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見せられる下着宣言



 シャルジール様の指先が、恐る恐るといった感じでわたくしに伸ばされました。

 ゆっくり髪に触れて、猫の耳がはえている場所の付け根に触れられます。


 そこに耳があるのは分かっていたのですが、触れられるとちゃんと触れられている感覚があります。

 自分の耳に触れられているのと同じぐらいに、いえ、それ以上に、感覚が過敏になっているようでした。


 剥き出しの神経に直接触られているみたいに、ぞわぞわして落ち着かない気持ちになるのです。


「頭にしっかりくっついているな。付け根が髪の間から……頭皮と一体になっているのか。外せそうにないな」

「は、はい……」

「痛くはないか? 吐き気がするとか、目眩がするとか、体に異常は……」

「とくには、ないですけれど……」

「尻尾は、これはどうなっているのだろうな。ドレスの間から……」

「っ、あ」


 私には自分の背後の様子は分かりませんが、尻尾はどうも、ドレスの間から、ドレスを押し上げるようにして顔を出しているようでした。


「しゃ、シャル様、どうしましょう……っ、わたくし、ドレスがめくれていますの? 皆様に、なんて姿を見せてしまったのでしょう……! わたくし、シャル様の妻なのに、こんな……」

「それは問題ない。耳がはえた時点で君を抱き上げあの場から立ち去った。見えてはいないと思う」

「よかった……シャル様以外には、お見せできない姿です……わ、わたくし、今日は……お見せできる下着を、はいていると思います……っ」

「そ、そうか、それはよかった……!」


 気恥ずかしさとなにがなにやらでいっぱいになったわたくしは、混乱しながらも力強く言いました。

 普段からシャルジール様の妻として手を抜かないようにしているわたくしですから、下着も毎日きちんと美しいものを身につけているのですけれど。


 今日は、確か白いレースの下着だったと思います。

 このところ女性の間では、布の面積の少ない下着が流行っております。

 以前は下着というよりはレースの半ズボンに近い形状をしたドロワーズが主流でしたのですけれど、布面積の少ない方がセクシーでデザインも可愛いということで、最近は紐に近い形状のものから総レースまで様々です。


 わたくしが力強く下着についてお伝えしたからでしょうか、シャルジール様も力強く答えてくださりました。

 それから、はっとしたように目を見開いて俯くと「何を言っているんだ、私は……」と、小さな声でおっしゃいました。


 わたくしもシャルジール様のご様子をみて、我に返って、元々赤かった顔を更に赤く染めました。

 何を言っているのでしょう、わたくし。

 混乱のせいか、すごく恥ずかしいことを口にしてしまいました。


「シャル様、あの、わ、忘れてくださいまし、今の……その、下着の話は……」

「あ、あぁ」


 シャルジール様は曖昧に頷くと、わたくしの尻尾の付け根をぎゅむっと掴みました。


「……っ、や、だめ、です」

「ここは、駄目なのか」

「……だめです」


 シャルジール様の体を両手で押して、わたくしはその体から離れようとしました。

 耳もそうですけれど、尻尾もきちんと感覚があります。

 妙にうわずった声が出てしまいそうになって、わたくしは片手で口元をおさえました。


「あ、あんまり、つよくされると、痛いので……」

「……っ、すまない」

「だ、だからって、優しくするのも、だめです、シャル様、だめ……」

「リミエル、……可愛いな」


 ぎゅむっと掴んでいた手が、さわさわと尻尾を優しく触るので、わたくしは震えながら首を振りました。

 わたくしを呼ぶシャルジール様の声が、低く掠れています。

 あぁ――この声は、この、熱い眼差しは。


 わたくしがシャルジール様に栄養ドリンクを盛った時と、よく似ています。

 でも、今日はシャルジール様は妙なものを口にしていないのです。

 わたくしの体が奇妙なことになっただけで――。


「あっ」

「リミエル?」

「わたくし、健康食品を食べたら、こうなりましたの……! でも、エダ様は、本当はシャル様に食べさせようとしていたのだと思います。ということは、一歩間違えたら、シャル様に猫の耳と尻尾が……!」


 それは、大変お可愛らしいのではないでしょうか……!

 わたくしではなくて、シャルジール様に耳と尻尾がはえたら、とても可愛らしかったはずです。


「いや、私にはえてもな」

「でも、シャル様……とても可愛いのではと」

「どう考えても似合わないと思うが」

「わたくし、見たかったです。……シャル様の、耳と尻尾」

「私は、君の可愛い姿を見ることができて嬉しい」


 シャルジール様はわたくしの尻尾を、手のひらで包むようにして優しく撫でました。


「あ……だ、だめ、です……わたくし、おかしくて……」

「どうおかしいんだ?」

「……体がざわざわ、します」

「痛いのか」

「痛くないです……その、どちらかというと、気持ちがよく、て」


 ここは、お仕事のお部屋なのに。

 わたくし、何を言っているのでしょう。

 ともかく、触られるのはよくありません。わたくしがシャルジール様の胸板を押しても、硬くてしっかりした胸板はびくともしませんでした。


「リミエル」

「あぅ……」


 何か言いたげに名前を呼ばれると、わたくしの体からはすぐに力が抜けてしまいます。

 だって――わたくしは、シャルジール様のことが大好きなので。

 シャルジール様にならいつでも、何をされても構わないと、思っているのですから。

 

「すまない。……このような可愛い姿で、君が煽るから、とても耐えられない」

「シャルさま……っ」


 唇が触れあって、すぐに舌が絡まりました。

 シャルジール様の手がわたくしの後ろに回って、尻尾の付け根をぐにぐにと揉んでいます。

 わたくしはそれだけで、いっぱいいっぱいになってしまって――先程の悲しかった気持ちが少し残っているからでしょうか、シャルジール様に甘えるようにして、その服を力の入らない指先で掴んだのでした。




お読みくださりありがとうございました!

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