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実は、貧乏人じゃありません。  作者: winten
第1章「出逢い」
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第15話「サプライズの不安」

 真一と梨奈の結婚がいよいよ現実のものとなろうとしていた。お互いの両親への挨拶を済ませ、次はいよいよ婚姻届を提出し、正式に夫婦となる日が近づいていた。


 二人は婚姻届を出す日を慎重に選んだ。そこには特別な意味があった。二人が初めて「カフェ・リベラ」で梨奈と話をして知り合った記念日だったのだ。この日に籍を入れることが、二人にとって新たなスタートを意味する大切な日となるはずだった。日付が変わってしまえば、二人にとってのこの特別な日が失われてしまう。だからこそ、この日にこだわったのだ。




 その日、真一は役所に向かう途中で仕事のトラブルに巻き込まれた。予期しない問題が発生し、急ぎ対応を迫られる。アプリの不具合に関する苦情が多く寄せられ、その対応に追われていた。電話が鳴りやまない中、どうしても手を離せない状況に追い込まれていた。


「くそ……今日だけは外せないんだ」


 真一は焦りを感じつつも、問題をなんとか片付けようと必死だった。しかし時間は刻々と過ぎていき、役所での梨奈との待ち合わせ時間が迫っていた。心の中で、明日に延期すればいいという声が囁いたが、それを即座に打ち消した。今日でなければならないのだ。二人にとってこの特別な日に婚姻届を提出することは、象徴的な意味を持っていた。彼らが共に歩む未来の始まりとなる日だからだ。


 やっとのことで仕事が片付き、真一は全速力で役所へ向かった。道中、彼の胸中は不安と焦りでいっぱいだった。梨奈が待っているはずだ。もしかして、もう諦めて帰ってしまったのではないかという不安が頭をよぎる。


 ギリギリで日付が変わる前に、真一は役所に到着した。梨奈はそこで彼を待っていた。夜風が冷たく、彼女は肩を軽く震わせていたが、表情は穏やかで微笑んでいた。


「待たせてごめん、梨奈……」


「ううん、大丈夫。無事に間に合って良かったです」


 梨奈はそう言って真一を優しく見つめた。その瞬間、真一の心は安堵に包まれた。二人は手を取り合い、無事に婚姻届を提出した。この瞬間、彼らは正式に夫婦となり、二人の新たな人生が始まったのだ。




 しかし、結婚式の準備が進むにつれ、真一の心にはある不安が押し寄せていた。それは、自分が準備しているサプライズ――豪華な結婚式――を梨奈がどう受け取るのか、ということだった。


 梨奈はこれまで、真一を「普通のサラリーマン」だと信じている。彼女は慎ましい性格で、派手なことや贅沢を求めない。二人で結婚式を計画した際も、彼女は安価な式場を選び、シンプルな式を望んでいた。それを見た真一は一瞬戸惑ったが、うまく言葉を選びながら、あらかじめ予約していた高級式場に彼女を誘導した。


「ちょっとこの式場も見てみないか? 僕たちにぴったりな場所かもしれないよ」


 真一は自然に提案し、梨奈をその豪華な式場へと導いた。梨奈はそれに気づくことなく、式場の魅力に惹かれていた。彼女は予算の都合上、式場が提供する基本的なプランで十分だと思っていたが、実際にはその裏で、真一がこっそりと豪華なオプションを追加していたのだ。式場スタッフともすでに打ち合わせを重ね、真一の計画が実行されるよう手配は万全だった。




 とはいえ、真一の心は晴れなかった。結婚式が近づくにつれ、彼は自分の計画に対して次第に不安を感じ始めた。梨奈がこのサプライズをどう受け取るのか――それが彼の頭を占めるようになっていた。


「梨奈が僕の本当の姿を知ったら、どう思うだろう……?」


 これまで隠してきた莫大な資産の存在を、彼女に告白する瞬間が迫っていた。真一は梨奈が自分を金持ちとしてではなく、一人の人間として愛してくれていることを信じていた。しかし、心のどこかで不安が残っていた。もし、彼の財産を知った途端に、梨奈の愛が揺らぐことがあれば――そんな恐怖が彼の心を支配し始めていた。


 結婚式の日が近づくにつれ、その不安はますます大きくなった。真一は自分の財産を明かすタイミングを慎重に計りつつ、果たしてそれが良い方向に働くのか、それとも逆に梨奈を驚かせ、戸惑わせてしまうのではないかという恐れに苛まれていた。


 梨奈は贅沢を好むタイプではない。彼女はこれまで慎ましく、堅実な生活を送ってきた。そんな彼女にとって、真一が突然大金持ちであることを知るというのは、かなりのショックだろう。真一はその瞬間が、彼女の愛を試すものになるのではないかと恐れた。


「もし、彼女が僕のお金を知って、僕を違う目で見るようになったら……」


 そんな最悪のシナリオが、頭の中を何度もよぎった。それでも、真一は梨奈の優しさや彼女とのこれまでの信頼関係を信じるしかなかった。梨奈はお金に惑わされる女性ではない、と自分に言い聞かせながらも、心の奥底では疑念が消えなかった。




 結婚式の準備は順調に進んでいた。式場スタッフとの打ち合わせも順調で、真一が計画した豪華なサプライズが次第に形になりつつあった。しかし、その一方で、真一の不安は高まり続けていた。


「僕は梨奈を幸せにしたい……でも、僕のやり方で本当にいいのだろうか?」


 結婚式の日が迫る中で、真一は自分の計画に確信を持ちながらも、心のどこかで葛藤を抱えていた。それでも、彼はその日が来るのを待つしかなかった。全てを打ち明けた後、梨奈がどんな反応を見せるのか――それが、真一にとって最大の試練となるだろう。

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