表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/11

8

 この俺が速攻で振られるとはな、ライエルはその時の妙子の表情を思い出し、クククッと笑った。面白い女だった。物怖じせず自分の意見をはっきりと言う。ライエルは妙子の事をかなり気に入っていた。懐かない野良猫を構い心を開かせるのと同じだな、と、失礼極まりない事を考えながら、妙子と対面した時の事を思い出していた。


「言いたいことは山ほどあるだろうがあるだろうが、まずは食事にしないか?」


 部屋にいるのは息が詰まるだろうと庭園のガゼボへと呼びだした。少しでも気が晴れればと配慮したのだか、妙子の視線はライエルにのみ注がれている。好意的な視線ではなく、親の仇でも見る様な視線だった。そんな剣呑な視線に内心苦笑しながらもライエルは軽くいなし、スッと手を上げる。

 リーヌがクッションライエルの対面に置き、妙子に着席を促す。妙子が渋々座ると、二人の間に食べ物が次々に置かれていく。サンドイッチにオムレツ、カリカリに焼かれたベーコンやソーセージ。サラダやフルーツにスープや飲物も数種類。二人で食べるには多すぎる量だ。


「好きなだけ食べてくれ」

「…いただきます」


 いらないと断るかとも思ったが、妙子は大人しく食事を始めた。会話も一切なくライエルを見ようともせず黙々と食べる、とても静かなひと時。


(どれもめちゃめちゃ美味しい!卵もフワフワだしチーズも入ってる、パンも柔らか!)


 一口食べると目を大きく見開き、笑みを浮かべまた次の料理を口にすると同じ動作を繰り返す。その様子をライエル含め周囲にいた者がほほ笑み妙子を見ていた事は、食事に夢中だった妙子は気づいていなかった。

 ひとしきり食べ、妙子が満足したところを見計らった様にライエルが口を開いた。


「今回の事、本当にすまなかった。俺の知らぬ所で起きた事とは言え、息子であるカーライルがしでかしたことだ。父親として、謝罪する」


 妙子へと頭を下げる。


「…貴方に謝られても、許せることじゃないですけどね」


 昨夜同様怒鳴り散らされるかと思っていたが、落ち着いた声が返ってきた。顔を上げ妙子を見ると、ムッとした顔をしてはいるが、昨夜ほどではなかった。そもそも怒鳴られる事はあっても怒鳴る事はほぼほぼない妙子にとって、あれほどの感情を露わにして怒ったのは初めての事だった。


「きちんと説明をさせて貰いたくてこの場を設けた。聞いてもらえるだろうか」

「…はい」


 妙子がコクンと頷く。今の状態ならばしっかりと話ができると判断し、ライエルは話し出した。


「カーライルが発動させた秘術は、異世界から人を召喚させる事が出来るものだ。無論、無闇に発動させられる訳ではなく、いくつか条件がある。その条件の一つが昨夜の月食だった」


 ライエルは妙子から視線を逸らさず話を続けた。


「わが国で月食は30年に一度。その日を逃せば秘術を使うことが出来ないと強行した結果、貴女が召喚されてしまった。そして、その秘術は国王のみ扱う事が許されたもの。当然、勝手に行った者には処分を下す事になる。最高の処分は絞首刑、最低でも無期限の強制労働となる」

「…はい?」

「貴女の意見を尊重する。この秘術は召喚する事は出来ても帰すことが出来ない身勝手な物。それにより貴女の人生を狂わせてしまった事への償いにはならないが、先ずはこちらの誠意として彼らの処分は貴方の希望を優先する」


 サラっととんでもない事を妙子に選択しろと言い出すライアンに、頭が痛い。これが文化の違いか?ここではこれが当たり前なのか?私は被害者だけど、裁判官ではないぞ!のっけからこんな重い事を言われるとは想像していなかった妙子は答えに窮してしまう。


「貴女のいた世界ではこのような時どんな処罰になるのだろうか?出来うる限り同じ罰を考える」

「いやいや、そもそも死刑なんて簡単に行われないし、無期懲役だって真面目に反省すれば刑期は減るし、その前に裁判だってあるし、兎に角そんな簡単に決められることではないです!」

「…では、彼らの処分は貴方の考えがまとまり次第と言う事で良いだろうか?」


 取り合えず重すぎる決断を保留にしたく、妙子は大きく頷いた。ジュースを一口飲み気持ちを落ち着ける。国が違えば文化も違う、ましてや異世界。妙子の常識がどこまで通じるのか、心を強く持とうと思い直した妙子に、ライエルは更なる爆弾を投げつけた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