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① 《招集》
その日の朝も雨が降っていた。
道路沿いのドラム缶が次々と後方へ過ぎ去っていった。
十七号と呼ばれる緩い坂を上りきると、南方向へ続く道路の彼方に銀色に輝く塔が見えた。
要塞基地『カミサウトレス』。
錆びた鉄製標識の横でバイクを止め、ゴーグルに付いた泥を手袋のまま拭い取った。
腕時計に視線を移し、軽くスロットルをふかした。
エンジン音が冷たい雨の中に響き渡った。
周囲を覆い尽くす木々が、これから行われる戦いの合図を待ち受けるかのようにざわざわと揺らめいた。
『十九地区代表』シンイチロウ。
あだ名は『狼犬』。
彼のバイク・ボディには、地区のシンボルでもあるシェヴル(仏語のchèvre:大型の山羊)のマークが刻まれていた。
シェヴルの角先から血が滴り落ちているデザイン。
その鮮烈な赤い色は森の深い緑と対比をなし、彼の闘争心を否応なく掻き立てた。
十月の荒れた雨の中、ヘルメットを被り直したシンイチロウは、突き刺すような灰色の滴をライダースーツに浴びながら要塞基地の本部へと向かった。