はじまり
当店自慢の出汁を使った新作ラーメンだよ!!
(`・ω・´)つ
お化粧って、「やっぱり」とても素敵ね。口紅塗っただけでこんなにテンションが上がる。
……やっぱりって何?
真っ赤な口紅を塗った自分が、少し曇った鏡に映っている。ううん、曇ってるんじゃない。映りが悪いのね。昔骨董品のお店で見たアンティークの鏡みたい。すごい年代物なのかしら? ……いいえ違うわ、この鏡台はお母様が嫁入りの時にあつらえた物のはず。
手元に視線を落とすと、口紅の他は真っ白い白粉があるだけ。……えっ、化粧品ってこれだけ?
化粧品なんて、今日初めて使ったはずなのに。化粧品の種類が全然ない……その事が何故かとてもショックで、その衝撃で私は前世の記憶を思い出した。
頭の中にドバッと一気に記憶が流れ込んできて、あまりの情報量に私は目を開いたまま固まってしまう。
当たり前だろう。十四年この世界で「クリスティナ」として生きて来た私の頭の中に、日本で「綾乃」として過ごした人生の記憶が突然増えたんだから。
「ティナ? どうしたの?」
「ううん……大丈夫、ちょっとめまいがして」
「あら、貧血かしら」
ティナはとってもきれいな花嫁さんになるでしょうね。そう言って、さっきお母様はご自分も滅多に使わない化粧道具で私に生まれて初めての口紅を塗ってくれた。
「これがお化粧? なんだか自分の顔がいつもと違うみたい。素敵ね」
そう言ったきり、鏡を見たまま固まってしまってたようだ。心配そうに肩に触れてくるお母様に、私は「平気よ」と笑みを浮かべて見せる。
「念のため、今日は森に行くのはやめておきなさい」
「……そうね。部屋で大人しくしておくことにするわ」
洪水みたいに押し寄せる、見た事がない光景。
知らない言語で喋る自分、見慣れない服装の大勢の人々、見た事がないくらい大きくて歪みのないガラス板の窓、高校の制服、スマホ、色とりどりのメイクアイテム、バイト代を貯めて買って自分で組み立てた真っ白いドレッサー、LEDのリング照明とその手前に設置されたカメラ。私はレンズを見て「やっほー」とひらひら手を振って挨拶した後、並べておいた新しいアイシャドウの色や使用感の紹介を始める。
全部、記憶にない。でも、全部覚えている。
突然の事に動揺して、お母様になんて返事をしたのかすらあんまり覚えていない。頭がぐるぐるする……私はやっとの事で自分の部屋に戻ってくると、ベッドに倒れ込んだ。
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