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第2話 皇帝陛下の失踪

 そもそもの話をすると、わたしは前世、日本では京大の文学研究科で東洋史を専攻する大学院生だったのだ。専門は隋唐の儀礼で、修士論文のために先行研究の文献を研究室で夜遅くまで読んでいたら、寝落ちしていた。


 そして、気づいたらこの世界に赤ん坊として生まれていたというわけで。

 幸い、赤ん坊からのスタートだし、前世でも中国語と漢文はそれなりにできたから、言語の壁で苦労することはない。


 そう。この世界は中華風の異世界だ。

 タイムスリップしたわけではなく、まったくの別世界と考えるのが妥当だと思う。


 たとえば、わたしがいるのは、大順帝国(たいじゅんていこく)という国の後宮だ。

 大順という国号は、現実の中国の歴史で言えば、ごく短期間で滅んだ勢力の名前だった。


 農民反乱の指導者・李自成は、300年続いた明王朝を滅ぼし、1644年から1649年にかけて皇帝を自称して、順王朝を開いた。……けれど、やりたい放題やって、あっけなく滅んでしまったという。


 ところが、わたしのいる世界の大順帝国は、かなり安定している。王朝が始まって30年、二代目の今上皇帝陛下の代に至る。


 そして、文明のレベルで言えば、唐の初期ぐらい。つまり、現代日本から見て1,300年は前の時代に近い。ついでに、黒髪黒目だけではなく、茶髪に茶色の目や銀髪碧眼の人もいるのが驚きだ。

 わたし自身、前世は黒髪黒目の日本人だったのに、両親と同じく、金髪金眼で生まれてきた。


 という事実はわかったのだけれど。だからといって、どうしようもない。

 わたしの生まれた趙郡周氏(ちょうぐんしゅうし)は、安東貴族という古い貴族集団の一家だった。


 よく父は言っていた。


「世が世なら、天子を支える三公も大将軍も、安東貴族から出ていたのに!」


 かつて名門だった東方の安東貴族は、いまや西方の軍閥出身の貴族・洛西貴族集団にとって代わられていた。


 順王朝を開いた一族・高氏もその洛西貴族集団の出身。夏氏をはじめとする八柱国と呼ばれる高官の家も、洛西出身だ。


 そうしたなかにあって、父は容姿に優れたわたしを可愛がった。単に美少女なだけでなく、わたしは幼い頃から書物百巻に通じ、少女とは思えない知恵を働かせることができた。


 転生者だから当然なのだけれど、そんなわたしを家族は誰も気味悪がらないで、愛してくれていたと思う。


 13歳のときに、父はわたしを呼び出し、金色のあごひげを撫でながら、こう切り出した。


「おまえは、この世で最も可憐で可愛い少女だ。あの国を傾かせた絶世の美女・星祥君(せいしょうくん)よりも、美しくなるに違いない」


「親馬鹿すぎじゃありません……?」


「そこでだ。わしはおまえを……」


「後宮に入れるので、皇太子殿下の寵愛を得よ、と?」


 父はぽかんとした顔をした。そして、ふふっと笑った。


「おまえは悧発な子だ。たしかにそう考えたこともあった。だが、誰がおまえをあの惰弱な小僧の皇子などにくれてやるものか」


「お、お父様……!」


 誰かに聞かれていたら、皇帝に対する謀反の心ありと疑われかねない。

 もともと、家柄で言えば、成り上がり者の皇室よりも、周家の方が上だという自負もあるのだろう。


 結局、父はわたしを後宮に差し出す計画を取りやめた。母も兄も姉も妹も猛反対でもあったし。


 ところが、皇太子が皇帝に即位すると、後宮の宮女が足りないということで、容姿を基準に徴発が行われた。

 運悪く、わたしもその選に入ってしまった。


 こうして、父は泣く泣く、わたしを新皇帝の後宮に差し出したのだ。それが一年前のこと。


 新皇帝・高昭貞(こうしょうてい)は、わたしと同い年。現時点で17歳だ。


 先代、つまり王朝創業者の星祖新武帝は、あらゆることに万能。自ら異民族を平定し、治世の初期は民を慈しむ、まごうことなき英雄だった。


 ところが、今上皇帝陛下は、その正反対。気弱で優柔不断、自分では何も決められないと噂されている。


 それは優しさの現れだと思うけれど、順風満帆なこの王朝の最大の不安要素がこの新帝であることは間違いない。


 わたしにとって、彼は形式上、夫に当たるのだけれど、会ったことはほとんどない。

 ところが――。


「皇帝陛下が行方不明?」


「そうなの」


 わたしの問いに、貴妃・夏梨鈴はうなずき、可憐な顔に焦りの表情を浮かべた。







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