表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/34

新しい力の使い道


 属性なしの魔力、というものについて結構検証してみたけどかなり使い道があるわね。

 火の玉を飛ばして攻撃するとかよりかはお化粧品造りに確実に役立つし。それに、使ってればもっと成長しそうだわ。

 まだ私の魔力操作が拙いからだろう、動きはぎこちないし動き始めはとてもゆっくりだけど勢いが付けばかなり速く動かせるようになったし、出来る事はかなり多い。まず、生身の私では絶対に持てない重さの物を動かせるのよ。それが何よりすごい。


 森の中で魔力を動かす練習をしていた私は、今持ち上げていた倒木にもう一度手をかざした。全体重をかけても転がせもしないような重さの木だ。

 手のひらから出した魔力で形を作る事を想像する。イメージするのは、前世の工場にあるようなロボットアームのような大きな腕。それで木の幹を掴む。魔力越しに重い手ごたえを感じる。

 見えない三本目の腕にもっと魔力を込め、持ち上げる……するとかなりゆっくりだったが、もう一度倒木は宙に浮かんだ。


「ふぅ……昨日より持ち上げられる物の重さも増えてるし、コツを掴んだらもっと色々出来そうね。とりあえず、ハンドクリーム作りはかなり楽になりそうだわ」


 持ち上がったのは一瞬で、すぐに倒木は地面に落ちてしまった。しかしもっと上手く魔力を制御できるようになれば更に重いものもいけそうだと感じる。

 クリスに話を聞いてから連日魔法を使う練習をしていたおかげで、かなり使い方にも慣れてきたわね。


 重さだけでなく、このまま練習すれば器用に素早く動かす事も出来るようになりそう。容器に材料を入れて、魔力で作った腕で掴んで振る事でハンドクリームがちゃんと作れる事も実証済みだ。まだ手でかき混ぜるのとそんなに変わらないスピードでしか動かせないけど、魔力を使うと腕が疲れないのがいい。

 もっと大量に、素早く製造できるようになれば効率が上がるわね。

 水の中に手を入れて魔力を放出すると水を温める事が出来るのも地味に役立っている。そろそろ朝は水が冷たい。


 それに、森の中での材料採取でもかなり役に立っている。今まで安全を考えたら「あそこにあるけど採れないな」って諦めてたものも採取できるようになったのだ。高い位置にある果実とかね。

 私はまた、はるか頭上にトトラさんが買い取ってくれる木の実を見つけた。あれは果実がかなり柔らかいから、切って落とすと潰れて価値が下がってしまう。まだ「見えない手」はそこまで繊細に動かせないし……私はそこまで考えると、自分の体を魔法で持ち上げた。慎重に、ゆっくり宙に浮かんでいくと、やがて木の実と同じ高さに到達する。私は採取ハサミを使って丁寧に収穫した。


 この「見えない手」、見た通りとても便利だけど、動き始めがどうしてもゆっくりなので、魔物と戦ったりとかは出来ないと思う。壁みたいな形にして最初から置いといたら攻撃を防ぐとかはいけそうな気もするかな。まぁ危ないから積極的に試す気はないけど……。


 魔力そのものを放出して物を動かすってクリスはかなり効率が悪いって言ってたけど、今の所私はそんな感じはしない。私の魔力がとても大きいからかな?

 でも、単純に手の平から魔力を出して羽根ペンを吹き飛ばした時は、確かに結構魔力を使った気がするのよね。

 もしかしてイメージの問題かしら。そりゃ、最初にやった時みたいに……ホースから水を出すように魔力を物にあてて動かすのなら消費は激しいと思うわ。

 私は魔力で、目に見えない三本目の手を作ってそれで掴んで動かしてるんだけど……この腕は私から伸びているので、動かすだけならあまり魔力を使わない気がする。

 クリスいわく魔法には具体的なイメージと理解が大事らしいので、それなら確実に前世の記憶のおかげよね。


 でも、すごいわ。前世みたいな化粧品の開発、本当に出来るかもしれない。この力があれば、道具を開発しなくても混合、攪拌、粉砕、遠心分離も出来る。夢が広がるわね。

 勿論ハンドクリーム以外のあらゆる化粧品を作るのにも役立つだろう。


「……あ! そうだ、ハチの巣!」


 私は二カ月とちょっと前の事をやっと思い出した。そうそう、後で道具を用意して採りに来たいと思ってたのよね。でもハシゴを持って行くには森の中の深いところだしな……あの枝ぶりだと登るのもちょっと難しいわよね……とか考えて後回しにしてたらすっかり忘れてたわ。

 この力があればハシゴを使わなくても採れるじゃない!


「そうと決まれば早速行きましょ」


 私は前回ハチの巣を見つけた辺りの地形を思い出すと、そちらに向けて歩き出した。メリアの種も、代わりになる油を用意する算段も付いてなかった。少量だがここでミツロウと蜂蜜が手に入るのはかなり嬉しいわ。


 森が深くなると、木々の隙間からこぼれ落ちる太陽の光が少なくなっていく。管理する人の手が入っていないから枝の密度が上がり、空の奪い合いが起きているのだろう。

 朝まで雨が降っていたので、森の中には湿った空気が漂っていた。周りに響くのは自分の足音だけで、生き物の気配はない。

 印をつけた木を見つけて観察した私は、蜂が出入りしていないことに気付いた。巣を移った後らしい。

 それならちょうどいい、と私は先ほどのように自分の体を魔法で持ち上げると、木のウロの中にみっしりと詰まった蜂の巣を丁寧に手で割りとっていった。取り残しが無いように丁寧に。

 想定通り簡単に蜂蜜たっぷりのハチの巣を手に入れる事が出来たわ。


 今回は丁度蜂が巣を移ってたから全部巣を採取したけど、まだ住んでる場合は一部だけ取るんだよと教わった。ミツバチの巣って放っておくと蜂蜜でいっぱいになって住めなくなっちゃうので、幼虫や蛹の少なそうなところをもらうだけなら大丈夫らしい。

 村の狩人をやっているベンターさんからそう教わっている。だからこうしてヒトが森の恵みを分けてもらえるんだよ、と。


「ここまで来たならついでに、ラタイムの沢に苔を取りに行っておこうかな」


 あそこで採れる苔は一番低級の外傷用の魔法薬……つまりハンドクリームの材料に使えるのだ。

 幸いまだ日暮れまで時間の余裕はある。私は更に森の奥に向かう事にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