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「次に、貴女の処遇なのだが…、これも貴女の意見を尊重する。こちらでいくつか提示するので考えて欲しい。まず一つ目は、王妃になる。つまり、俺と結婚する…「はあ?いきなり何でそんな事になるの?」
ライエルの言葉を遮りつい大声を出してしまう。責任の取り方が妙子の想像の遥か上を超え、異常すぎてついて行けない。だが、ライエルを見るといたって真面目な顔をしている。本気で妙子の今後を考慮してくれたのだろうが、方向が間違っていると妙子は頭を抱える。
あの美味しい食事まで時を戻したいと、現実逃避しかけた妙子だが、そんな事は叶わない。
「ただの提案だから、最後まで聞いて欲しい。先ほども言った様に、貴女の意見を優先する。一つ目、俺と結婚し、王妃となりこの国で暮らす」
「お断りします!」
初めて会った人に責任取るから結婚しようと言われて、喜んではい!と言う訳がない。妙子は即座に声を上げる。
「…二つ目、この国の貴族の養女となり生活をする。無論、一生不自由はさせない家を選ぼう」
「それも、お断りします」
「三つ目、…これは貴方の判断次第なのだが、カーライルとの結婚…」
「ぜーーーったいに嫌!!!」
「だろうな…」
断るだろうと分かり切ってはいても、少しでも選択肢を多く出す為、提案のひとつとして混ぜてはみたが、予想通りの反応にライエルは苦笑した。
「四つ目、私を元の世界へ帰す」
「…出来るならこんな提案はしていない」
ライエルだって出来る事なら妙子の願いを叶えてあげたい。だが、現時点で不可能な事を言われてもどうにもならないのだ。
「五つ目、王城で働く」
「具体的な仕事は?」
初めて妙子が興味を示した。
「侍女として掃除や洗濯、王族の身の回りの世話。庭師見習いとして庭園の手入れ。調理が得意であれば調理師、騎士…は無理だろうな。その他にも仕事は色々ある。興味があれば文官としての仕事も用意しよう。勿論、衣食住は保証するし、給金も出す」
妙子にとって今の所一番マシな選択肢だと思うが、即決する事は出来ない。条件を飲むと言う事はこの国で生きていくことを了承する事なのだから。
「少し考えさせてもらっても?」
「勿論だ、ゆっくり考えて欲しい。何なら俺の来賓として何もせずそのまま住んでくれても構わぬ。今いる部屋を好きに使ってくれればよい。何か必要なら侍女に伝えてくれ」
「いえ、それもお断りします。それと、その部屋なんですけど、もう少し狭い部屋に変えてもらえませんか?広すぎて落ち着かないので」
「…分かった、別の客間を用意しよう」
狭いから変えてくれ、ではなく広すぎるから変えろと言うし、ライアンの提案も悉く断る。異世界の人間は欲がないのだろうか?と疑問が生じるライアンだった。
「ありがとうございます。では失礼致します、…ご馳走様でした」
ぺこりと頭を下げると、リーヌと共にガゼボから立ち去る後ろ姿を見ながら、妙子がどういった決断をするのか少し楽しみになっていた。
それから数日後、妙子からここで働きたいとの連絡を受け、何が出来るのか侍女達と一緒に仕事をみたいと言い出したと聞き、ライエルは了解すると共に、妙子がどんな仕事を選ぶのか結果報告を待ち遠しく思うのだった。