第44話「告白」
ゲームの最終エリア、「東京タワーの頂上」を目指すべく、真奈たち5人は虚空に浮かぶ自分たちのアバターを眺めながら、準備を整えていた。ゴーグル越しに見える仮想空間は、まるで現実を超えたリアルさで、大都会の夜景が足元で煌めいている。
勇士が天を指差しながら、「あの頂上がゴールだね」と静かに言った。彼の指先の先には、東京タワーの頂点に輝く秘宝「日本刀バサラ」が鎮座していた。その光は神秘的で、遠くからでも視線を奪うほどの存在感を放っている。
「なんか緊張してきたね」
詩音が小さく笑いながら言った。彼女の声には期待と不安が交じり合っていた。
「でも、ここまで来たんだから最後までやり遂げないと」
めぐみがそう言いながらゴーグルを調整する。彼女の冷静さに勇気をもらったように、小鉄が大きく深呼吸をする姿が目に入った。
「よし、みんな準備はいい?」
真奈が小さな手を掲げると、全員が頷いた。その瞬間、ゲームのナレーションが響き渡る。
「最終エリア:東京タワーの頂上へ。あなたたちはバサラを守護するカラス天狗を倒し、世界に平和を取り戻してください」
ナレーションが終わると同時に、彼らの足元に風が巻き起こる。仮想空間の中で空を自由に飛べるようになるシステムが作動したのだ。
「うわぁ、すごい! 本当に飛べる!」
詩音が声を弾ませながら手足を広げ、まるで空中を泳ぐように動き始めた。
「これは面白いな!」
小鉄も負けじと周囲を旋回するように飛ぶ。
真奈も少しずつ羽ばたくように動きながら、目の前の勇士に目をやった。彼は静かに空を見つめたまま、一言も発しない。その横顔に、真奈は少しだけ胸が高鳴るのを感じた。
「行こう!」
勇士の力強い声が響き、5人は一斉に東京タワーの方向へ飛び始めた。
東京タワーを目指して夜空を飛びながら、5人の心は高鳴り続けていた。ビルの合間を縫うように進むたび、足元に広がる夜景がキラキラと瞬き、まるで宝石の海の上を滑るようだった。
「これ、本当にすごいね! なんか本当に飛んでるみたい!」
詩音が風を切るように手を広げながら叫ぶ。その表情は驚きと楽しさで満ちていた。
「いやいや、俺は絶対現実でこんなことできないわ」
小鉄が冗談めかして笑いながら下を見た。遠くに見える車のヘッドライトの流れが、まるで小さな流星群のようだ。
「でも、油断してたらやられるよ。気を引き締めて」
勇士が静かに告げる。彼の視線は東京タワーの頂点に突き刺さる「バサラ」に固定されていた。
真奈は勇士の背中を見ながら、少しだけ言葉を探した。
「……勇士君って、本当にすごいね」
真奈がぽつりと呟くと、勇士は振り返り、照れくさそうに笑った。
「いや、みんながいるからだよ。1人だったらこんなとこ、絶対無理だし」
その何気ない一言が、真奈の胸を優しく締め付けた。自分が勇士を好きな気持ちを改めて確信すると同時に、詩音の存在が少しだけ気になった。
「でも……カラスの群れがこっちに来てる!」
めぐみの声で全員の意識が引き締まる。前方には無数の黒い影が翼を広げ、彼らの行く手を阻もうとしていた。
「みんな、注意して! 避けながら進むよ!」
真奈が声を張り上げると、5人は一斉に動き出す。
カラスの群れは次々と襲いかかってくる。翼の音が耳元で聞こえるほどの迫力に、詩音は思わず悲鳴を上げた。
「怖いよ!」
「大丈夫、私の後をついてきて! 飛びながら左に旋回して!」
真奈が指示を出し、詩音はその通りに動く。何とか攻撃を避けながら、2人は再び勇士たちと合流した。
一方、小鉄は目の前の巨大なカラスに向かって突進し、囮役を買って出た。
「俺が引きつけるから、その隙に先に行って!」
「無茶するな、小鉄君!」
勇士が叫ぶが、小鉄は笑いながらカラスたちを翻弄していた。その動きは予想以上に鮮やかで、めぐみがぽつりと呟いた。
「小鉄君、意外とすごいんだね」
何とかカラスの群れを抜けると、彼らの目の前に東京タワーがさらに近づいてきた。
「さあ、ラストスパートだ!」
勇士の声に背中を押され、5人は再び飛び立った。
東京タワーの頂上が目の前に迫る中、最後の試練が待ち構えていた。黒い翼を広げ、威圧感たっぷりのカラス天狗が空中に浮かび、5人をじっと睨みつける。その周囲にはカラスの群れが渦を巻いていた。
「これが……ラスボス」
小鉄が唾を飲み込む。
「大丈夫、みんなで力を合わせればきっといける」
真奈が声をかけると、勇士が前に出て意気込んだ。
「俺がバサラを手に入れる! みんな、俺を援護して!」
その言葉に全員が頷き、各自の役割を胸に秘めながら一斉に動き出した。東京タワーの頂上に突き刺さる「日本刀バサラ」を手に入れるため、彼らはカラスの群れと戦いながら進んだ。
カラス天狗は巨大な扇を振り回し、風を切る音が鋭く耳をつんざく。そのたびに猛烈な突風が吹き荒れ、5人の動きを妨げた。
「その力は渡さぬ!」
カラス天狗が低く威圧的な声を上げると、カラスの群れが一斉に5人を襲った。
