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2人きりの帰り道

三嶋は今この瞬間、最大のピンチを迎えていた。

(どうしてこうなった......)

三嶋は少し困惑しながら隣をちらっと見ると、自分の傘の中に険しい表情の空音がいて一緒に歩いている。

(本当に、どうしてこうなった.....!!)

少し遡って数分前。

「ねぇ、三嶋くんって駅までだよね?」

石川が確認するように訪ねてきた。

「うん、そうだけど」

すると石川は少しにんまりした表情をうかべながらこういった。

「私、こっちだから。」

石川はそう言いながら右の方向の道を指さした。

三嶋の向かう駅はまっすぐのため、石川とここで分かれることになる。

「でさ、空音の家は駅の近くだから家まで送っていってくれないかな?」

「え?」

空音はいま石川の傘に入れてもらってる状態で、その石川が帰るということは......

空音の方に目をやると、空音も状況に気づいたのか石川に抗議の視線をおくりながらおどおどしてるように見える。

「さ、笹川さんはそれでいいかな......?」

「......うん」

空音は無愛想に返事した。

そして、現在に至る。

2人は1本の傘の中に入って、無言のまま歩き続けていた。

(このまま無言じゃさすがにまずいよな)

「笹川さんの家って駅から近いんだよね」

「うん」

「そっか......家に近づいたら教えてくれる?」

「うん」

「あ、ありがと......」

「うん」

(どうしよう、会話が続く気がしない。他に話題探した方がいいのかな......)

三嶋は笹川さんとの会話を続けるために策を巡らせている。

「さ、笹川さんって趣味とか何かあるの?休みの日にすることとか......」

「特に」

「......そ、そっか」

「うん」

三嶋はあまりに続かない会話に心が折れかけていた。

しかし、空音の方は心が折れかけるどころの騒ぎではなかった。

(ど、どうしよう〜〜全然話続けられないよぉぉ......隣に三嶋くんがいるから緊張しちゃって顔も強ばるし、何を話したらいいか分からないし)

空音は心が折れかけるどころか、それどころじゃないパニック状態に陥っていた。

(趣味聞かれて『特に』って何?私のばかぁ......)

空音は頭の中で1人反省会を始めていた。

(このままじゃ三嶋くんに嫌われちゃうかも......いや、もしかしたらすでに......)

ネガティブな思考が空音の頭の中を駆け巡っていく。

「笹川さん、顔色悪そうだけど大丈夫?」

「うん」

「そっか......ならいいけど」

(三嶋くんはこんな私にも心配してくれて優しいな......)

三嶋の何気ない気遣いを嬉しく思う反面、少しの不安がよぎる。

(そんな三嶋くんに嫌われたら私、嫌だな)

その瞬間、三嶋は差していた傘を畳んだ。

空を見ると、鈍色の雲から晴れ間が見えた。

「雨上がったみたいだね」

「......うん」

(せめて、今日のお礼だけでも伝えなきゃ)

「......あ、ありが」

「笹川さん!危ない!」

お礼を言おうとした瞬間、三嶋は空音の腕を引っ張って抱き寄せた。

そのあとすぐに、車が横を通り水をバシャリと飛ばしていき、水は三嶋の背中に掛かってしまった。

「冷たぁ......笹川さん、濡れなかった?」

三嶋が空音を抱き寄せて庇った甲斐あって、空音はほとんど被害がなかった。

「あ、うん......」

(ちゃんとお礼を言わないと......)

「あ、ありが......」

「ごめんね、急に腕引っ張ったりして」

「......え?」

どうして謝るのか、空音には分からなかった。

「いや、石川さんは笹川さんが僕のこと嫌ってないって言ってたけど、笹川さんがさっきから顔色が良くないのを見てたら、僕のこと嫌ってるのかなって思って。」

(え......?)

「仕方なかったとはいえ、嫌じゃなかったかなって思って」

(違う。私は嫌ってるんじゃなくて......!)

「......ち、ちが......」

空音は緊張からか声が上手く出ない。

「じゃあまた、気をつけてね」

(三嶋くんが行っちゃう......まだお礼も言えてないのに......)

三嶋と空音の距離がどんどん遠くなる。

(このままじゃ、嫌だ......!)

「待って」

「......!?笹川さん?」

空音は三嶋の腕にしがみつくようにしながら、三嶋を呼び止めた。

「さ......さっきは、ありがとう」

空音は少し俯きながら、ゆっくりとお礼の言葉を紡いでいく。

「そんなの気にしなくても......」

「それと......」

緊張と恥ずかしさを堪えながら、空音は上目遣い気味に伝えた。

「三嶋くんのこと、嫌ってないよ?」

「......!?」

「これ使って」

空音は恥ずかしさからか、三嶋にハンカチを渡してそそくさと帰って行った。

その一瞬の出来事に、三嶋は立ち尽くしてしまう。

あまりに一瞬で驚いてしまうのと同時に、嫌われてないことに安堵する三嶋だった。


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