三嶋の夢
「もしもし。聞こえる?」
「おっす三嶋〜」
夜9時頃、三嶋はパソコンの前に座って須藤と通話している。
三嶋はパソコンのペイントソフトを起動して、製作途中のイラストの色塗り作業に取り掛かった。
「須藤ってさ、キャラの影を塗る時って何色で塗ってる?」
「そうだなぁ......場合にもよるけど演出によって変えることが多いな。爽やかさを出したいなら青系の色を乗算で乗せたり。」
「でもさ、青系の色を肌で塗ると血色感が悪くなる気がするんだけど、須藤はどうやってる?」
「俺は肌色だけ影色をピンクに寄せたり、オーバーレイやソフトライトとかで調整したりかな〜」
三嶋は須藤からのアドバイス通りに、影を塗っていく。
三嶋はイラストレーターを目指していて、夜の9時頃に須藤から絵の指導を受けている。
須藤はフォロワー7万人ほどを抱える人気イラストレーターでかなりの実力を持っているが、須藤が絵を描いてることは三嶋以外だれも知らない。
「須藤はいま何描いてるの?」
「青髪のオリキャラ〜健全寄りの。」
「須藤が健全絵描くのって珍しいね」
「バニー衣装の女の子が手錠で拘束されてベッドに寝転がって、期待した表情をしてるイラスト」
「それを一般的には健全とは言わないんだよ」
「何も見えてないし何もしてないから健全」
須藤は謎理論を口にしながらペンを走らせていく。
須藤が絵を描いてることを隠す理由はこれだ。
絵はプロと遜色ないレベルに到達するどころかむしろ凌駕しているレベルなのに、R18寄りのイラストを投稿するため公言しづらいらしい。
「にぃに......」
部屋の扉が開く音がして、振り返ると三嶋の義妹である真奈が立っていた。
三嶋が子供の時に両親が離婚しており、三嶋は母親に引き取られている。
その後、母親が再婚して、その義理の父親の連れ子がまなだった。
当初は人見知りしていた真奈だが、今ではすっかり三嶋に懐いている。
「真奈、こんな遅くにどうしたの?」
時計を見るともうすぐ10時になる。5歳の女の子にとってはもう寝ている時間帯のはずだ。
「にぃに。一緒に寝よう......?」
真奈は眠そうに目をこすりながら、上目遣いで聞いてきた。
「悪い須藤、もう落ちるね」
「相変わらずのシスコンだな」
「義妹を可愛がるのは義兄の特権だからね」
「すどくん、ばいばい」
「ばいばい、今度は真奈も一緒に遊ぼうな」
「うん!」
真奈はにへへっと幸せそうな笑顔を浮かべた。
真奈は結構人見知りするタイプなのだが、須藤と話すのは楽しいらしくかなり懐いている。
「じゃあ、ありがとう。また明日」
「おう!じゃな〜」
電話を切ると、真奈が少しだけ寂しそうな表情をしている。
「じゃあ、もう寝よっか」
「うん......」
なんだろう、義妹が寂しそうな顔をしてると僕まで切なくなってくる。
「今度、須藤を家に呼ぼっか?みんなで遊ぼ?」
「......うん!!」
ぱぁっと明るくなった表情を見て僕まで嬉しい気持ちになってくる。
やっぱり義妹には敵わないなと思いながら、部屋の電気を落とした。