中間テスト2週間前
ある日の放課後。
三嶋と須藤、石川と空音の4人は図書室で集まって勉強会をしていた。
「三嶋、この『スセネ』ってなに?」
「それはスセネじゃなくて『scene』だね。」
「じゃあこっちの『リエ』ってのは誰?」
「それはリエじゃなくて『lie』だね。」
「英語って読み方難しすぎるな」
「もし僕達が3年になっても、僕たちのこと先輩なんて呼ばなくていいからね」
あまりの須藤の壊滅っぷりに、三嶋は思わず匙を投げそうになってしまった。
須藤は中学の頃から補習の常連で、特に英語の壊滅っぷりは凄まじい。
流石にこのまま補習入りするのはマズイため、三嶋に勉強を教えて欲しいと頼み込んだのだ。
そして、須藤のほかに補習候補がもう1人。
「うぅ......もう数学いやだぁ」
「ここは絶対試験に出るから、もう少し頑張って!空音」
「算数に戻りたい......xやyのない世界に行きたい......」
空音は補習こそ呼ばれないものの、いつもギリギリでなんとか補習を抜け出せるほどの実力のため、石川が勉強を教えている。
「数式を見ていると頭が痛くなってくるよ......」
「めっちゃ分かる!英語も長文とかだと目がチカチカしてくるし」
「国語だけは友達だと思っていたのに、引っ掛け問題とか古文とか難しいし......」
空音と須藤がここぞと言わんばかりに意気投合している。
「なんか、笹川さんが勉強苦手だって意外だった」
「空音は中学のときから勉強苦手だったよ。でも頑張り屋さんだからギリギリ補習回避するんだよね」
「それなら須藤よりは全然マシだね」
須藤はテスト前でも関係なしに勉強をせずに絵を描いている。
そして当たり前のように赤点をとる。
そんな須藤と比べてしまったら、空音の方が何倍もマシだ。
「三嶋さん、笹川さん。」
後ろから声をかけられ、見ると、黒髪ロングヘアの凛とした雰囲気の女の子が立っていた。
「あ、篠崎さん。どうしたの?」
篠崎 恋。
三嶋と空音と同じ図書委員で、1年の後輩だ。
あまり詳しく知らないが、美人なうえに理知的でクールな雰囲気で1年生の間ではかなりの人気があるらしい。
「お邪魔してしまってごめんなさい。笹川さんにお礼を言いたくて。」
「私?何かしましたっけ?」
「先日、私が休みの時に当番を変わって頂いたと聞いて。直接お礼を言う機会を伺ってました。」
「あ〜、あの時の。」
「あの時はありがとうございました。」
篠崎さんは丁寧に頭を下げてお礼を言った。
「そんな、お礼なんていいのに」
「いえ、私の気が済みませんので。それでは。」
そう言って、ぺこりと会釈すると図書委員のカウンターへ戻って行った。
「なんか、律儀でいい子そうだったね〜」
石川が感心したようにそう言った。
「そうだね。須藤と比べようもないほど頭良さそうだし。」
「............」
軽口を叩いたつもりだが、須藤からは反応がない。
「須藤、どうかした?」
「ん、ああ悪い。そろそろいい時間だし帰らね?」
見ると下校時間の15分前になっていた。
「そうだね。じゃあ帰ろうか」
それよりも須藤がぼーっとしてるなんて珍しいな。
風邪......いやそれはないか。