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第9話 朝議

 後宮――すなわち皇帝とその妃が寝起きする宮殿は大清宮と呼ばれる。皇太子が住むのが大春宮。そして外朝、つまり皇帝が臣下たちと政治を行うのが、大明宮だ。


 この三大宮殿は、皇城の中にあり、皇帝専用の廊下でつながっている。


 大明宮で行われる朝議は、皇帝臨御のもと中書省、門下省、尚書六部の宰相たち、そして柱国大将軍ら軍の幹部が招集される。


 彼らの多くは貴族で、その意見を軽んじることは皇帝にもできない。


 一方で、先代の星祖新武帝は、皇帝権力の強化のために、民間からも官吏を登用することにした。


 試験による採用。いわゆる「科挙」だ。庶民出身の科挙官僚はかなり勢力を伸ばしつつある。


 その背景には社会事情もある。長引く戦乱で貴族は没落しつつあり、一方で新興の地主や大商人が大きな富を貯めるようになった。


 彼らの子弟が、その利害を代弁するために科挙を受けて官僚となるようになったのだ。全体の流れとしては、これからも貴族はますます没落し、科挙官僚たちが強くなっていくと思う。


 ただ、今はまだ貴族派も強いし、既得権を脅かす科挙官僚派を憎み、激しく対立している。


 わたしが向き合う帝国の朝議は、そういう状況にあった。


 儀仗兵や近侍する妃たちとともにわたしは宮殿に入り、玉座へと座る。すでに宰相たちは揃っていた。

 わたしは小さく震える。


 あまり動じない性格のわたしも、さすがに緊張する。なにせ、バレたら処刑ものだ。それだけでなく梨鈴たちも巻き添えにしてしまう。


 まあ、でもこれを乗り越えれば、妃たちとのハッピーな生活が待っている……はず。


 朝議は、原則上、皇帝が毎日執り行う。だけど、原則が守られているとは限らない。


 先代の星祖はかなり精力的にこなしたが、それでも晩年は後継者問題や妃たちの対立に悩まされ、参加回数は減ってしまった。


 病弱な今上皇帝陛下はなおさらで、週に一度でも臨御すれば良い方だ。


 では、皇帝がいないときはどうするかと言うと、門下侍中という第二位の宰相が、皇帝が来ない旨を告げて、宰相たちで意思決定を行う。


 重大な案件は、皇帝が臨御する日まで繰り越しだ。

 これがこの帝国の朝議の仕組みだった。


 皇帝の玉座には竹の御簾みすがかかり、こちら側から向こうが見えても、向こうからこちらは見えない仕組みになっている。


 それで、皇帝はほとんど声を発しない。先代のときは違ったが、今の皇帝は沈黙が原則。


 先代の皇帝は自身が有能な英雄だったから、積極的に政務に関与した。だが、今上皇帝はまだ少年にすぎない。むしろ姿を隠し、声も出さず、神秘性を高めて権威をもたせた方が良い。


 それが先代皇帝の遺詔に基づく、夏氏ら大貴族の判断だった。


 おかげでわたしも簡単にはバレずに住む。男装したわたしと、皇帝陛下はけっこうそっくりだそうだ。金髪碧眼仲間だし。なので、万一ちらりと見えてもたぶん大丈夫。

 

 柱国大将軍・同中書門下平章事(宰相のこと)の夏策真が、進み出る。

 彼は梨鈴の父だ。いかにも貴族らしい、威厳に満ちた見た目の40代男性。長身で、黒いひげがとても立派。


 彼は平伏して、わたしに対して、政務の案件を報告した。宰相のなかでも、朝議の進行役は持ち回りで担当する。担当者を上卿(しょうけい)と言い、儀礼の知識と政務能力の両方を求められる。


 そして、八柱国と呼ばれる大貴族の中でも、夏策真は有能な人間として知られていた。彼はわたしの正体を知っている味方だ。


 たいていの政務案件は「よきにはからえ」で済む。わたしは近侍する妃を通して、その意を伝える。


 その妃というのは、梨鈴なのだけれど。、

 梨鈴は震えていた。わたしよりずっと怯えている。大丈夫、というようにわたしは彼女の小さな手をそっと撫でる。


 梨鈴は小さくうなずくと、父である宰相にわたしの意思を伝えた。


 ここまでは順調。問題は最後だ。


「先般ご報告差し上げた先帝陛下の墓陵を犯した者の処遇ですが、どうか陛下の聖慮をたまわりたく思います」


 夏策真ははっきりとした声でそう告げた。

 これは珍しく、今上皇帝陛下(本物)が失踪する前に自分の意思を示した案件だったのだ。




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