第二話:×××好きの転生者
ただの女子高生が地面も見えないような場所から落下したら死ぬ、これ常識。
そんな常識は古くなり、“喋る武器と一緒だとどうにか生きてる”というのが最近の定番なんだとか。
… 身をもって知りたくなかった…。
「―――… なぁんで上半身から地面に突っ込ませちゃうかなぁ!!
そこはさ!ふわっと魔法かなんかで浮かせたりとか翼生えたりとかしないの!?」
『魔法でも浮きそうにないぐらい重いのが悪い。… オレ様はフォローはするが無茶はしねぇ。
その代わり、防御強化はしたからかすり傷もねぇだろ。感謝しろ。』
「それなら一言でも声かけてくれたらいいじゃん!!落ちたら地面が柔らかいプリンの感触だった私の驚き返してよぉ… 顔どころか鼻や口に土が入って窒息するところだったんだよ!」
『ぷり…? … よくわからんがうるさい女だな。』
白い部屋が崩壊した時は本当に死を覚悟した。
しかしジャマーと偽名を名乗る武器の力によって、どうにか生き延びたらしい。
… まさかうら若き乙女である私が地面に上半身をめり込ませて地面から足が突き出たような姿、すなわち犬〇家になるなんて…。… ネタが古い。絶対同年代に通じない。
そのことに対して文句を言うと、メリケンサックから不服そうな声が聞こえる。憎たらしい。
『… つーか、なんでそのことを今文句つけられなきゃいけないんだ。他に言うことあるだろ?』
「助けてくれてありがとうございましたぁ!!
… でも落っこちた後がほぼ説明なしの初戦闘ってさすがにひどくない!?チュートリアル欲しいんだけど!!」
『んな隙も時間もなかっただろ。オレ様だってまさか落下地点に魔物がいるとは思わなかったっての…。
あと後ろに一体きてるぞ、早く始末しろ。』
「ア゛ァ゛ーーーー!!こっちくんな!!さっきから警告遅いんだよバカジャマー!!!」
その言葉に咄嗟に後ろ振り返って、メリケンサックをつけた手を襲い掛かる相手に向かって下から振り上げる。
見事のアッパーが顎に入ってバキッと嫌な音が響き、その体が軽々と遠くへぶっ飛ばされた。
そう、不幸は続いた。ひどいことに。
落っこちてから地面に突き刺さった後、無傷なことに驚く暇もジャマーに文句を言う暇もなく、耳をつんざくサイレンが辺りいっぱいに鳴り響いた。
その次の瞬間、黒いドロドロが纏わりついている“人ではない何か”が複数襲い掛かってきたのだ。
襲い掛かってきたのは巨大な動物や虫のような形状のものから、手や足がある人型に近いもの、土や植物でできたような人造物っぽいものまでおり、共通しているのは皆黒いドロが体から溢れていることとこちらに危害を加えんと鈍く光る虚ろな眼だけ。
まるでゾンビ。ファンタジーだとテンション上がってたらまさかのゾンビゲー。
最初こそ泣き叫んで逃げ回っていたがきりがなく、ジャマーは『逃げるなバカ!殴った方が早い!』などとほざいていて、ふざけんな!と焦りと恐怖といら立ちで思わず振り上げた拳が… 偶然、こちらを襲っていた奴の一人に当たる。
すると少年漫画もびっくりな曲線を描くかのように、自身より大きな体が宙を浮いて遠くへ飛んでった。
こうなると話は早かった。吹っ飛ばされたことに私やジャマー、襲ってきた相手たちは一瞬固まっていたものの、一足先に復活したジャマーが『これでわかっただろ!ぶっ飛ばした方が早いってことが!』などと呼びかけたことで自分も覚悟決めて殴りかかりにいったのだ。
正直人… 人?を殴る感触はあまり好きではなかったが、自分に危害を加えられたくないという恐怖から火事場のナントヤラが出た状態になったらしく、… …ただいま、いろんな敵を殴り飛ばしている最中である。
「あと何匹!?何匹!!? 一匹見たら千匹いるタイプじゃないよねこいつら!!」
『んなえげつねぇ数の集団だったらこの世界滅んでるわアホ!… あとはそいつだけだ。』
「よっしゃーーーッ!!これで終わりーーーーー!!」
咄嗟に出した足が土ゴーレムもどきの腹に穴をあける。砂になって崩れる体とともに、ずる、と履いてたサンダルが落っこちた。
ジャマーの言った通り、それが最後だったらしく周りには私たち以外誰もいない。
それを確認すれば、ようやく息をついてその場に座り込んだ。
周りにある建物はピカピカと眩しいままだがその隙間から見える上空はいつの間にか暗くなっていて、星も月も見えないような黒の空だ。… 正直このまま寝てしまいたい。疲れた。
