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闘技大会の開始



 ラース様を中心として、各国の王が集まっている光景は圧巻の一言でした。

 わたくしはリジーたちと並んで、貴人用の特等席に座って円形闘技場を見下ろしています。

 

「これより、第十二回の闘技大会を開始する。これは国同士が手を取り合うための平和と祈りの式典である。この日のために研鑽を積んだ皆の雄々しく美しい戦いを、どうか楽しんでいって欲しい」


 ラース様のゆったりとした心を優しく包み込むような声が響きます。

 最前列でラース様に深々と臣下の礼をして顔をあげると、ラース様の横に並んでいるルシウス様と目が合いました。

 微笑んで手を振ってくるルシウス様から、私は目を逸らしました。


 シャルジール様に誤解をされてしまったらどうしましょう。

 もし、離縁をいい渡されてしまったら、わたくし、とても生きていけません。

 わたくしが好きなのは、シャルジール様だけなのに。


「うーむ……むむ……」

「リジー?」


 わたくしの隣で、リジーが難しい顔で首を捻ります。


「可憐な女性が、二人の男性から奪い合われる……これはこれで悪くないけれど……でも、愛し合っている二人の間を引き裂こうとする権力者の男というのは……! 確かに、寝取られものというジャンルがあるのは認める、認めるけれども……!」

「ねと、ら?」

「リジーちゃん、心の声が全部出ているよ」

「あっ!」

「寝取られもの」

「寝取られものとは」


 エダ様に指摘されて、リジーは口に手を当てました。

 ミラーニスとラキュアさんが反芻します。

 はぐれてしまったわたくしを探してくれていたミニットさんが、怒りに満ちた声で言いました。


「私たちのリミエル様を奪おうとするなど万死に値します。それも、第一夫人ではなく第五夫人にしようなどと……! 許せない、許せない、許せません……」

「ミニット、気持ちはわかりますが、落ち着いて」

「ラキュア様、私がリミエル様と逸れたせいでこんなことに。こうなった以上はあの女好きと差し違えてでも」

「ミニットさん、落ち着いてください……わたくし、気弱になっていました。ごめんなさい。シャル様を信じるのが私の役目ですね。シャル様もきっと私を信じてくださいます」


 不義を疑われて離縁されるのを不安に思うということは、シャルジール様を疑うことです。

 それはシャルジール様の愛を疑うということ。

 わたくし、精一杯シャルジール様を応援しなくては。

 わたくしのせいでシャルジール様に余計な重荷を背負わせてしまったかもしれませんもの。

 だから──。


「それでは、各国の代表の入場です」


 王たちがそれぞれの席につくと、三人並んだ大神官様たちの中でも一番お若いレザール猊下が口を開きました。

 顔立ちの怖いグラディウス猊下と、威圧感のあるフォールデン猊下に挟まれているレーザル猊下は、輝くような美少年です。

 その上、いつも笑顔を浮かべている気さくな方ですので、大神官様たちの中では一番民衆から好かれています。


 民政を取り仕切っているという立場から、民との関わりも深いのですね。

 集まった観客たちから「レザール様!」「今日もお可愛らしい」という声があがります。


 控え室から出てきた選手たちが、闘技場の広間へと並びます。

 アラングレイスお兄様が私に手を振ってくださいます。

 キースさんが片目を閉じると、観客席から黄色い声が上がりました。


 キースさんとは、いつも背後に大輪の花が咲いているような麗しい騎士の方です。

 エルディンさんがラキュアさんをちらりと見て、恥ずかしそうに視線を逸らしました。エルディンさんはいつも真面目で奥ゆかしい方なのです。


 そしてシャルジール様は──わたくしをじっと見つめて、それから微笑んでくださいました。

 わたくしは、立ち上がって大きくシャルジール様に手を振りました。

 頑張ってくださいという気持ちを目一杯込めて、手をちぎれるぐらいに振るわたくしに、シャルジール様は嬉しそうに手を振かえしてくださいます。


 わたくし、普段はあまり目立たないように行動してきました。

 けれど、今日ばかりは違います。

 わたくしが誰よりも、シャルジール様を応援しなくてはいけません。

 シャルジール様の妻であるわたくしは、誰に遠慮をする必要もないのですから。


 やがて、試合が始まりました。

 他の国の方々もそれはそれはお強いのですが、ミシュラミアの代表は順調に勝ち進んでいきます。

 絶対に負けられないという気迫のようなものがそこにはありました。

 主催国だからというだけでもないのでしょう。

 特にシャルジール様はまるで鬼神のような気迫に満ちています。


 もちろん、キースさんもエルディンさんも、お兄様も。それぞれ皆、お強いのですけれど。

 わたくしの目には、シャルジール様しかうつらないぐらいでした。


「シャル様、格好いい……! 素敵です、素敵、好き……!」

「エルディン! その調子です、頑張って! エルディン!」


 やはり、自分の夫の応援となると熱がこもってしまうもの。

 ラキュアさんもシャルジール様に似て、冷静沈着という印象の女性なのですが、大きな声でエルディンさんを応援しています。


「騎士と乙女、最高……!」


 リジーがどういうわけか涙を流して親指を立てると、グラディウス猊下も遠くで頷いて同じような仕草をしています。ご夫婦なので、何かしら通じ合うところがあるのでしょうか。


「今回はリミエルちゃんがかかっているから、ミシュラミアもシュタイゼルも気迫が違うね。まぁ、いつもふらふらしてるキースも、にこにこしてるアラングレイスも、戦うと強いんだけどさ」


 エダ様が各国の勝敗を数えながらおっしゃいます。

 確かにエダ様の言うとおり、たおやかな見た目のお二人も、戦いの場となると雰囲気が変わります。

 

 各国の代表を倒し、最後はミシュラミアとシュタイゼルが残りました。

 キース様は負けて、エルディン様は引き分けに、お兄様は勝ち、そして──。


 いよいよ、シャルジール様とルシウス様の最後の戦いです。

 これで勝った方が、優勝となります。


「──ふふ、やっと、我が研究室の役に立つところを見せられる時が来たようだね」


 エダ様が意味ありげに笑いました。



お読みくださりありがとうございました!

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