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実は、貧乏人じゃありません。  作者: winten
第3章「初等部」
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第43話「東京タワー探検」

「これ、すごくない?」

 真奈が小さな箱から取り出した招待状を、教室の机の上にそっと置いた。放課後の教室に残っていた5人の目は一斉にそれに向けられる。


「なにこれ……金ピカだ!」

 勇士が身を乗り出し、興奮気味に言う。真奈が嬉しそうに微笑むと、詩音がその招待状を手に取った。

 招待状には、「東京タワー×夢と現実(リアル)漂流者(エグザエル)」と大きく印字されていた。


「リアエグじゃん! いつもアニメ観てるよ!」

 小鉄が興奮して言う。

「特別招待チケットだって! 東京タワーでやるイベントなの?」

 詩音が声を弾ませると、めぐみが控えめに「すごく豪華そう……」と呟いた。


「ママがたまたまチケットを手に入れてくれてね!  5人分あるからみんなで行こうよ!」

 真奈は、周りを見渡して言う。その言葉に、勇士が驚いた顔をした。

「5人分も?  そんな貴重なチケット、いいのか?」


「大丈夫だって!  それより、東京タワーだよ!  みんなで探検するんだからさ!」


 真奈の言葉に、全員が目を輝かせた。




 そして当日。

 集合場所は渋谷駅の改札前。ここからバスに乗って東京タワーまで行く。都内に住む5人にとって、東京タワーは遠い存在ではない。誰もが一度はその存在を目にしているし、スカイツリーに比べて「少し低い」という認識もある。けれど、実際に訪れたことのある者はほとんどいない。だからこそ今日の「探検」が特別だった。


「やっぱりスカイツリーのほうが高いんだよね?」

 詩音が確認するように問いかける。

「うん。でも、東京タワーって映画とかドラマにいっぱい出てくるでしょ? あれ見るとさ、なんか独特の存在感があるよね」

 真奈がそう言うと、小鉄が頷いた。

「高さじゃなくて、雰囲気とかデザインなんだろうね」

「それもそうだけど……なんだか特別感あるよね」

 めぐみは控えめに言いながら、手元のチケットを大事そうに握りしめていた。




 バスを降りた5人は、歩きながらつい話し込む。

「俺、東京タワーが建てられた時の写真を見たことあるけど、周りに高い建物がほとんどなかったんだよ」

 勇士がそう話すと、詩音が驚いた顔を見せる。

「へえ、じゃあその頃は本当に“世界一”だったのかもね」

「今も“東京の顔”って感じがするよね」

 真奈が言葉を重ねる。


 歩くたびに、赤と白のシルエットが視界に近づいてくる。最初は周囲のビルに隠れるように姿を消していたが、大通りに出た瞬間、目の前にその全貌が現れた。


「うわ……でっかい!」

 思わず勇士が声を上げる。スカイツリーほどの高さではないと分かっていたはずなのに、目の前にそびえ立つ東京タワーの迫力には、誰もが言葉を失った。


「低いって聞いてたけど、近くで見ると全然そんな感じしないね」

 詩音が感嘆の声を漏らす。めぐみも「本当に映画みたい……」とぽつりとつぶやいた。真奈はその光景に圧倒されながらも、「ここが今日の探検の舞台なんだ」と自分に言い聞かせるように、ぎゅっと拳を握った。




 東京タワーのエントランスに足を踏み入れた瞬間、真奈たちの目に飛び込んできたのは、TV撮影の一幕だった。リポーターが鮮やかな衣装をまとい、カメラの前で明るい声を響かせている。その背後には、「東京タワーx夢と現実(リアル)漂流者(エグザエル)大都会(ジャングル)聖剣(ひほう)〜」という大きな垂れ幕が掲げられ、イベント名が力強く目に飛び込んでくる。


「これ、テレビで中継されるやつかな?」と小鉄が興味津々でリポーターに目を向けた。


「すごいね、こんなに大々的にやってるなんて!」と詩音も驚いたように声を上げる。


「もしかして映っちゃったりして?」めぐみが半分冗談交じりに言うと、真奈は笑って「それはちょっと恥ずかしいな」と肩をすくめた。


 勇士はリポーターの話す様子をしばらく眺めていたが、「行こうよ、時間もったいないし」と声をかけ、5人は足早に塔の中へと進んでいった。




 塔内の案内板を目で追いながら、真奈は地下フロアへの矢印を指差した。「イベント会場はあっちみたいだよ。地下だって」


「地下って言っても、こんな高い建物の下にスペースがあるのか?」勇士が首を傾げると、小鉄がすぐさま答えた。「地下だって立派な空間なんだよ。ほら、映画の秘密基地とかも地下にあるじゃん?」