思わず寝ていい?とジャマーに聞いたものの『さすがにここで寝るな。きたねぇだろ。』などともっともなことを言われる。そりゃあアイツらが流してた黒い液体だらけだもんな…。
どうにか体に鞭うって比較的綺麗で人目が付きにくそうな場所を探し、もう一歩も動けないとばかりに倒れ伏した。
「… 柔らかいお布団で寝たいぃ…お風呂入りたいぃ… せめて地面硬いのって魔法でどうにかなんない?」
『粘土みてーに柔らかくはできるが、そこで寝たらべったりつくぞ。
… ここ探してる間に、がれきの中から毛布が出てきただけマシだろーが。』
「えーん、魔法の効果が限定的ぃ。」
『魔法は有能でも、万能じゃねぇんだよアホ。』
シクシクと泣き真似をしながら、埃っぽい毛布に包まって空を見上げるように寝転がる。
なんてリアルな夢なんだ、目が覚めるのを待ってるがどうにもならないらしい。現実味がまるで感じないのに、なんだか不思議な感じ。
これから寝るし…とメリケンサックを外そうとしたら、『また襲われるかもしんねーからつけたまま寝ろ』と言われて背筋に冷たいものが通る。… ……それを考えると、心が… 休まらない…。
思わずそわそわとしてしまい、眠れない気を紛らわすために空以外の場所を見渡してみる。
周りは先ほど見た白い建物だらけで車らしいものがその周りを飛び回っていたが、よく見るとその建物の中にも車?の中にも人影はなく、その気配も感じない。
さらに言えば、建物の中身はすっからかんのようだ。
都会のビル街のような光源はあるものの、窓から見えるはずの何か物がおいてあるような影が建物内になく、ハリボテの中に電球を入れた状態とかなり近い。
なんとなくだけど現実の世界、…ここでいう異世界の風景を形だけ作ろうとして途中であきらめたように感じる。
… ……元の世界を知ってる分、違和感で眩暈がしそうだ。
まだ周りが静かなうちに、いろんなことをメリケンサックに聞いてみることにした。
「… ジャマー、さっき襲い掛かってきたやつらについてた黒いドロドロはなに?」
『見たまんまだ、黒いヘドロ… ―――――…黒い泥と呼ばれてる。
この世界にある不治の病気だ。あれにとりつかれると理性を失った狂人… 先ほども言ったが“魔物”と言われる存在になる。』
りびーるしゃどう、と口で反復しつつ、話を嚙み砕けばその泥が原因?であることを知った。
というかそんなのと戦ってたのか… と思うと思わず眉が寄る。
「病気ってことはあれでしょ、ほんとにゾンビウイルスみたいなやつ…。めちゃやばいやつじゃん…。
さっき暴れた時に黒いのがぶっかかった気がしたけど、あれ大丈夫だったの?いつの間にか消えてたけど。」
『そのぐらいじゃどうにもなんねー。ヘドロ自体に感染性があるわけじゃないからな。
… ついでに言えば、オレ様を使ってる限りお前にゃ黒いヘドロはつかねぇよ。』
「そういう機能ついてるのかこのメリケン… 有能。」
『もっと褒め称えろ。敬え。』
「はい、そういうところがマイナス五点」
ナルシストぶりにそんなことを言えば『次助けてやんねーかんな、そんなこと言ってっと。』とちょっと不機嫌そうに言われてゴメンネ!と軽く謝る。
キラキラと感情豊かに輝くメリケンサックをはめた手を見つめるように体ごと横を向く。
不思議と冷たくないシルバーの感触を確かめるように指でなぞっていれば、なんとなく気が緩んできて瞼が重くなってきた。
こんな場所なのに、眠い。
その前に聞かないといけないことは今聞かないと…。
「… ねぇ、これからどこに行けばいいの?
その… 転生者?がいる場所、わかってるんだよね。ジャマー。」
『現在地からは… そうだな、ドウブツエンが近い。朝が来たら西の方角を進む。』
「どうぶつえん、… 動物園? え、なんでこんな場所でそんななじみ深い単語が出てくるの?」
メリケンサックから聞こえてきた単語に、眠い目をパチパチと瞬かせる。
ジャマーは私の反応に苛立たし気に舌打ちした後『やっぱり異世界関係の言葉か』と呟いた。
「もしかして動物園って、ここだと運営… というか存在してない、のかな。」
『お前が知っているものがオレ様が知っているものと同じだとすれば、異世界人どもの正気を疑う。
あんなもん、常人が考え出すもんじゃねぇ。この異様な景色も、あんな場所も。』
「えぇ… そこまで言う? いったい、どんな場所なんだそこ…。」
その言葉を聞いて何があるのか想像がつかない。
まさか…! ケモミミの可愛い獣人たちが首輪つけて檻に入れられてるとか!!?
