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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

赤い雨

作者: howari

僕は復讐を誓った——


その村に赤い雨が降った。

僕が10歳になった年に初めてだ。

その血にも似た雨が、僕の背中を後押ししてくれる様だった。そう、僕の復讐を——。


***


父には田舎暮らしをしたいという夢があった。その為に必死に働いていた様なものだ。目標金額まで貯金が貯まると、ネットで調べた一番イメージにあった村へと引っ越しをした。



——美しい自然と美しい海、美味しい海産物が有名な村。



そこはとんでもない村だった。


確かに海や山々はきれいだが、老人ばかりの村。


船から降り立つとそのどんよりした空気に吐き気がし、不気味な雰囲気にむせ返る。父も母もイメージとは違う村に、ただ溜め息だけが漏れた。父は医者をしていたので、村人達の表情や言動がおかしいことにすぐ気付いた。


「何かおかしい村だな」

「村人たちも何かおかしいわね…」


父はこの村の古い空き家を借りて、この村で開院をしようと思っていたのだ。でも何かがおかしい、何かが怪しいと思っていた。村人たちが何かを隠している様だと…。



次の朝、父と母は村長の後を着いて行く事にした。


山の奥へと入っていくのを息を呑みながら着いていく。


数分歩いた後、開かれた場所には沢山のビニールハウスが並んでいてその一つに村長は入って行った。

その中に入ると…とんでもない光景を目にする。


〝大麻畑だ!〟



「村長!これは違法薬物なのでは?!」


「お前ら…昨日引っ越してきた夫婦か」


「村人みんなが大麻を?」


「だから何だと言うんだ」


「こんな事許されませんよ?すぐに警察…」



そう言おうとした父は、背後から桑でザクッと殴られる。


「あ、あなた!!」


続けて母もザクッ!



そのまま僕も一緒に、ビニールハウス近くの暗く冷たい土の中へと埋められた。



父からも母からも、もう…

温かいぬくもりも…

呼吸も感じない。


僕は必死で膜を破り、母のお腹を引き裂き、土をかき分けて地上へと這い上がった。 


見上げた空には星たちが美しく瞬いている。

僕はまだ何も知らない世の中に、憎しみという感情しか持たなかった。涙もたくさん流れてその夜空へと泣き叫んだ。


そして誓った、復讐をしようと——。



僕は優しい夫婦に拾われた。

40代ぐらいの夫婦だ。赤ちゃんがずっと出来なかったみたいで、僕を大切に愛情を注いで育ててくれた。

彼らは大麻の事は知っていたが、バラすと殺すと言われずっと暮らしていたみたいだ。


10歳になったら復讐しよう。でもこの二人には迷惑をかけたくないから一人でやろうと思っていた。

優しい二人を巻き込みたくない。



「明日、10歳になるわね!何が食べたい?」


「ハンバーグ!お母さんのハンバーグは世界一だもん」


「ありがとう。じゃあハンバーグにしましょう」



二人と最後の夜。

僕は覚悟を決め、布団を被って眠りへと就いた。



朝早く起き、灯油を代車に乗せて運ぶ。

ビニールハウスの大麻畑を全部燃やしてやるんだ。

それから、それから、

父と母を殺したアイツらを殺してやる。

ナイフをポケットに入れていた。



10歳の僕には大変な作業だった。

汗がたくさん背中を落ちてくる。額からもたくさん。

でも、僕がやらなきゃ。あの二人も解放してあげなきゃ。

こんな事をしても父と母が喜ぶかは分からない。

でも、あの夜に誓ったんだ。

この為に僕は産まれてきたんだから——。



「何、やってるんだ?!」



この声は覚えている。

憎っくき村長の声だ!


アイツらも桑を持って背後に立っている。



「これを燃やしてやるんだ!」


「そんな事させん!お前どこのガキだ?」


「僕は10年前にここで殺された夫婦の子供だ!」


「ん?あの時の?腹の中のガキ?」


「そうだ!!!」



僕は村長に向かってナイフを振り上げた!



その時、僕の頬に冷たい液体が触れた。


空を見上げると天から赤い雨が降り注いでくる。


その美しい雨は土にシミを作り、干からびた土を潤していく。


村長やその村人たちは、その雨に当たると苦しみ出した。何故かは分からない。



土の中からボコっと二つの手が伸びる。 

土が盛り上がって、中から二つの人が這い上がってくる。


「父さん!母さん!」


その二人はあの時殺された父と母の姿だった。


「ありがとう。もう私たちは大丈夫だから逃げなさい」


「で、でも…」


二人は血だらけのまま、村長と村人へと襲いかかる。


「うわぁぁー!?」


「ぎゃ、ぎゃあぁー!!」


まだ赤い雨は降り続ける。

遠い場所からも苦しんでいる村人の声が聞こえてくる。きっと罪を犯した奴らに罰を与えているんだ。 



「大麻は処分しておく。だから逃げなさい!」


「あなたは幸せになるのよ!」


「僕はね…父さんと母さんの子供で良かったよ!ありがとね!」



僕は泣きながら走った。

赤い雨が涙と混じり合っていく。

父さんと母さんにまた会わせてくれてありがとう。



山を下ると村人たちが苦しんで倒れている光景がある。

その人達にも雨はもっともっと降り注ぐ。


その横を全力で通り過ぎて行く。



僕は育ててくれた父と母とこの村を出て行った。



その村は大麻もろとも全て全滅した。

村人一人の遺体も見つからなかったんだと。

唯一見つかったのは二人の遺体だ。



そして——あの赤い雨はもう二度と降らない。



end




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