表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/12

第8話 梨鈴が気にすること

「いやはや、実によくお似合いですよ!」


「そうですか……?」


 宮女の一人の明るい言葉に、わたしは首をかしげた。

 今、わたしは……なんと……皇帝の服を着ていた!


 いや、皇帝の身代わりを務めるのだから、当然なのだけれど。

 明るい黄色のゆったりとしたこの服こそ、皇帝であることの象徴だ。


 明黄は禁色であり、この色の服を着ることは皇帝以外の何人にも許されない。


 とある王朝の創始者である初代皇帝は、前王朝に仕える忠実な軍人で、自身は皇帝になるつもりなどさらさらなかった。


 だが、群雄割拠で戦乱が続く時代、幼い皇帝に不安を覚えた兵士たちは、軍人の彼に無理やり明黄の服を着せ、皇帝に祭り上げたという。


 彼は帝国史上屈指の名君として知られているが、言ってみれば彼は反逆を強いられたわけだ。

 わたしも同じことをしている。


 もしバレたときには、皇帝にしか着られない黄色の服を着たというだけでも、不敬の罪に問われるだろう。


 宮女はにこにこしていた。


「私も共犯者ですねえ。もっとも、あくまで周才人が首謀者ですから、首が飛ぶのは周才人だけですが」


「言わないでください……」


 このお気楽な調子の宮女は、梨鈴の侍女だった。正式な妃嬪としての地位があるわけではなく、あくまで最下級の官位のみを持つ女官。


 彼女は皇帝に近侍する立場にはないので、気楽な相手だ。これが妃相手だと、わたしもライバル視されるので疲れてしまう。


 ちなみに、梨鈴もかたわらでわたしの着替えを見守っている。これは極秘なので、後宮のこの小部屋にいるのはこの三人だけだ。いわば国事犯の女三人組。


 一応、梨鈴の父・夏柱国大将軍たちこそが、わたしを皇帝代理とする企みの首謀者ではある。ただ、彼は男なので、男子禁制の後宮にはもちろん入れない。


 だからこそ、男性を身代わりに立てるわけにはいかないのだ。皇帝の寝所は後宮にあるが、いくら皇帝の身代わりでも、他の男を後宮に立ち入らせるわけにはいかない。


 女性であるわたしなら、その点、一向に差し支えない。ただ、男装が露見する危険はすごく高いけれど……。


 梨鈴の侍女が首をかしげる。


「ゆるやかな作りの服とはいえ、身体の線が目立ちますね。周才人は意外と女性らしい身体をされていますから」


「意外とって、どういうことですか……?」


「まあ、それはともかく胸にさらしを巻かないといけませんね」


 その提案はもっともなものだった。まだ17歳なのに、転生前の20代の自分より、今のわたしの方がずっと胸は大きい。

 隠さなければ、一発で女性だと分かってしまう。


 梨鈴が複雑そうな表情で、わたしを見ていた。

 彼女が何を気にしているかわかって、わたしはくすりと笑う。


「心配しなくても梨鈴様はまだ成長途中なだけですよ?」


「わ、私は何も言ってない!」


 梨鈴はそう言いながらも顔を真っ赤にした。やっぱり図星なんだ。胸が小さいことを気にしているのだと思う。


 皇帝陛下の寵愛を得られるかどうか、というのがかかっているから、梨鈴も必死だと思う。ライバルの文昭儀はスタイル抜群だから、なおさら。

 

 もっとも、今はその皇帝自体がいないわけだけれど。

 

 侍女はくすくす笑っていたが、やがて真面目な表情になった。


「周才人は、まず、明日の朝議を乗り切る必要がありますね」


 朝議。それは皇帝が文武百官を集め、政治を行う儀式の場だ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

お読みいただきありがとうございます。
もしよろしければ、
↑の☆☆☆☆☆評価欄
から応援いただけるととても嬉しいです!
ブックマークもありがとうございます!


小説家になろう 勝手にランキング
cont_access.php?citi_cont_id=925786470&size=135
【連載版】幼馴染に振られた俺が、国民的アイドルの義妹に手料理を振る舞った結果
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