朝の教室
初投稿です
拙い部分も多いかと思いますが、よろしくお願いします
高二に進級して約2週間ほど経った春の教室。
といってもクラス替えもなかったため、1年のときと何も変わらない緩みきった空気が流れる。
「ふゎぁぁあ…...」
三嶋は軽く手で抑えながら大口であくびをかくと、軽い眠気を感じて机に突っ伏した。
「おはよぉ!三嶋ァ!!」
「痛ァぁぁ!!」
机に突っ伏して間もなく、パァァン!という小気味よい音とともに背中に衝撃が走る。
衝撃とともに眠気は霧散していった。
「おはよう、三嶋」
「おはよ、須藤。人に挨拶するときに背中を叩く必要はないんだよ。」
「そこに三嶋の背中があったから、つい」
「登山家みたいな理由で叩かないで」
須藤 頼人。
中学のときからの友達で、たまにこうしてちょっかいをかけてくる。
少しイタズラが過ぎるときもあるが、基本的には頼りになるいいやつだ。たぶん。
「ところで、三嶋くん。お願いがあるのですが」
「嫌だ」
「まだ何も言ってないけど?!」
「宿題見せて欲しいって頼まれる気がして。」
「失敬な。」
「違った?」
「いや、あってるけどさ。」
「嫌だ」
「うへぇ......」
須藤は基本的に3時頃まで夜更かししてるらしく、宿題はいつも学校に来てからやる。
そういう理由で、しょっちゅう三嶋のところに宿題を見せて欲しいと頼み込んでいる。
「ほんとお願い!一生のお願い!」
「一生のお願いを今までに10回ほど聞いたけど。まぁ、いいよ」
三嶋は宿題のプリントを取り出して、須藤に手渡した。
「サンキュー三嶋!愛してる!!」
「愛って時には迷惑になるって知ってる?」
三嶋は須藤からの愛を拒否するように言い放った。
「2人ともおはよ〜。求愛してるときに邪魔してゴメンね〜」
「石川と笹川ちゃん!おはよー。三嶋からは振られたけどな」
「いやいや、2人とも外から見てる分にはラブラブだよ。私たちには敵わないけど、ね!」
「んぐぅ?!」
石川は一緒に登校してきた笹川を自分の胸に抱き寄せるようにして思い切りハグした。
「んふぅ......やめへよあきひゃん......」
「やぁだ。可愛すぎる空音が悪い!」
「石川さん、愛って時に迷惑になるって知ってる?」
「三嶋くんって、時々辛辣だよね〜」
この行き過ぎた愛を見せつけているのが石川あき。
長い黒髪をポニーテールにしてまとめているボーイッシュな女の子で、運動も勉強も上の方の成績を収めている。
そのうえ親しみやすい気さくな性格のため、男女問わず高い人気を誇っている。
特に、女子の間の一部の層から王子様的な扱いを受けているらしい。
その石川の過剰な愛を注がれているのが、笹川空音。
運動も勉強も可もなく不可もなくと言ったところで、石川と比べてしまうとどうしても見劣りしてしまう。
だが、空音はクラスの中で石川と並ぶほどにクラスから愛されている。
その理由は、
「ぷふぁ......もう、急に抱きつくとビックリするよあきちゃん」
「ごめんごめん。嫌だった?」
石川は空音を解放すると、一応の平謝りをした。
「え?びっくりはしたけど、あきちゃんは大好きだから嫌じゃないよ?」
「ごめん、もう1回抱きついていい?」
石川は有無を言わさずにすごい勢いで再度抱きついた。
「んぐ......?!まはいいっへ言っへないよ〜」
空音は超がつくほどの素直な子で、体格も小柄で小動物のような庇護欲を誘う可愛らしさがある。
それゆえ彼女は女子を中心としたクラス全体から可愛がられていて、彼女もクラス全体と仲がいい。
ある一人を除いて。
「そういえば、笹川さん」
三嶋が空音に声を掛けた瞬間、空音は先程まで纏っていた可愛らしさと打って変わって少し強ばった睨みつけるような表情になった。
「なに」
空音は短く言い放った。
「あ、いや。図書委員の当番のことなんだけど」
「うん」
「き、今日、僕と後輩の子の当番だったんだけど、その子が今日休みみたいで変わってもらえないかな?」
「うん」
「あ、ありがとう。」
「うん」
三嶋と空音が話す時はいつもこの調子だ。
空音は三嶋と話す時だけ、なぜか素っ気なくなる。
「僕、ちょっと飲み物買ってくる」
三嶋はなんとなく張り詰めた空気から逃げるように教室から出ていった。
「あいつ逃げたな」
「逃げたね、三嶋くん」
三嶋が教室から出ていったあと、空音は強ばった表情を次第に弛緩させていくと、次第に青ざめたような表情になり、
「......っはぁぁ......またやっちゃった」
後悔のうめき声をあげながら、頭を抱えてその場でしゃがみこんでしまった。
「ドンマイ空音。ナイスファイト」
「にしても、あんなに睨みつけちゃうものか?」
「うぅ......だって、緊張しちゃうんだもん」
空音は顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに言った。
「「かわいい」」
石川と須藤の声が見事にハモって、空音の顔はみるみるうちに赤くなった。
空音の素っ気なさの理由を、三嶋だけが知らない。
月曜と金曜日の週2回投稿をしていく予定です。
これからよろしくお願いします。