すごく壁を感じた気がする。怪我してるし、痛いからだと思ってけど。


「私は……実は、女性が苦手なんだが」

「なるほど」


 そう言われると態度のぎこちなさにも納得かしら。今まで目もほとんど合ってないし。しかし続いた言葉で、原因が私にもあった事を知って慌てることになる。


「ティナさんに森の中で出会った時、すごく熱心に顔を見つめられたのが……私が苦手に感じる方達と似てて、警戒してしまって……」


 !! 心当たりがありすぎる……! あんまりにジークさんが綺麗で、どうお化粧するか妄想しながら見とれてた時だわ!


「ち、違うんですよ! 妖精か精霊と見間違えてついじっくり眺めちゃっただけで! た、たしかにすぐ人間だって気付きましたけど、どんなお化粧が似合うかなって想像してたらうっかり不躾な視線を向けてしまっただけなんです! ジークさんを変な目で見たりとか、そんなつもりは……!」


 私は身振り手振りを合わせて大慌てで弁解した。必死で言い訳をする私を見てジークさんはちょっと困ったように笑う。


「ああ、善意で声をかけてくれたんだと、今はちゃんと理解してるよ」

「良かった……」


 誤解がとけていたと聞いて、私はホッと胸をなでおろした。

 

「しかし、化粧か……ヒューマナルから見ると私は女性に見えるのかな? 成人してからは間違えられる事はなくなったと思ったんだけど……」

「いえ、違いますよ。女性だと思ったからお化粧をさせたくなったんじゃなくて、綺麗な人を見るとお化粧をしたくなっちゃうんです……」


 勝手に妄想に出演させて申し訳ない。

 しかしジークさん、子供の頃は女の子に間違えられてたのね。今の顔から逆算した美少年を想像した私は、「まぁ、そりゃそうなるか……」と納得していた。失礼だから言わないけど。


「男に化粧をするの?」

「性別なんて関係ないです! ……いえ、ほんとに、勝手に想像してごめんなさい」


 メンズメイクは前世でもまだ珍しい方だったし、この世界では比べ物にならないくらい異質に感じるだろう。

 私は身を小さくして謝った。気分を害してしまっただろうか。


「その……多分、芸術家が美しい景色を見て『絵に残したい!』って思うような感じなんです」


 きっと私はとんでもない変な人としてジークさんの目に映っているわね。

 気まずすぎて顔を上げられずにいると、何故かジークさんは笑い出した。


「ティナさんは素敵な考え方をするんだね」


 大分変な事を言ってしまった気がするのに、何故か愉快そうな表情になったジークさんに私はポカンとしてしまう。


「とにかく、森の中での失礼な態度への謝罪を。申し訳なかった」

「大丈夫です! むしろ、初対面の時顔をじろじろ見てこちらこそごめんなさい!」

 

 私が失礼な視線を向けたせいなのに、こうしてわざわざ謝罪してくれるなんて、ジークさんは良い人ねぇ。言わなくてもきっと私は気付かなかったのに。

 妹さんの話も聞いて、こうしてお互い謝罪し合って、雲の上の世界の人かと思ってたジークさんとちゃんと仲良くなれた気がした。

 



「あら、クリス。ジークさんの部屋にいたの?」

「うん。怪我はしてるけど退屈かなって思って、本を差し入れしたんだ」


 夕飯の仕度が終わって、後は直前に火を入れるだけという状態まで準備した私は部屋に向かおうとしていた。そこでちょうど、廊下に出て来たクリスと顔を合わせる。

 クリスのその言葉に、私は感心していた。なんて気遣いの出来た子なんだろう。そんな事私は思いつきもしなかったわ。


「ジークさん、とても博識なんだよ」

「へー、そうなのね?」

「今度、別荘に遊びに来ないかって誘われたんだ。本も貸してくれるって。姉さんも妹さんに会いに行くんだよね?」

「うん。じゃあその時は一緒に行きましょうね」


 いつも落ち着いてるクリスにしては珍しく、目をキラキラさせながら楽しそうに「いかにジークさんの知識がすごいか」を話してくれる。

 正直内容を聞いても私はどこがどうすごいのか良く分からないけど、クリスが感心するなら余程の人なんでしょうね。

 普段物静かで大人っぽいクリスの無邪気な面。こうしてると、クリスも私とおんなじ十四歳なんだなって思ってほっこりするわ。

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