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実は、貧乏人じゃありません。  作者: winten
第1章「出逢い」
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第11話「結婚の条件」

「大事な話があるんだ……」


 真一はその言葉を胸に反芻しながら、プロポーズのタイミングを逃していた。まさか自分がこんなに緊張するとは思っていなかった。目の前には梨奈がいて、彼女は真一が話しかけるのを待っていた。


「話ってなんですか?」


 梨奈が小首をかしげ、興味深そうに見つめている。


「あ、いや、その……」


 しどろもどろになった真一は、焦ってしまう。今プロポーズするのはどうもこの場では無理だと感じた。もっとロマンチックな場所で、もっと特別な瞬間にしたい。それに、梨奈にはまだお金のことも明かせていない。コンビニのアルバイトで生活していることになっている現状では、今ここでプロポーズをするのはリスクが大きすぎる。


「梨奈はさ、結婚するならどんな人がいい?」


 焦りから問題を先送りしようとする真一の問いに、梨奈は少し驚いた様子だったが、真剣に考え込んだ。


「結婚ですか……えっと、やっぱり優しい人がいいですね。あと……経済力がある人?」


「経済力……か」


 真一の心にその言葉が刺さる。お金ならたんまりある。それも配当金だけで年に2000万円も手に入るし、いざとなれば残りの9億円だってある。だが、梨奈にはアルバイトで生活をしていることになっている。自分の本当の姿を隠している以上、彼女の「経済力」という条件をどう満たすのか、少し考えてしまった。


「ちゃんとした仕事をしないとな」


 と、真一がぼそりとつぶやくと、梨奈は彼の真剣な表情に気づき、思わず両手で口を塞いだ。


「それって……」


 梨奈の瞳は不安と期待が交錯したように揺れていた。


 真一は、はっきりとはプロポーズの言葉を口にできなかったが、梨奈の反応を見て自分の胸が高鳴るのを感じた。彼女も自分のことを本気で考えてくれている。だが、その一方で、アルバイト生活という設定を続けることには限界が近づいているのではないかという不安も頭をよぎる。


 梨奈が結婚相手に求める「経済力」という条件。自分にはその力があるのに、貧乏な生活を演じ続けることで、どこかで彼女を失うことになるのではないか。自分の本当の姿を見せられないまま、この関係を続けることができるのか――そんな葛藤が、真一の心に広がっていた。




 数日後、真一は自宅で一人、頭を抱えていた。梨奈に対して本気でプロポーズを考えていたのに、結局何も進展していない。お金を隠し、アルバイト生活を装い続けるのは、もう限界かもしれない。しかし、正直に言ったところで梨奈が自分を信じてくれるのか。それが最大の不安だった。


「どうするべきか……」


 彼は自問自答しながら、フィットネスクラブに通い続け、生活を繰り返していた。そんな中、梨奈からの連絡が来るたびに、胸の中で何かがざわめくのを感じる。


「もし、彼女が自分のお金のことを知ったら?」


 その問いに対する答えは、まだ出ていない。しかし、真一は次第に、自分の抱える秘密がどんどん大きくなっているように感じ始めていた。


 梨奈との未来を見据えた真一は、このまま隠し続けるのか、それとも本当の自分を見せるのか――選択を迫られているように感じていた。

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