表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

4-P1

「おはよう。サキ。今日は……って、もう桜も散っちゃったし、お花見って感じはしないね」


 言いながら辺りを見回してみるけど、もう桃色の花は一つも枝に残っていなくて、目に映るのは青々とした木々と、足元に散らばる、踏まれてぐちゃぐちゃに汚れた、桜だったものの花弁だけ。気温だって今は早朝で涼しいけれど、お昼には汗ばむくらいになるらしい。


 もう花見のシーズンも過ぎきったからか、それとも今が朝の五時という時間だからか、わたし以外に人は見当たらない。


 こんな朝早くに家を出た理由は、最後くらいは誰にも邪魔されず、サキと話がしたかったからだ。


 ここ数日、座っていた木に近づく。今日はレジャーシートを広げない。木の幹に手を当ててみる。ゴツゴツとした表面はひんやりとして冷たかった。


 一度、大きく息を吸って、肺に空気を送る。重く、それでいて早い鼓動を落ち着ける。


 そうして、わたしは誰に向けてでもなく語りかける。


「今日までずっとお花見に来たよ。毎日。サキがどうしてお花見が好きで、何を楽しんでたのか、何を考えてたのか知りたくて。そうすれば、サキがどうして死んじゃったのか分かると思ったから。でもね……」


 喉に力を込めて、ゴクリと唾を飲み込む。


「何も分からなかった。手帳に書いてくれたこと以上のことは全然分からなかったよ」


 毎日、ずっとサキが何を考えていたのかだけを考え続けた。お花見なんて言ってみたけど、花なんて全く興味がないし、桜の散る景色が綺麗なのは理解できるけど、綺麗なだけで心を打たれたなんて感覚を覚えたことは一度も無い。


 桃色の花が咲いて、散って、緑の葉が芽吹く。それだけ。毎年同じ。それの繰り返し。そこに感動なんてしない。


 ただサキの思いが知りたくて、サキの真似をしていただけだ。

でも、何も分からなかった。


 サキの思いを知ろうとすればするほど、余計にサキという人間が分からなくなった。もしかしたら、なんてきっかけを掴めたと思っても、それすらわたしの中のサキのイメージに当てはめているだけなのかもしれないと疑ってしまう。


「わたし、バカだから、サキほど頭が良くないから分からないんだよ。もっと詳しく書いておいてよ。ちゃんと言ってよ。じゃないと、何も、分からないんだよ」


 毎日の花見でわたしには到底、サキの思いなんて理解できっこないってことには気がついた。気づいてしまった。

お付き合いいただき、ありがとうございます。

次回更新は明日20時頃を予定しています。

よろしくおねがいします。


また、感想、アドバイス、ダメ出しはご自由にお願いします。

とても喜びます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