終章:ハニーシュガー先生の新作
シャルジール様はわたくしをしっかり抱きしめると、皆の前で堂々と、わたくしの唇にご自分のそれを重ねました。
ラース様も、お兄様も、ご友人も。それから、観客席にはたくさんの方々がいらっしゃるのに。
こんなところでそんなことをされるなんて思っていなくて。
わたくしは、目を白黒させました。
シャルジール様の腕の力強さと、触れ合う唇の感触と、口の中に押し込まれる舌の甘さでわたくしはいっぱいになってしまいます。
こ、これは、いけないのではないでしょうか。
まるで、食べられるみたいにわたくし、口づけをされているのです。
「ふぅ、ぁ、ぅう……っ」
「リミエル、私のリミエル。怖い思いをしたな。どこに触れられた? 消毒を、しなくては」
「シャル、さま、待って、待って……っ」
大きな手が腰や足に、ドレスの上から触れます。
耳元で囁かれると体の力が抜けそうになってしまい、わたくしはシャルジール様の胸に手を当てて、その体から離れようとしました。
シャルジール様の口には牙のようなものがはえています。
ふさふさのしっぽも、三角形の耳も可愛いのですけれど。
いつもよりも力が強いし、強引で──つい、うっとりしてしまいそうになります。
「あぁ、言い忘れていた。獣化の薬は副作用はないのだけれど、いつもよりも感情の制御が効かなくなるんだよね。やや野生に戻るというか」
エダ様の声が聞こえた気がしましたが、わたくしはそれどころではありません。
お話をしようとすると唇が重なり、舌が舐られて──まるで、大きな犬に戯れつかれているようです。
そんな可愛い状況ではないのですけれど。
「シャルさま、だめ、や……っ、ここじゃだめ、です。お部屋に、二人きりがいいです、だから……っ」
「それもそうだな。それでは、私はこれで失礼します」
あっさりわたくしの願いは聞き届けられました。
そしてわたくしはシャルジール様に抱き上げられると、お祭りを楽しむどころではなく、家に連れ戻されたのでした。
ふわふわふさふさした耳と尻尾の感触は十分に楽しめましたし。
いつもよりもさらにさらに情熱的なシャルジール様にたくさん愛していただきましたので、いいといえば、いいのですけれど。
無事に闘技大会は終わり、色々混乱はあったのですが、各国の方々はそれそれもとの国に戻られました。
エダ様の獣化の薬を買いたいという方も多くいたようですが、ラース様が「シャルジールがあのように理性を失うとあっては、不安がまだ残るな」とおっしゃって、商品化はもっと先になりそうとのことでした。
ルシウス様は切り替えが早いのか「負けたのだから、仕方ない」と早々にわたくしを諦めてくださり、その代わりミラーニスを連れて帰ると言い出したらしいです。
ミラーニスは「なぜ私!? 五番目なんて嫌です……!」と嘆き、そこに颯爽とキースさんが現れて求婚したとかなんとか。
わたくしは見ることができなかったので残念ですけれど、女性たちから人気のある花騎士キースさんですが、ミラーニスには昔から嫌われていて、そこが軽薄なキースさんにとっては新鮮で、好きだったのだと後から聞きました。
そんなわけでルシウス様は花嫁探しを諦めて、国に戻ったそうです。
ラース様に「今いる四人の嫁たちを大切にしなさい」と説教されたこともあったのでしょう。
さすがはラース様、ミシュラミアの誇る法王様です。
そして──。
月日はたち、ハニーシュガー先生の新作が発売されました。
タイトルは『獣化の呪いと聖なる乙女』です。
内容は、頭から獣の耳の生えた騎士と、その呪いを解くために自らを差し出し浄化をする女性の話です。
堅物の騎士に、媚薬を飲ませて誘惑したり、自らが呪いを被って猫耳がはえてしまったり。
最後は隣国の国王との奪い合いの末に、ハッピーエンドになるという。
読む人が読めば、わたくしとシャルジール様のことが書いてあるのがすぐわかる内容でした。
その本は瞬く間にミシュラミア中に広まりました。
そして今では、わたくしとシャルジール様がハニーシュガー先生の書かれたお話のモデルになっていると、誰もが知ることとなりました。
わたくしに子供がうまれると、本の中でも子供が登場するようになり──。
わたくしとシャルジール様は、王国民の皆に見守られるような形で、愛を育んでいます。
少し恥ずかしいですけれど。
それでも、わたくしの周りにはたくさんの優しい方々がいて、わたくしは幸せだなと思うのです。
ここまでお読みいただいてありがとうございました!
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もうこれはR18の方でいいんじゃないかなと思いながら途中から書いていたので、そのうち気が向いたら、
書こうかな、どうしようかなと思ってます。
それでは、ありがとうございました!




