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シャルジール様の噂



 お兄様は背が高く、どちらかといえばわたくしは小柄です。

 ぎゅうぎゅうに抱きしめられると、相手は麗しのお兄様なのですが、まるで熊に抱き抱えられているような気持ちになります。


 なんといいますか、そう、容赦がないのですね。

 二人きりの家族だったからなのでしょうか、女性に対する配慮といいますか、遠慮といいますか。

 ともかく、そういったものがあまり感じられません。


 シャルジール様に抱きしめられているときは胸がドキドキします。

 けれど、お兄様の場合は、ドキドキというよりもほっこりといいますか。


 ともかく、男性という感じはあまりしません。

 いうなれば、大樹にいだかれている感じとでも申しましょうか。


 お兄様は眠っているわたくしの口にクッキーを入れたりすることろがありますから、やはり男性というよりは家族です。

 でも──。


「お兄様、あまり抱き締めるのはいけません。わたくし、シャル様の妻ですので」

「リミエル、シャルジールをそんなふうに親しげに呼ぶようになったのだな」

「はい! 妻ですから!」


 あまり、妻という主張をするのも恥ずかしいことですし、今まで言う相手もいなかったのです。

 お兄様相手なら、堂々と言うことができます。

 だってお兄様ですから。

 お兄様は不満そうに眉を寄せると、わたくしの言葉なんて何も聞かなかったようにして、さらにわたくしをぎゅっうううっと抱きしめました。


「お兄様、苦しいです……」

「久々に会った兄に冷たいことを言った罰だ」

「アラングレイス、そのぐらいにしてくれないか」

「シャルジール!」


 わたくしを助けようとしてくださったシャルジール様に、お兄様は厳しい視線を向けました。

 お兄様が怒ることは滅多にないのです。

 滅多にない、というよりも、見たことがありませんでした。

 いつもどことなく楽しそうなのがお兄様ですから。


「どうした。何か、機嫌を損ねるようなことをしただろうか」

「したもなにも、聞いたぞ」

「聞いた?」

「あぁ。先日、騎士団本部でリミエルの頭に猫の耳がはえたそうだな!」

「……もう知っているのか?」


 わたくしもびっくりです。

 あれはつい先日のことで、聖都から離れて住んでいるお兄様の耳に届いているなんて思ってもみませんでした。

 確かにわたくし、皆に見られながら馬車に乗り、お屋敷に戻りましたもの。

 それは、噂が広まるのは仕方のないことです。

 それにしても恥ずかしいです。

 もう、十八歳なのに。

 あんなふうに、浮かれた姿を公衆の面前で晒してしまうなんて。

 シャルジール様と二人きりの時なら何の問題もありませんでしたのに。


「ごめんなさい、お兄様。あれはわたくしが悪いのです。大神殿であのようなはしたない姿を見せてしまうなんて……」


 わたくしは素直に謝りました。

 あんなことになってしまったのはわたくしのせい。シャルジール様に罪はありません。

 お咎めを受けるのなら、わたくしだけです。


「はしたない姿を……!? まさか、シャルジール! 可愛い可愛いリミエルの可愛い姿に我慢できず、公衆の面前で情を交わし……」

「そんなわけがないだろう。私がリミエルを他の男に見せるとでも?」

「なんだ、違うのか。頭の硬いお前も、とうとう我が妹の愛らしさの前で様子がおかしくなったのかと、うきうきしてしまったではないか」

「するな」

「せっかくうきうきわくわくしながら、聖都まで馬を飛ばしてきたというのに」

「お兄様、お一人でお出かけになるのはよくありません。いつも皆、困っていましたよ」

「いいだろう。俺は強い」


 そうなのです。

 わたくしのお兄様は、どちらかというとたおやかな見た目ですのに、とてもお強いのです。

 立場がありますから騎士団にこそ入っていませんが、剣でも弓矢でもシャルジール様と互角ぐらい。

 士官学校では友人であり、よきライバル関係にあったのだとか。

 

 それなので、前回の闘技大会も今回の闘技大会もお兄様は参加することになったようなのです。

 わたくしはお兄様の戦っているお姿を見たことがないので、少し楽しみでした。

 もちろんそれ以上に、シャルジール様のご活躍を楽しみにしているのですけれど。


「たまには屋外というのも悪くないぞ。解放感があって」

「妹の前でろくでもないことを言うな」

「おくがい?」

「そんなことよりも! リミエル、もう一度猫の耳を頭にはやしてくれ! お兄様は見たいのだ」

「あれは事故ですので、わたくしの特殊な能力とかではありませんので、無理です……」


 お兄様は心底がっかりしたように肩を落としました。



お読みくださりありがとうございました!

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