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実は、貧乏人じゃありません。  作者: winten
第1章「出逢い」
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第3話「フィットネスクラブ」

 宝くじの当選と、失敗した恋の痛みが入り混じった日々が続く中、真一はふと、これでは何も変わらないと気づいた。大金を手にして一時の興奮を味わったものの、心の奥底には虚しさが残り、自分を見つめ直す必要があることを悟った。

そんな彼の目に写ったTV画面には芸能人ゆうきなおみのフィットネスクラブのCM。真一が次に決心したのは、自分自身を変えることだった。


「もうこのままじゃダメだ。外見も内面も、全部を変えよう」


 そう決意した真一は、近所にあるフィットネスクラブの会員になることを決めた。これまでの自堕落な生活から脱却し、健康的な体を取り戻すことを目標に掲げたのだ。




 初めてフィットネスクラブに足を踏み入れた日、真一は自分の体型に対して改めてショックを受けた。鏡に映るのは、腹の出た中肉中背の自分。隣のランニングマシンで颯爽と走る若者たちと比べ、自分がいかに不摂生な生活を送ってきたかが痛感される。だが、ここで引き返すわけにはいかない。


 トレーナーに指導を受けながら、真一は徐々に運動習慣を身につけていった。最初は息も絶え絶えでランニングマシンを5分続けるのが限界だったが、毎日の積み重ねが少しずつ効果を現し、10分、15分と走れる時間が増えていった。筋トレも同様で、最初は軽いダンベルさえも重たく感じたが、体が慣れてくると徐々に重さを増やすことができた。


 トレーニングを重ねるにつれ、体重が少しずつ減り、服のサイズも一つ下がった。体の変化は目に見える形で表れ、鏡に映る自分の姿が少し引き締まっていくたびに、真一は自信を取り戻しつつあった。




 そんなある日、フィットネスクラブの帰り道、真一は横断歩道の手前で立ち往生しているお婆ちゃんを見かけた。信号が変わりそうなのに、お婆ちゃんは車の流れに怯えているようだった。


「お婆ちゃん、大丈夫ですか?」


 真一は自然に声をかけ、手をそっと取った。お婆ちゃんは安心したように微笑み、真一に感謝の言葉を述べた。


「ありがとうね、若いのに優しいねえ」


 お婆ちゃんの手を引いて横断歩道を渡りお礼を言われるも「いや当たり前の事をしただけですから」と立ち去ったが、彼は自分が少しずつでも社会に貢献できているような気がして、心が温かくなった。フィットネスクラブに通い始めてから体だけでなく、心も少しずつ健康を取り戻しているのを感じていた。




 別の日には、道に迷った外国人観光客に遭遇した。彼らは地図を片手に困った顔をしていたが、英語があまり得意でない真一には少し緊張する場面だった。それでも、「困っている人を助ける」という新たな信念を胸に抱く真一は、拙い英語でなんとか彼らを助けようと試みた。


「エクスキューズミー? キャナイヘルプユー? ウィーアーユーゴーイング?」


 観光客は真一の言葉に反応し、駅を探していると言うが、彼の英語はおぼつかなく、観光客も困惑していた。それでも、真一は身振り手振りと、地図を見ながらあれこれと説明しようとするが、通じない。結局、言葉では伝えきれず、彼は観光客を直接目的地の駅まで連れて行くことにした。


「カムウィズミー! アイウィル……ショウユーザウェイ!」


 観光客たちは笑顔でついてきて、駅に到着すると感謝の言葉を繰り返した。真一はその素朴な喜びを胸に、満足感を感じていた。どんなに小さなことでも、人に親切にすることで自分の内面が磨かれているような気がしたのだ。

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