第1話 落ちこぼれ妃、未来の皇后を抱きしめる
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タイトル:【連載版】幼馴染に振られた俺が、国民的アイドルの義妹に手料理を振る舞った結果
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「やっぱり、あなたはこの後宮にふさわしくないわ。――周 蒼華」
目の前の小柄な少女に、ぴしゃりと決めつけられて、わたしは目を白黒とさせた。
周 蒼華というのは、わたしの名前だ。姓が周、名は蒼華。
年は17歳。自分で言うのも変だがそれなりに美少女だ。
なぜなら、ここは大順帝国の後宮で、わたしは皇帝のために集められた美しい妃の一人なのだから。
まあ、家は没落貴族で、皇帝からも興味を持たれず、すでに皇后になる競争からは脱落しつつあるけれど。見た目もまあ、それなりに可愛いとはいえ、この国では女ではあまり好かれない金髪金眼だし、それに背が高すぎるしね。
一方で、わたしの目の前にいる少女は、ばりばりの皇后候補の一人だ。
夏 梨鈴。洛西貴族集団の第一位・柱国大将軍・夏 策真の娘。家柄も権力も富も、もちろん美貌も兼ね備えている15歳の女の子。
「な、なぜわたしがこの後宮にふさわしくないのですか?」
わたしの声は震えているが、別に怒りや悲しみや恐怖で震えているわけではない。
梨麗と話せることが嬉しくて感激(?)しているのだ。
「そ、それは……」
ところが、梨麗が言い過ぎたと思ったのか、口ごもる。本当は優しい子なのだ。
二つ年下だけど、本当に美少女だ! さらさらの栗色の髪に淡い灰色の瞳。
ほっそりとした小さな身体は、同性のわたしが見ても庇護欲をそそる。
まさに貴族のご令嬢という感じ。小柄なのに、ちょっと気の強そうなところが、落差があって可愛い……!
「梨鈴様……めちゃくちゃ可愛い!」
ひしっとわたしが梨麗を抱きしめ、頬をすりすりとすると、梨鈴は顔を真っ赤にした。
「そういうところがダメなの! あなたには誇りというものがないの!?」
「わたしには誇るようなものなんて何もありませんから」
梨鈴の髪を撫でながら、わたしはふふっと笑う。
所詮、梨鈴とは身分も違うし、後ろ盾もないし、皇帝陛下に興味を持たれてもいないし。
梨鈴が頬を膨らませて、わたしを睨む。
「やっぱり、あなたはこの後宮にふさわしくない。少しはちゃんと努力したらいいのに。皇帝陛下もあなたに興味を持っていただけるかも……しれないのに」
「ありがとうございます。でも、わたしはいいんです。梨鈴様が皇后になる日を楽しみにしています」
「……ありがと」
梨鈴は恥ずかしそうに、ぷいっと顔をそむける。
わたしは、この後宮で皇帝の寵愛を得ることに興味はない。たとえ望んだところで、わたしの境遇では叶うことはないだろう。そのために、ドロドロとした争いに巻き込まれるつもりはないのだ。
一つ、わたしには秘密がある。わたしはもともと、この大順帝国の純粋な民ではない。
わたしには前世の記憶があるからだ。日本からの転生者。それがわたしの隠し事だ。
そんなわたしにとって、この世界は根本的に馴染めない。一人の男に複数の美女・美少女が仕える。
まるでピンと来ない。
それより……。
「わたしは梨鈴様や他に可愛い女の子を愛でられれば、満足なんです。なんといっても、美女と美少女ばかりですからね」
「あなたって人は……可愛ければ、誰でもいいの?」
「もちろん。梨鈴様が一番ですよ」
「ば、バカっ。そ、そういうことじゃなくて……」
梨鈴は慌てふためいた様子でそう言い、それからぎゅっとわたしにしがみつく。
この狭い後宮にわたしたちは囚われている。外に出る自由はない。
日本人のわたしにも、この世界で生きる意味を見つけられるだろうか。
その答えは意外な形で示された。