雨の日の帰り道
放課後。
授業が終わり帰ろうとすると、雨が降っていた。
土砂降りとまではいかないが、雨粒が忙しく地面を叩く音がする。
いくら傘があるとはいえ、こんな雨の中帰るのかと思うと一気に気が重くなるのを感じた。
「はぁぁぁ......」
三嶋は鬱々とした気分をため息に乗せて吐き出した。
「三嶋くん、今帰り?」
後ろから声をかけられ、振り返ると石川と空音の2人が立っていた。
「うん。2人もいま帰り?」
「そうだよ〜」
ちらっと空音の方に視線を向けると、空音が傘を持ってないのに気づいた。
「あれ?笹川さんは傘持ってないの?」
「......うん」
空音はササッと石川の後ろに隠れて、無愛想に返事した。
「空音が傘忘れちゃったみたいでさ〜一緒に帰ることにしたんだ。ね!」
「んふぅ?!だはら、いひなり抱きつふのはやめへよぉ......」
石川は空音を抱き寄せるようにして抱きついて、空音は懸命に抗議の声を上げる。
もはやこの一連の流れが日常となっている。
「そうだ。三嶋くんって帰りは電車?」
空音を解放するや否や、石川はそう訪ねてきた。
「そうだけど......」
「じゃあ途中まで一緒だから3人で帰らない?」
「「え?」」
三嶋と空音の声が重なった。
三嶋からしては問題ないが、空音も一緒に帰るとなると少し不安が残る。
ちらっと空音の方に視線をやると、表情を強ばらせて石川の後ろにササッと隠れてしまった。
「僕はいいけど、笹川さんはどうかな?」
「......うん」
空音は表情を固く強ばらせながら返事をした。
どうしよう。全然大丈夫な気がしない。
「大丈夫だよ。空音もこう見えて三嶋くんを嫌がってる訳じゃないと思うからさ。ね?」
「......うん。」
そう、なのかな?
空音とはあまり話したことない三嶋からしたらよく分からないが、空音と仲のいい石川がそういうならそうなのかもしれない。
「うん、じゃあ一緒に帰ろう」
そう言って3人は傘を差して駅の方へ向かった。
雨はザーザーと降りしきり、空は鈍色の雲で覆われている。
彩りのない空の色に呼応するように、すれ違う人は皆鬱々とした表情を浮かべている。
雨の日は少なからず重たい気分になる人がほとんどだろう。
しかし、三嶋の隣の傘に例外が1名。
「〜〜♪」
その例外の1名は口笛を口ずさみながら満面の笑みを浮かべている。
「石川さん、嬉しそうだね」
「凄い嬉しいよ!こんな至近距離で空音と一緒に歩けるなんて、雨最高!」
そう言いながら、石川は空音の肩に手を回してご機嫌そうな足取りで歩いていた。
「石川さん、セクハラは同性間でも起こり得るって知ってる?」
「うぅ......そ、そんなことないよね?空音〜」
「うーん、今のあきちゃんはちょっとおじさんみたいかな?」
「え......?!」
空音の素直そうな表情から出た素直な言葉に、石川はショックのあまり固まってしまった。
「うぅ......2人とも辛辣」
「石川さん、ドンマイ」
石川は三嶋の適当な慰めで、余計に元気を無くしていく。
さっきまでの嬉しそうな様子はすっかり消え失せていた。
「あきちゃん、少し肩濡れてない?」
見ると、石川のブレザーの肩の部分が少しだけ濡れている。
どうやら空音が濡れないように、少しだけ傘を空音の方に傾けてるようだ。
「ん?少しだけだからすぐ乾くでしょ〜」
石川は気にした様子もなくそう言った。
すると空音は石川の腕に抱きつくようにして距離を埋めた。
「ほら、こうしたら濡れないでしょ?」
空音は石川の腕に抱きつきながら、上目遣いでそう言った。
「......三嶋くん」
「石川さん、どうしたの?」
「私の隣に天使がいるんだけど、どうしたらいい?」
「僕に聞かれても困るかな」
「ちょっとあきちゃん、恥ずかしいよ......」
空音は照れたように顔を赤くしてそう言った。
「その照れてる顔も、最高にかわいい」
「あきちゃん、からかわないで!」
空音は顔を赤くしたまま少しムスッとした表情をうかべた。
「「可愛い」」
思わず三嶋まで口に出してしまった。
「あ、ごめん。思わず。」
「......!!??」
「三嶋くんもそう言ってるよ〜良かったね?」
石川はからかうようににんまり笑った。
空音は顔を真っ赤に染めて悶えるようにしながら、顔をそっぽに向けてしまった。