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第3話 あなたは女の子だけど、わたしの夫になってくれる?

 帝国において、皇帝は神聖にして不可侵。天からの使命を受けて、空の下、海の内すべてを支配する存在とされる。

 

 現実には辺境に異民族がいたりするし、もっと遠方には強大な別の国家もあったりするわけだけれど、一応、建前としては皇帝は絶対的な存在だ。


 いわば神様にも等しい存在ともいえる。それが中華の皇帝の特徴的な点だ。

 中華風ファンタジーが現代日本で人気なのも、そういう「絶対権力者の皇帝に愛される女性主人公」という構図が女性受けが良いからだとわたしは思っていた。


 もっとも、わたし自身も、そういう中華ファンタジーは大好きで、それがきっかけ(あくまできっかけ)で東洋史専攻の大学院生なんて、儲からないことをしていたわけだけれど。


 ともかく、その皇帝が行方不明になったとあれば、大問題だ。

 側近や警護の人間たちは責任を問われ、下手をすれば文字通り首が飛ぶだろう。


 そもそも、皇帝のために作られたこの巨大な後宮で、皇帝が一人きりになることはほとんどない。

 なのに、どうして皇帝はいなくなったのか?


 わたしは考えようとしたが、それより、眼の前で不安そうにしている梨鈴の方が気になった。

 彼女は順調に行けば、皇后という輝かしい未来が待っている。


 けれど、それは皇帝陛下の存在があってこそ。万一、皇帝が死去するようなことがあれば、後宮の女たちは用済みの存在となる。


 梨鈴も例外ではない。先代皇帝の妃や宮女たちは、後宮に閉じ込められるか、額に焼印を押され尼寺で一生を終えることになる。皇帝の手を出した(可能性のある)女性はすべて他の男が触れることはできない。


 それは次代の皇帝であっても同様だ。後宮は、厳格な決まりに支配されている。


「こ、皇帝陛下の身になにかあったら、私、どうすれば……」


 梨鈴の声は震えていた。そんな梨鈴の肩を、わたしはそっと抱く。


「大丈夫。すぐに陛下は見つかりますよ」


 これは気休めではなく、ある程度根拠があった。皇帝が自分の意思で姿を消したなら、すぐに戻ってくるだろうし、そうでなくともこの狭い帝都の中から、誰かが見つけ出すだろう。


 皇帝は金髪金眼の容姿だ。奇しくもわたしと同じだけれど、それなりに珍しい見た目なので、帝都にお忍びで出かけたとしても目立つだろう。


 逆に皇帝が誘拐されたり殺害されたとは考えにくい。そんな隙があるほど、後宮の警備は甘くない。四六時中、妃・宮女や宦官たちが警戒しているからだ。


 とはいえ……。

 もし皇帝陛下に万一のことがあれば、困ったことになる。次の皇帝は誰になるのか。少年の今上皇帝陛下にはまだ子息はいない。


 皇帝陛下の従兄にあたる楚王・高秀善らによる後継者争いが起こり、国が混乱するのは予測できる。


 わたしや梨鈴も、後宮に幽閉されるだけなら良いけれど、内乱が起きれば殺されたりしかねない。


 当面の混乱を抑え、事態を打開するには……。


「身代わりを立てるしかありませんね」


「身代わり?」


 梨鈴は首をかしげる。そんな仕草も可愛い……が、今はそれどころじゃない。

 わたしはうなずいた。


「はい。陛下が無事見つかるまで、誰かが皇帝陛下の代理をするんです」


「で、でも……そんなことをしたら不敬に……当たらないかしら?」


「そうだとしても、もし皇帝陛下が不在とわかれば、楚王や今上皇帝陛下の即位に反対だった元勲たちが、動き出してしまいます」


 順王朝は安定しているが、それは現体制を前提にした話だ。いくら気弱でも、政権の要である皇帝陛下がいることは、政治を行う絶対条件だった。


 賢い梨鈴もそれを理解したのか、思案するように小さな腕を組む。。


「後宮に男を入れるわけにはいかないから……身代わりができるのは、宦官だけど……」


 宦官は去勢された男だ。生殖能力はないから、後宮の妃や宮女と間違いを起こす可能性はない。

 皇帝や女たちの身の回りの世話を焼くのが、彼らの仕事。


 ただ、宦官は概して評判が悪い。もちろん有能な人間もいるのだけれど、男として生きられない反動か、権力欲や金銭欲が異常に強いのだ。ついでに言えば、完全に性欲もなくならないので、妃と不倫する宦官もいるとか……。


 現実の中国でも、この世界の過去の歴史でも、いくつもの王朝が宦官の弊害によって滅んだ。


 だとすれば、宦官を皇帝の身代わりにするのは危険だ。その宦官が不当な権力を持てば、わたしたちも迫害されかねない。


「皇帝陛下と背格好が良く似ていて、信頼できて、ちゃんと政治が行えるほど賢い人。そして、この後宮にいる人間……」


 梨鈴は指を一つ一つ折っていく。そして、わたしの顔をじっと見た。

 わたしは首をかしげる。


「どうかされましたか?」


「適任者がいるな、と思ったの。女の子にしては背が高くて、皇帝陛下と同じぐらいの背丈で……金髪金眼。それにとっても賢くて……信頼できる人」


 梨鈴は少し顔を赤くして、わたしをまっすぐに指さした。


「蒼華。畏れ多いことだけど、あなたが皇帝陛下の身代わりになって……わ、私の夫になりなさい!」









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