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リジーとミラーニスとリミエル



 ◇



 ミラーニスについて、私は基本的にはなんてわかりやすい飛んで火に入る夏の虫なのだろうと思っている。


 学園時代からミラーニスはリミエルを目の敵にしていた。

 どちらかというとぼんやりしていて、ふわふわしているリミエルはあまり気にしていなかったみたいだけれど、ミラーニスはリミエルをそれはもう意識していた。

 

 それに、シャルジール様との婚約が発表されたのもミラーニスの嫉妬に拍車をかけていたのだろう。

 学生時代のミラーニスは、リミエルに面と向かって悪口を言い、陰口を言い、あからさまに邪険にしていた。


 リミエルはぽわぽわしていたので、あまり気にしていないどころか気づいてさえいないようだった。

 それでミラーニスは余計に腹を立てていたのだろうう。


 私はもちろんリミエルのお友達だったし、ミラーニスの態度が行きすぎたりすると腹を立てたものだけれど。


 リミエルに、「私が注意してきてあげるわ」と言うと、「あんまり気にしていませんし、私にはリジーがいるから大丈夫です」と返されて、きゅんきゅんしたものである。


 きゅんきゅんしている場合じゃないんだけど。仕方ないじゃない、可愛いんだもの。


 シャルジール様は女性から人気があるけれど生真面目で浮いた話はひとつもないと評判の方だったし、リミエルも騎士団本部がミラーニスの実家である剣の塔だということは気にしていなかったみたいだし。

 

 だから私としては──とりあえず、様子見を選んだわけである。


 そのうちシャルジール様のリミエルに対する愛情って重くない? って、書いたお話の検閲をシャルジール様にされることになる私は気づいてしまうのだけれど。

 この時の私は様子を見ながら、内心ちょっとだけわくわくしていた。


 だって、ほら、ミラーニスみたいな横恋慕する女性は、恋のスパイスとして結構定番だし。

 わぁ、生だわ。生の当て馬だわ。などと思っていた。


 まぁ、でもミラーニスの場合は、リミエルに意識されていない上にシャルジール様にも全く相手にさせていないので、当て馬にもなっていなかったのだけれど。

 当て馬の土俵にさえ立てていないのだから、側から見ているとただの性格の悪い女でしかない。

 大変残念。ご愁傷様。という感じだった。


 そのミラーニスがはじめて当て馬としての表舞台に、最近立った。

 私は残念ながらその様子を見ることができなくて、話を聞いただけなのだけれど。

 騎士団本部でミラーニスはリミエルにひどい言葉をぶつけて、リミエルが瞳を潤ませていたらしい。


 赤く染まった頬に、潤んだ瞳。ぷるぷるの唇。ふんわりしたちょうどいいサイズの胸。

 大変可愛らしく可哀想で今すぐ抱きしめたくなる様子だったと、騎士団の騎士たちが口を揃えて言うので、「シャルジール様に殺されますよ」と釘を刺しておいた。


 私は胸のサイズまで聞いてない。勝手にその場にいた騎士たちが話したのである。

 シャルジール様がいなくてよかった。皆、あの外面に騙されているのだ。怖いのよ、あの方は。


 もちろん。もちろん私としては、創作のネタにできるという意味では、もっとやってください。お願いします。という感じではあるのだけれど。


 それはひとまずおいておいて。

 私は今、ミラーニスとリミエルを呼んでお茶会を開いている。

 ミラーニスは私のことも嫌っていたけれど、リミエルほどではない。

 同じ大神殿に住んでいるので、時々挨拶を交わすぐらいはしていた。

 だからだろうか、ミラーニスに泣きつかれたのである。「フォールデンお父様に、リミエルに謝って許してもらえるまで戻ってくるなと言われてしまって……」と。


 私はグラディウス猊下と話をして、仕方なくミラーニスを司法の塔においてあげることにした。

 毎日騎士団の世話を甲斐甲斐しく行っていたミラーニスは暇になったらしく、グラディウス猊下の本棚から本を抜き取っては私のそばで読んでいた。

 そう。私の本である。


 目の前で私が書いたものを読まれるとか、何の拷問かと思ったわよ。

 そして一晩泊まった翌日。ミラーニスが頭を下げてきた。


「ハニーシュガー先生の書いた本には、私みたいな嫌な女が出てくるわ。嫌な女は破滅するのね。思いしったわ」

「そう。思い知ってくれたのね」

「ええ。お父様はリミエルと仲直りをしろと言ったの。でも、本の中の嫌な女たちは、追放されたり、投獄されたり、それはそれは酷い目にあっているわね。因果応報ではあるんでしょうけれど。私の罰は軽いのね」

「リミエルは、いい子だわ。謝ればすぐに許してくれるわよ」

「……そうよね。私、嫉妬をしていたのよ。見栄えのいい男性たちにチヤホヤされているのが羨ましかったの」


 殊勝な態度でミラーニスが言うので、私は首を傾げた。


「見栄えのいい男性」

「ええ。アラングレイス様や、シャルジール様に可愛がられて羨ましいって思って」

「アラングレイス様は、寝ているリミエルの口に甘栗を突っ込むわよ。シャルジール様は、猫耳で興奮するような男性よ?」

「噂は聞いたわ。……私、間違っていた」

「うん」


 間違っていたと思う。

 アラングレイス様は女好きだし、シャルジール様は、リミエル以外の女性に興味を持ったりしない。

 そもそも羨ましがる対象が間違っているのよ。もっと手の届くような男性に憧れた方がいい。


「私、リミエルに謝りたい」

「仕方ないわね。では、お茶会を開きましょう。リミエルは私が呼べばすぐくるわ。あなたが呼んでも、にこにこしながら来ると思うけど」

「リミエルは私を嫌っているでしょう?」

「人を嫌いになったりしないような子なのよ。だから、私はリミエルを理想の女の子だと思って観察をし続け……なんでもないわ」

「観察?」

「な、何でもないのよ」


 という経緯で、司法の塔の中庭でお茶会を開くことになったわけである。



お読みくださりありがとうございました!

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