お兄様との食事会
シャルジール様とお兄様はお酒を酌み交わしています。
わたくしはお夕食をご一緒にゆっくりといただきました。
お義父様やお義母様は若い方々の邪魔はしたくないとおっしゃって、ご挨拶と乾杯をして、早めに退室なさいました。
お二人とも、お兄様をとても歓迎してくださいました。
シャルジール様とわたくしの結婚が決まった時も、すごく喜んでくださったことを覚えています。
優しい、わたくしの──両親です。
「闘技大会の主催国としては、優勝以外にはあり得ないとは思うが、俺以外の出場者の仕上がりはどうだ?」
「先鋒はキース。中堅はエルディン。副将がアラングレイス、そして主将が私だ。キースとエルディンは知っているだろう?」
「チャラい方がキース、真面目な方がエルディンだな」
「ちゃら?」
ちゃらいとはなんでしょうか。
お兄様は、お酒が入ってくると時折わたくしの知らない言葉を使います。
わたくしは栗のモンブランをもぐもぐ食べながら首を傾げました。
栗、美味しい。
わたくしは栗のお菓子が一番好きです。その次に好きなのが桃のお菓子です。
あと、葡萄のお菓子も、生クリームもチョコレートも好きです。
「ちゃら……」
キースさんもエルディンさんも、騎士団の方です。
真面目な方と言われたエルディンさんは、シャルジール様の妹のラキュアさんの旦那様。
シャルジール様の右腕で、聖騎士団の副団長でもあります。
キースさんは花騎士と呼ばれていて、とても見栄えがいい方で、女性から人気があります。
実力も確かなようですけれど、どちらかというと女性に囲まれている印象の方が強いです。
「チャラいとは、そうだな……女にだらしないとか、モテるとか、態度が軽薄とか。そういった意味だ」
「あっ、それならわかります! お兄様のことですね」
「リミエル。少し離れている間に、お兄様にひどいことを言うようになったな」
「だってお兄様、ご結婚なさらないのですもの。たくさんの女性とデートもしますし。それってあまりいいことではありません」
「はは……っ、確かに。しかしな、何事も経験というものが大切だろう? 今俺は、自分にはどんな女性がふさわしいのかを選んでいる最中なんだ。シャルジールとリミエルのように、結婚後にうまくいけばいいが、そうではない可能性もあるしな」
お兄様は最もらしいことをおっしゃいますけれど。
それってやっぱり不誠実ではないのでしょうか。
でも、わたくしもつい最近まではシャルジール様のことを、わたくしばかりが好きだと思っていました。
だから、お兄様がおっしゃっていることも少しは理解できるかもしれません。
「……確かに、わたくしもシャル様の愛を疑ったりしましたので、何も言えなくなってしまいました」
「どういうことだ、シャルジール。浮気か?」
「そんなわけがないだろう」
「シャル様はずっと優しかったのです。私が心配になってしまっただけで……色々ありました。元気になるお食事を食べていただいたり、栄養ドリンクを飲んでいただいたり、色々」
「ほう」
「シャル様にはご迷惑をかけてしまいました。狩りに向かわれたり、倒れたシャル様の寝込みを、わたくしが襲ったり」
「ふ、ふふ、あはは……! それは面白いな……! シャルジール、一晩中熊狩りをしたのか。ずいぶんと元気になる薬だったのだな、それは。猫耳も同じか? 薬なのか?」
「……興味を持たなくていい」
シャルジール様が首を振ります。
少し困ったように眉を寄せている横顔がとても格好いいです。
お酒を飲む姿も絵になります。蝋燭の炎に照らされた浅黒い肌が、余計なお肉のいっさいついていない頬や顎や太い首が全て素敵です。
「だが、その薬とやら。純粋に興味深いな。一晩中熊を狩れるほどの力が出るのなら、闘技大会の時に使用すれば、我らの勝ちは決まったようなものなのではないだろうか」
「そんなにいいものではない」
「さてはエダだな」
「あぁ」
「あいつのことだ、頼んだら、頭に猫耳のはえる薬を配りそうだな。頭に猫耳をはやして闘技大会に出る羽目になるのはな……いや、俺は可愛いな。俺は可愛いと思う」
「シャル様も可愛いと思います……!」
「ありがとう、リミエル。私は可愛くなりたいとは思っていないから、大丈夫だ」
シャルジール様をうっとり見つめていたわたくしは、お二人の会話を途中から聞いていませんでした。
でも、猫耳のはえたシャルジール様は可愛いので見たいです。
わたくしが勢いよく言うと、シャルジール様はわたくしの頭を撫でてくださいました。
頭を撫でられたので、わたくしは嬉しくて、つい、その手をとって自分の頬を擦り付けてしまいます。
ごろごろ喉を鳴らしている猫のようです。
先日、猫のようになってから、すっかり甘える癖がついしまったみたいです。
「仲がいいのはいいことだが、独身者にとっては目の毒だな」
お兄様はやれやれと肩をすくめました。
それから「でもまぁ、道具の使用などは禁止されていない。ハルマフェルなどは、魔法銃と呼ばれる光弾を飛ばす銃を使用する者もいるぐらいだしな。エダもそのつもりで、薬を開発しているのではないか」と、首を傾げる。
わたくしとシャルジール様は顔を見合わせました。
頭から猫の耳がはえる薬が、戦いの役に立つとは思わないのですけれど。
ただ、可愛いというだけで。
でも、栄養ドリンクの方は役に立つのかもしれません。
「……栄養ドリンクを飲むと、シャル様は色っぽくなってしまうので、いやです。皆が、シャル様の魅力的な姿を見てしまうのは嫌だなって思います」
「リミエル、私もできれば君を誰にも見せたくないと思っている」
「……そろそろ帰ろうかな。妹が幸せになるのは嬉しいが、寂しいものだな」
お兄様は苦笑すると立ち上がりました。
わたくしはお兄様の手を握って「お兄様も、早くお嫁さんをもらうといいのですよ」と伝えました。
妹としては、お兄様にも幸せになってもらいたいと思うのです。
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