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実は、貧乏人じゃありません。  作者: winten
第1章「出逢い」
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第13話「新しい事業」

 事業は想像以上に難航していた。


 真一が立ち上げた株式会社「Japan Adventures」は、訪日外国人向けのガイドアプリを開発するという目標のもと、意気揚々とスタートした。しかし、彼には経営の経験がなかった。お金ならある、アイデアもある。それでも、現実はそんなに甘くはないことをすぐに思い知らされる。


 外注に頼んだアプリの開発は、最初から問題だらけだった。アプリの動作が遅かったり、ユーザーインターフェースが使いにくかったり、GPSの精度が低かったりと、不具合が次々に発生。リリースしてもユーザーは思ったほど増えず、アプリのレビューも芳しくなかった。


「こんなに難しいものなのか……」


 真一は自問自答しながらも、諦めることはなかった。彼には莫大な資産があり、仮にこの事業が失敗しても生活に困ることはない。その安心感があるおかげで、焦らずに問題に対処することができた。真一は毎日フィードバックを受け、開発チームと話し合いを重ねてアプリの改善に取り組んだ。


「これが他人にやらされる仕事だったら、もうとっくに辞めていたかもな……」


 真一は自分の手で事業を進めることにやりがいを感じていた。困難な状況に陥っても、今回は逃げ出すつもりはなかった。だが、技術面やデザインの問題に直面するたび、自分一人では限界があることも感じ始めていた。そこで、専門的な知識を持った人材を雇うことに決めた。


 開発やデザインのプロフェッショナルを探し、優秀なエンジニアやデザイナーを雇い入れることで、チームを強化した。今までは外注に頼っていたが、自分の手の届く範囲に専門家を置くことで、より効率的に問題に取り組むことができるようになった。技術的な面倒な部分はプロに任せ、自分はビジネスの全体像を考えることに集中できるようになった。




 経営が安定してくる一方で、梨奈との関係も順調に進んでいた。彼が「就職した」と話して以来、梨奈はますます真一に寄り添ってくれた。梨奈は真一のことを「真面目で努力家」と評価しており、その様子に真一も心の中で安堵していた。


 しかし、真一にはまだ梨奈に隠している大きな秘密があった。それは、自分が実は莫大な財産を持っていること。彼女に対して、普通のサラリーマンであるように見せ続けているのだ。


「就職はしたが、会社を経営しているなんて言ったらどう思われるだろう……」


 真一は、自分が会社を立ち上げ、成功を目指して頑張っていることを梨奈に話すべきかどうか悩んでいた。愛しているからこそ、すべてを打ち明けたい。しかし、梨奈が自分を金持ちだと知って目の色を変えてしまったら――その考えが真一を縛りつけていた。




 アプリの開発が進むにつれて、事業は少しずつ軌道に乗り始めた。日本を訪れる外国人観光客の増加に伴い、彼のアプリ「Japan Adventures」も利用者を増やし、次第に高い評価を得るようになった。観光地の情報や現地の人と交流できるサービスが特に好評で、口コミが広がり、アプリのダウンロード数は急増した。


「やっと、ここまで来たんだ……」


 3年の月日が流れ、真一は自分の力で事業を軌道に乗せたことに深い満足感を感じていた。最初は不安だらけだったが、今では多くの外国人観光客にとって必要なツールとしてアプリが認知されている。成功を掴んだ瞬間だった。


 だが、その成功の喜びとは裏腹に、真一の心には重い葛藤があった。


「梨奈に、いつ本当のことを打ち明けるべきなんだろう……」


 梨奈との関係は順調だったが、真一はその裏で自分が莫大な資産を持っていることを隠し続けていた。彼女に対しての嘘が次第に彼を苦しめるようになっていた。愛しているからこそ、本当の自分を見せたい。しかし、今まで築いてきた関係がその嘘の上に成り立っていると考えると、打ち明ける勇気が出なかった。




 ある日の夜、真一は高級マンションのリビングで一人考え込んでいた。会社が成功し、自分の力で多くのユーザーを獲得した。それでも、心の中では満足感と不安が交錯していた。梨奈がもし、自分の財産のことを知ったら、どう思うのだろう? 愛情が壊れてしまうのではないかという不安が、真一の心に影を落としていた。


「梨奈に本当のことを話すタイミングなんて来るのだろうか……」


 真一は、成功した事業を眺めながら、彼女との未来を考え続けた。会社は順調だが、梨奈との関係をどうすべきか――それが彼にとって最大の課題となっていた。

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