「それ、映画の話でしょ!」と詩音が笑いながら突っ込む。


 そんな他愛ない会話をしながら、案内板に従って階段を降りていく。エスカレーターもあったが、真奈たちは「探検気分だね」と口々に言い、わざわざ階段を選んだ。




 地下1階にたどり着くと、目の前には受付ブースが設置されていた。黒い制服を着たスタッフが丁寧に来場者を案内している。5人は列に並び、順番を待ちながら辺りを見回した。


「なんか、本格的だね」とめぐみが小声で言うと、真奈が笑顔で頷く。「そうだね。でも、特別招待チケットがあるからスムーズに進むと思うよ」


 順番が来ると、真奈はバッグから金色のチケットを取り出した。チケットを見た受付のスタッフは、目を輝かせて「特別招待のお客様ですね。こちらへどうぞ」と言いながら笑顔で案内してくれた。


 その瞬間、めぐみが感嘆の声を漏らす。「金色のチケット、やっぱり特別感があるね!」


 受付を通ると、目の前には広大なイベントホールが広がっていた。照明が幻想的に配置され、天井から吊り下げられた装飾は「夢と現実(リアル)漂流者(エグザエル)」の世界観を見事に再現している。ホールの中央には大きなスクリーンが設置され、開始時間を知らせるカウントダウンが映し出されていた。


「うわあ……これはすごい!」と小鉄が目を輝かせる。


「なんだか、冒険の始まりって感じだね!」と詩音も興奮気味に声を弾ませた。


「よし、準備は整ったね」と勇士が気合を入れるように言うと、真奈も小さく頷きながら「凄く楽しみ!」と笑顔を見せた。




 これから始まる冒険に胸を躍らせながら、5人はイベントブースの中央へと進んでいった。



 イベントスタッフが柔らかな笑顔で5人を迎えた。受付を終えた真奈たちに、スタッフは専用のVRゴーグルと道具が入ったバッグを渡しながら説明を始めた。


「これが今回の冒険に必要な装備です。ゴーグルを装着すると、視界が完全に仮想空間に切り替わります。現実世界の物音はヘッドセットで遮断されるので、ゲームの世界に没頭できますよ」


 勇士がバッグからゴーグルを取り出し、興味津々といった様子で眺めた。


「これ、装着するの?」


「めっちゃ本格的だな」小鉄が感心したように口を開く。


「ちょっとドキドキしてきた」詩音は手のひらを胸に当てて深呼吸をする。


 真奈はその様子に微笑みながら、みんなを安心させるように声をかけた。


「大丈夫だよ、みんなで一緒に探検しよう」


 スタッフは続けて、ゲームの概要と注意事項を説明した。「舞台は高層ビルの屋上を隣のビルの屋上まで渡りながら進み、東京タワーに眠る宝を手に入れてボスを倒すというミッションです。途中には様々なギミックや謎が用意されていますので、チームワークを大切に進んでくださいね」


 説明が終わると、5人はゴーグルを装着し、準備が整った。緊張感と期待感が交錯する中、スタッフが手元のスイッチを押した瞬間、目の前の景色が一変した。


 そこは、まるでアニメの世界のような仮想空間だった。足元には天高くそびえるビルがあり、それらをつり橋や飛び石が繋いでいる。空は青く澄み、所々に白い雲が漂っている。ビル群の間に広がる深い谷底からは、風が吹き上がり、リアルな感触が5人を包み込んだ。


「すごい……まるで本当にここにいるみたい!」真奈は胸の高鳴りを抑えきれず、驚きの声を上げた。


「俺たち、主人公みたいだな」小鉄が嬉しそうに言う。


 詩音は空を見上げ、「まるで夢みたい……」と呟いた。


 勇士は足元を見つめながら、「これ、本当に足を踏み外したら落ちるんじゃないかって錯覚しそうだ」と声を潜めた。


 チームは、目の前の最初のビルへと進むことにした。つり橋を渡りながら、足元からギシギシと音が鳴る。真奈が足を止め、少し不安げな表情を見せた。


「大丈夫? 手、つなぐ?」勇士が手を差し出す。


「うん……ありがとう」真奈が勇士の手を取ろうとした瞬間、「あれ?」真奈は思わず転びそうになった。

「あ、VRだから触れないのか!」勇士は驚き納得した。


「落ち着いて、あと少しだよ」詩音が後ろから優しく声をかけた。


 次のビルに到着すると、目の前に大きな石碑が現れた。そこには「次の道を開くための鍵を探せ」と刻まれている。小鉄が石碑を調べ、そこからヒントとなるパズルを見つけ出す。


