一年分の我慢の限界
シャルジール様はご自分のお召し物を、全て取り払いました。
そして、お行儀悪く床に落とします。
逞しい体が明るい光の下で晒されて、胸板も腹筋も筋肉のついた長い足も全て見てしまったわたくしは、両手で顔を隠しました。
「しゃ、シャル様……っ、お洋服……」
そういえば昨日、湯浴みをさせていただいた時もシャルジール様はお召し物をお脱ぎになっているのですけれど、こういう時に裸体を全て晒すというのは、そういえばはじめてかもしれません。
「君は私を誘惑しているのだと、理解していた。だが、違うのか?」
「ち、違わない、です……」
改めて確認をされると、とても恥ずかしいのです。
わたくし、よく考えたらとてもはしたない女ではないでしょうか。
シャルジール様はわたくしの、顔を隠していた手を優しく外します。
パチリと目があって、シャルジール様は呼吸を整えるように、吐息を吐き出しました。
汗とともに乱れた髪をかきあげるシャルジール様があまりにも艶やかで、思わず食い入るように見つめてしまいました。
「では、隠さないでくれるだろうか。拒絶されたのかと思うと、苦しい」
「そうじゃなくて、恥ずかしくて……わたくし……その、一度でいいから、激しく求められてみたいと、思っていました。だから、色々してしまって……っ、でも、まだ明るくて、夜でもないのに……それに、わたくし、湯浴みも、まだで」
「いつも、君は初心な反応をしてくれる。そんな君を見るたびに、もっと泣かせたい、私だけに見せてくれる顔が、もっと見たいと思っていた」
どことなく野生的な笑みを浮かべて、シャルジール様がおっしゃいます。
それは、シャルジール様に流れている血でしょうか。
褐色の肌をした隣国の人々は、狩猟を主として暮らしています。
だから、獲物を前にした、狩人みたいな瞳でわたくしを見るのでしょうか。
「シャル様……」
「抱き潰してしまわないように、ずっと我慢していたんだ。一年間、ずっと。一年、我慢した分、君を抱く。すまないが、もう限界だ」
「……っ」
「君の愛らしい姿と、それから食事に入れてくれた精のつく食材は、正しい効果を私にもたらしたようだ。……リミエル、嫌と言われても、きっと、止められない」
「あ……」
再び唇が重なりました。
深く激しく重なる唇に、舌に、わたくしは切なく眉を寄せながら、ぞわぞわした悪寒のようなものを感じていました。
もちろん、嬉しいのです。シャルジール様に求めていただけるのはとても、嬉しい。
愛されたいと、激しく愛されたいのだと願っていましたから。
わたくし、やっぱり少し、失敗してしまったかもしれません。
シャルジール様に苦しいぐらいに舌や口腔内を舐られながら、わたくしはさわらぬ神にたたりなしという言葉を思い出していました。
気づけば──朝になっていました。
途中から、記憶がありません。
なんだかすごかったという記憶しかありません。
泣きじゃくっても、嫌がっても、逃げようとしても、許していただけなかったのははじめてでした。
いつもは、わたくしが照れたり、困ったり、戸惑ったりしていると、シャルジール様は途中で終わらせてくださったりとか、静かな交わりだけで、幸せでいっぱいになっていましたのに。
それだけわたくしは、シャルジール様に我慢をさせていたということなのでしょう。
それだけシャルジール様は、わたくしを大切にしてくださっていたということなのでしょう。
体はぐったり疲れていましたし、少しぎしぎし痛かったのですが、わたくしは幸せでした。
そして、激しく求められるのは、とても好きだなと思いました。
何度も愛していると言ってくださいましたし、恥ずかしいことも言われましたし、とても人には見せられないような姿や、表情も、してしまいました。
それほど強く欲してくださっていると体中で感じることができるのは、嬉しいのです。
「……シャル様」
しばらく薄く目を開いたままぼんやりしていたわたくしは、シャルジール様の名前を呼びました。
もう、お仕事に行ってしまわれたでしょうか。
今が何時なのかも、わたくしにはわかりません。
「リミエル……」
わたくしの隣に、頭を抱えているシャルジール様がいらっしゃいました。
ハッとしたようにわたくしを見ると、慌てたようにわたくしの頬や髪を撫でてくださいます。
「リミエル、大丈夫か? 昨日私は、完全に理性を飛ばして、君に酷いことを……すまない、リミエル。本当に、すまなかった」
「シャル様……」
シャルジール様、大変反省していらっしゃいます。
狼狽しながら反省するシャルジール様の姿を見たのもはじめてでした。
わたくしも実を言えば、大変な目にあったので、やりすぎてしまったのだろうと思って少し反省していたのですが、シャルジール様の反省はわたくしの比ではないようでした。
「わたくし、幸せでした。……それに、すごくて、ええと、ともかく、すごかったです……」
「それは、いい意味で、だろうか」
「は、はい、もちろん……っ、わたくし、強引なシャル様も好きです。愛してくださって、嬉しかったです」
「リミエル……駄目だ。ずっと欲望を押し込めていたからだろうか、我慢が効かなくなってきている」
「シャル様、待って、あの、今はまだ……」
「リミエル、愛しているよ、リミエル」
もう一晩経っていますし、わたくしのお洋服も脱がされて、頭の猫耳も取れていますし、食事の効果も切れたのだと思うのですが。
シャルジール様がわたくしを抱きしめる力強さと、不埒な指先が背中を辿るのを感じながら、わたくしは赤くなったり青くなったりしたのでした。
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