「ここを突破しなきゃ……勇士君、後ろに!」
真奈が叫び、勇士が反射的に飛びのいた瞬間、黒い影が彼の頭上をかすめた。
「助かった、ありがとう!」
勇士が言うと、真奈は真剣な表情で頷いた。
「私が合図を出すから、それに合わせて動いて!」
真奈は冷静に指示を飛ばし始めた。
「今! 右へ!」
「しゃがんで!」
「次、飛んで!」
真奈の指示に従いながら、5人は徐々にカラス天狗の防御を突破していく。めぐみが隠されたルートを見つけ出し、小鉄が群れの隙間を突破するコツを解明。詩音は勇士を鼓舞しながら自分も懸命に攻撃を続けた。
ついに勇士が日本刀バサラに手を伸ばし、両手で強く握りしめた。刀が光を放ち、空気が震える。
「その力を封印せねばならぬ!」
カラス天狗が吠え、最後の一撃を繰り出す。その時――
「今だ!」
真奈のカウントに合わせて勇士が叫び、刀を振り下ろした。眩い光があたりを包み、カラス天狗が崩れ落ちていく。
「MISSION CLEAR」の文字が空中に浮かび上がり、5人は歓声を上げた。
「やったね! みんな!」
詩音が泣き笑いしながら声を張り上げ、小鉄がめぐみと手を叩き合った。
「すごかったね……これがVRの力なんだ」
真奈は、エンディングを眺めながら、胸の中に誇りが湧き上がるのを感じた。
「やったー! 本当にクリアできた!」
詩音が両手を広げ、小鉄とハイタッチする。めぐみも笑顔を浮かべながら、思わず隣の真奈と手を取り合った。
「みんな。最後まで諦めなくて良かった」
めぐみが感慨深げに言うと、勇士が「本当に最高だったな」と笑みを返した。
その時、エンディングのストーリーが始まり、画面が一転。暗転した後、ナレーションとともに美しい映像が広がった。「日本刀バサラ」を巡る壮大な歴史が描かれ、力を手に入れる者の責任と希望が語られる。特に最後の一文は5人の心に深く刻まれた。
「力を持つ者は、その力を正しく使う責任を負う。その者こそが、未来への扉を開く鍵となる」
「なんか……すごい話だね」
勇士がつぶやき、真奈も「うん、本当に」と頷いた。
ゲーム終了後、スタッフにゴーグルを返却しながら、5人は興奮冷めやらぬ様子で話し続けた。
「俺たち、本当にすごい体験したよな! 空を飛べるなんて夢みたいだった」
小鉄が目を輝かせると、詩音が「うん、あの景色、ずっと忘れられないと思う」と同意する。
「東京タワーの頂上から見る夜景、すごく綺麗だった」
勇士の言葉に、真奈は心の中で「さっきまでその空を飛んでいたんだ」と思い返し、ふわりとした幸福感に包まれた。
その後、5人は展望台へと向かった。エレベーターに乗る間もゲームの話題は尽きず、真奈はその楽しげな空気に包まれながら、「この冒険を一緒に体験できたことが、本当に幸せだ」と感じた。
展望台に到着すると、眼下に広がる東京の街並みが5人を出迎えた。青空の下、ビル群が太陽の光を受けてキラキラと輝き、遠くまで続く街並みが活気に満ちた大都市の息吹を感じさせる。車の列が小さな流れとなって見え、東京の広さとその賑やかさを実感できる光景だった。
「すごい……こんなに広いなんて思わなかった」
めぐみが窓ガラスに顔を寄せ、目を輝かせながら呟いた。
「さっきまであのビルの間を飛んでたんだよね。なんか不思議な感じ」
詩音が遠くのビル群を指差しながら言うと、勇士が「本当に映画の世界に入り込んだみたいだったな」と笑顔を浮かべた。
昼間の明るい景色の中で、5人は改めて東京という都市の広大さに驚きつつ、自分たちが体験した冒険を心の中で反芻していた。
その時、小鉄が「あっちの景色もすごいよ」と声を上げ、詩音とめぐみを連れて別の窓へと移動した。
残された真奈と勇士。二人きりになると、真奈の胸が小さく高鳴った。
「勇士君、今日の冒険、本当に楽しかったね」
真奈が勇気を出して話しかけると、勇士は「うん、最高だった。真奈ちゃんのサポート、すごく助かったよ」と真剣な表情で答えた。
その言葉に、真奈は少し恥ずかしそうに微笑んだ。そして、心の中で「今なら伝えられるかもしれない」と思った。
「勇士君、あのね……」
しかし、次の言葉を紡ごうとした瞬間、勇士が興奮した様子で続けた。
「でもあのカラス天狗、ほんと強かったよな! 最後の一撃、ギリギリだったし!」
その様子を見た真奈は、彼の無邪気さに微笑みながらも、自分の想いを伝えるにはまだ早いと感じた。そして、代わりにこう切り出した。
「実はね、このゲーム、私のパパが作ったんだ」
「えっ! 本当なの?」
勇士が驚きの声を上げ、真奈は誇らしげに頷いた。
「うん、だから今日こうしてみんなと一緒に体験できたの、本当に嬉しいんだ」
勇士はしばらく真奈の顔を見つめた後、「真奈ちゃんのお父さん、すごい人だね」と真剣に言った。その言葉に、真奈の心は温かく満たされた。
遠くで詩音が振り返り、二人の様子を見つめていた。その視線に気づいた真奈は、そっと微笑み返しながら、これから先の自分の気持ちとどう向き合うべきかを静かに考えていた。




