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第17話 ケーキ・オン・サラダ

 待ち合わせ場所付近にあった連絡通路を渡ってエスカレーターを上り、入り込んだのはショッピングモール内のレストラン街。


 様々な嗅いだことのない香りに楓は息を吸う度に目をシロクロさせる。昼時ゆえに列になっている店も多い。人はエントランス以上に混み混みで、目が回りそうだ。そんな中を夏美は迷うことなく突き進む。


「ついたよ。ここが予約してた店。食べ放題……すなわちビュッフェなのです!」


「「うおぉぉぉお!」」


 珍獣もかくやとばかりに雄叫びを上げた笹本の双子を店内に押し込んで、楓たちは店員に案内されるままに用意された席に着いた。〝びゅっふぇ〟なるものを知らなかった楓は、様々な種類の食べ物が並ぶ様子に驚き通しだ。


「えっと、あれ、ぜんぶ食べていいのか?」


「そうだよ。時間内なら、デザートとか、飲み物とかも好きに取っていいんだよ」


 涼がにこやかに説明を挟んだ。楓は驚きすぎて顎が外れてしまわないようにするのが精一杯。食べ物は五星結界の外では貴重だったから、食べ放題などという概念はとんでもない爆弾だ。そんなわけで、楓が最初に皿に盛ったのは遠慮がちな量だった。


「ふへへへ、ご飯バンザイ!」


「食べ放題バンザーイ!」


 ウッキウキで大盛りの皿を両手に持てるだけ持って現れたのは、夕姫と夕真の二人だ。サラダの上にミニケーキが載っているのは完全におかしいと思うのは楓だけ……ではなさそうだ。笹本の双子が帰ってきたのが最後で、再びテーブルに全員揃う。


 ちらりと楓は光希を見た。ずっと黙ったままの光希は皿にポテトサラダにトマト、パスタとハンバーグを載せていた。光希が伏せていた視線をわずかに上げれば、楓とばっちり目が合った。楓は慌てて、目を逸らす。光希もさりげなく目を逸らしたのを視界の端に捉えた。


「じゃあ、せっかくだし乾杯でもしよっか。みんなこれからよろしく!」


 涼が音頭を取って、かんぱーい、と楓もみんなに倣ってリンゴジュースの入ったグラスを持ち上げる。グラスが透き通った音を立ててぶつかり合う。そしてそれがそのまま食べ始めの合図になった。


「ほふへっへ、ほはふぇ、ほうひゃっふぇはひぇふぇはぁひぃい?」


 早速詰め込めるだけ口の中に食べ物を詰め込んだ夕姫が何か言っている。


「それだと何も分からないぞ、夕姫……」


 思わず呆れ半分で突っ込む。夕姫は文字通り、むぐむぐごきゅんと音を立てて口の中を空っぽにしてから、再挑戦。


「これって、お金、どうやって払えばいーい?」


「たしかに……。夏美、その辺ってどうなってるんだ?」


 お行儀よく口を空にしてから夏美が答える。


「木葉から話があると思うよ」


「ええ。このご飯のお金は天宮が出してくれているわ。遠慮せず食べてくれるといいわ」


「え、いいの!? いや、私たちはめっちゃくっちゃ嬉しいけどさ!」


「わーい! タダ飯ー!」


 素直にはしゃいでいる夕真の頭を夕姫が軽く叩いた。喧嘩が始まるかと身構える面々だが、夕真はそんなことよりもご飯の方が大事らしい。


「天宮家がお金出してくれるなんてことがあるんだな」


 光希が呟く。


「ね、天宮さんがいるからというのが理由かな」


「ああ。ありがたい、と言えばありがたい話だな」


 まだ高校一年生という身分ゆえに自由に使える金は少ない。それを天宮家が負担してくれるのは悪い話ではなかった。


「そうだ、光希! ショートケーキ食べた?」


 光希の向かい側に座る夏美からの問い掛けだ。まだ食べ始めて時間はあまり経っていないのだが……。


「いや、まだだ。ショートケーキが何か?」


 フライングしてケーキに手を出したことがバレて少し恥ずかしそうに、夏美がはにかむ。まぁ、サラダにケーキを載せる無法者が約二名いるので問題なしなのかもしれない。


「あ、えーっと、えっと、美味しかったから、食べてみてね!」


「ああ。あとで、な」


 光希が普通に会話している……、と珍しくて楓は口を動かしながら一部始終を眺めていた。


「気になる?」


「……」


「あなたたち、喧嘩でもしたでしょ。いつもならもう三回は互いに頭突きくらいしてそうなものだけれど」


「はぁ!? ボクはそんなことしないし!」


 なんだその低知能な生命体は。バカにしてるのか。


「してるわよ」


「木葉ぁ……っ」


 憎々しげに睨んでみるも当然不発に終わった。


「でもね、早く仲直りしておきなさいな。そういうの大事よ」


 でも、今回はもう無理だよ──、とは言えなかった。代わりに溜息をつく。目を閉じて開けば、楽しそうに騒いでいる全員がよく見える。


 ここに、自分は居てもいいのだろうか。


 とうとう、考えないようにしていた質問があぶくのように浮かび上がってきた。


 だって、怖い。……知らない。今までずっと独りぼっちでいたから。


 手が止まった楓の姿に、ケーキをもぐもぐしていた夏美が心配そうに目を留める。少しぼうっとしていただけなのだと告げて、口にアイスクリームを突っ込んだ。溶けかけたバニラアイスは甘ったるくて胸焼けがしそうだった。それなら、きちんと溶ける前に食べておくんだったと後悔する。


 目の前では、あれだけ食べたと言うのにアイスクリームの消費数を夕姫と夕真が競っていた。なぜか食事中に二人が取っ組み合いになりかけた回数は……、五回から数えるのを止めた。


 帰りにお腹がぎゅるぎゅるするとか言って、定期的にトイレに駆け込んだ人たちが二名いたことは、また別の話だ。









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