「これ、機械仕掛けの仕掛けだな! 俺に任せて!」小鉄は嬉々として解読を始めた。


 一方、めぐみは周囲の小道具や植物を観察しながら、「この模様、どこかに答えが隠されてる気がする」と呟き、パズルの鍵を見つけ出した。


「やった! これで先に進める!」と小鉄が歓声を上げると、突然、向こうから怪しい影が現れた。


 それは仮想空間の敵キャラクターだった。鋭い目を光らせた狼のような獣が、低い唸り声を上げながら5人に向かってくる。


「走れ!」勇士の声に反応して、全員が全力で逃げ出した。


 飛び石を渡り、つり橋を駆け抜ける。石が崩れたり、橋が揺れたりする中、5人は息を切らしながらもなんとか逃げ切った。


「はぁ、はぁ……なんとか助かったね」真奈が額の汗を拭いながら言うと、詩音が安堵の息を吐いた。


「これ、思った以上にハードだね」


「でも、めっちゃ楽しい!」小鉄が笑顔で振り返る。


「次はどんな冒険が待ってるのかな……」めぐみの呟きに、全員が期待の眼差しを浮かべた。冒険はまだ始まったばかりだった。




 ゲームが進むにつれて難易度が上がり、5人は次々と挑戦を強いられた。高層ビルの屋上をつり橋で渡る場面では、風の強さを再現した仮想演出により、橋が揺れるたびにハラハラする場面が続く。


 詩音が「これ、本当に落ちたらどうなるのかな」と不安そうに言うと、真奈が笑いながら「きっとゲームオーバーになるだけだよ。でも慎重にね」と声をかけた。小鉄が「大丈夫だって! 俺が先に行くから!」と自信満々に渡り始め、続いてみんながついていく。だが、最後尾のめぐみが踏んだ飛び石が動き出し、彼女は慌ててバランスを取った。


 真奈が冷静に指示を出す。「めぐみちゃん、その場で止まって! 少しずつ戻ってみて!」

 めぐみは恐る恐る後退し、なんとか安全地帯に戻るとホッと胸をなでおろした。「ありがとう、真奈ちゃん」

 「大丈夫、大丈夫」と真奈が優しく微笑む。




 次のエリアでは、敵キャラクターが現れた。カラス型の仮想モンスターがビルの窓から飛び出し、5人に襲いかかる。「うわっ!」と驚いた声を上げる小鉄。勇士が冷静に「一箇所に固まると危ない! 散らばって避けよう!」と指示を出し、全員が素早く散開する。


 真奈はビルの陰に隠れながら叫んだ。「ここ安全だよ! みんなも早く!」

 勇士が真奈の近くに移動し、「さすが真奈ちゃん、判断早いな」と褒めると、真奈は「勇士君ってすごいね!」と返した。その言葉に勇士は少し照れた様子で「そんなことないよ。みんながいたからだよ」と答える。そのやり取りを見た詩音は、心の中で何かを感じたように視線を少しそらした。




 最後のステージに近づくと、目の前に東京タワーがそびえ立った。塔の赤と白が夕陽に染まり、美しいシルエットを見せている。ゲームの中でも現実とほぼ変わらない景色が広がり、全員がその再現度に驚嘆した。


 小鉄が感嘆の声を上げる。「これ、マジですごいな!」

 めぐみが「本当に秘宝を探すの?」と驚くと、詩音が「そうみたい。なんかワクワクするね」と笑った。


 これ以上進むには、「不死鳥の羽根」というアイテムが必要であることが明らかになる。アイテムは周辺のビルに隠されており、5人はそれぞれ役割分担をして探索を始めた。




 小鉄はアクションに強く、動き回って屋上を駆け巡り、次々と隠されたアイテムを発見する。めぐみは頭脳派として、謎解きの鍵を見つけてチームをサポート。勇士は的確な指示を出して全体をまとめ、詩音は明るくみんなを励ましながら進む。そして真奈は、自分が得意な観察力を活かして、最後の1枚を見つける。


 「やった! これで全部揃った!」と真奈が声を上げると、全員が拍手して喜んだ。だが、その時、遠くからカラスの鳴き声が響き渡った。「次はラスボスかもね」と詩音が言うと、小鉄が「よっしゃ、準備万端だ!」と拳を握りしめた。




 5人は東京タワー近くのビルの屋上に集まり、次のステージに進む準備を整える。「この先に何が待ってるんだろう」と勇士が呟くと、真奈は「みんなで力を合わせれば、きっと大丈夫だよ」と微笑んだ。夕陽に照らされる5人の姿が、次の大冒険を予感させた。

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