イケメンや美少女のような姿のせいで奴隷のように見世物にされる異種族たちがいるとか!!? それは許せない!!王道だけど!!
『百面相すんじゃねぇ、気持ち悪い。まったく、異世界人の考えることはわからねぇ。』
「私をやべーやつらと一緒にしないでくれる?? 一緒の世界出身かもだけど、狂ってないし!!
あとちゃんと名前で呼んでよ! 私の名前は…」
『はいはい、パジャな。パジャ。』
「容赦なくその名前なの!!?決定なのやっぱり!!」
うるせぇ、と言わんばかりにメリケンサックについてる宝石が青くキラキラ輝く。
言葉にするのもめんどくさがったなこいつ…。ふん、と唇とがらせてメリケンサックを指ではじけば自分の方が痛かった。
痛くて痺れた指を見つめていれば、ジャマーの鼻で笑う声が聞こえる。ひどいやつだ。
このままメリケンサックをぶん投げてやろうかと思ったが、先ほどの言葉が頭をよぎり歯ぎしりすることで耐える。
ええと、あと、聞きたいことは…。
… ききたい、こと…は………。
『… おい、眠いなら寝ろ。明日は早めに動く予定だから、休憩は大事だ。』
「だって、まだ… ……わかんないこと、だらけで… ………。」
『また今度でいいだろ。そんなもの、… 寝る前に聞くものでもないからな。
こんな場所で眠れる図太さは尊敬してやる。ついでに見張りもオレ様がしてやるのだから寝てしまえ。』
「… ほめて、ないれしょ、それ…。ごめん、むり…。おやすみ… じゃまぁ…。」
ふわ、と大きく開けた口からあくびが漏れ、ジャマーのお言葉に甘えて重い瞼を閉じた。
まどろむ意識の中でジャマーが何か言ってるのが聞こえたが、はっきりとは聞こえないまま眠ってしまう。
明日になれば夢から覚めて、あったかい布団の中で起きて、お母さんが起こしにきて… がっこう、に… …。
『―――――――――………… 。』
最後にうっすらと、ジャマーの声が聞こえた気が、した。
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悲報、起きても異世界から出られなかった。
目を開けても白い建物は健在だし、車もどきは飛び回ってるしで、ちょっとだけ落胆する。
硬い地面で寝たことによる体の痛みは回復魔法でどうにかなったものの、水場がないので顔も洗えず体も埃っぽくてどうも違和感はぬぐえない。
… ついでにいえばおなかへった。ごはんは魔法でもどうにもならないらしい。
ジャマーが言うにはドウブツエンに水場も食料もあるだろう、ということで昨夜聞いた通り西の方へと歩き出す。
すると、建物だらけの景色が変わり、赤や黄色の植物… しょくぶつ?がいろんなところに生えている場所になっていく。形だけなら雑草や木のような見かけだが、色が明らかに違和感がある。幼児が色塗りした塗り絵のようだ。
触ると造花のような感触がするので、白い建物と同じように元の世界に基づいて作られた偽物らしい。
「… なんかこう、白い建物もだけど… 何のためにこんなの作ったんだろうね。」
『オレ様にだって知らないことはある。
だが… お前の知るドウブツエンと関係あるかもな。』
「えぇ… 偽物の植物がいる動物園ってなんだろ…。
今のところ動物園っていうより現代アートの美術館って感じだけど。」
動物園のイメージなんて、パンダとかゾウが餌をもしゃもしゃしているぐらいしかない。
偽物と関係ある動物園…、なんかの見世物、とか…。
そういや動物園みたいな生き物展示する場所って、その動物にあった植物植えてあるような?
何か引っかかって、口から何か出そうになってるところで奥から人の声が聞こえてくる。
この世界にきて、ジャマー以外の人の声は初めてだ。
『静かに』と小さな低い声でメリケンが注意を促してくるのにこくりとうなずいて、口をふさぎながらそっと近くの茂みから声のする方を覗く。
そこにいたのは…、… ………複数の緑色のぷよぷよとした何かに囲まれた男だった。
「ハァ… 今日もかわいいぞぉジョセフィーヌ…!この弾力!肌ざわり… …スライムで一番の君の体はなんて素晴らしいのだろう…! 思わずよだれが…。
おっと、レイニィ。嫉妬かい? ふふ、いけない子だなぁ。ボクの愛情を疑うだなんて! 君の色味やフォルム以上の子がいるわけないじゃないか…。 さぁ、今日も愛してあげようねぇ… !」
その男は荒い息遣いをしながら、スライムと呼ばれた緑の体に自分から出る黒い泥を混ぜ合わせるように撫でまわす。
プルプルと動くスライムは嫌そうだ… というか、その、あの…。
「――――――………… 不定形好きの転生者だこいつーーーー!!!」
隠れるのを忘れて渾身のツッコミを入れた私は悪くない。絶対悪くない。