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夜の虹  作者: 村崎羯諦
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 月に一度のお休み明けで、お星さまがいつも以上に張り切って光り輝いていた夜。あなたが夜更かししてラジオを聴いていると、ふとラジオから、今夜町の外れにあるパイナップル砂漠で『夜の虹』が架かるというニュースが流れてきます。


 あなたは人差し指のささくれから目を離し、机の上のラジオへと目線を向けました。ラジオのアナウンサーが表現豊かに描写してみせるその夜の虹はとても綺麗で、あなたの頭の中に色鮮やかな七色の景色が広がっていきます。あなたの胸の鼓動はいつのまにか早くなっていて、先程までまどろんでいた意識が少しずつはっきりとしていきます。


 明日は小学校もありません。他の子たちと遊ぶ約束をした時間だって、お日さまがうんと高いところまで昇ってからです。そして何より、夜は長いのです。どれくらいかというと、あなたが町の外れにあるパイナップル砂漠へ自転車をこいで行って帰ってこれるだけの長さです。他の子供達よりも好奇心がずっと旺盛で、そして勇敢なあなたが、これから一人で夜の虹を見に行こうと思うのはとても自然なことでした。


 あなたは急いで身支度を始めます。リュックを取り出し、その中に色んなものを詰めていきました。それはメープルバタークリームを挟んだビスケットサンドだったり、充電式のラジオだったり、読みかけの電話帳だったり、拾った流れ星の欠片が入った小さなランタンだったり、とにかくいろんなものでした。


 もう寝る時間だというのに灯りがついているのを不思議に思って、あなたの可愛い妹さんが部屋に入ってきます。「どこかに出かけるの?」と眠たげな目を擦りながら妹さんが尋ねると、あなたは夜の虹を見にいくんだと伝えます。妹さんは私も連れて行ってと駄々をこね始めましたが、あなたは連れて行けないと何とか言い聞かせ、リュックに入れたばかりのビスケットサンドを一つだけ取り出し、それを手渡します。妹さんは大好きなビスケットサンドをひとかじりした後で、満足げな表情で自分の部屋へと戻っていきました。


 重たいリュックを背負って、部屋の電気を消します。一階の寝室で寝ている両親を起こさないように忍足で階段を降り、廊下を渡り、音一つ立てずに家の外へと出ます。


 あなたは深く息を吐き、夜空を見上げ、宝石をばらまいたみたいにキラキラ輝く空に思わずため息をついてしまいます。もちろん今までも夜更け過ぎにこっそり外へ出るということはありましたし、お休み明けのお星さまの美しさも知っていました。けれど、たった一人で夜の虹を見にいくという冒険が、あなたの心をとてもわくわくさせていたのですから、夜空の輝きはいつも以上に素敵に見えたことでしょう。


 あなたはリュックを背負い直し、お気に入りの赤い自転車に乗ってパイナップル砂漠がある方角へと走り出します。夜更け過ぎの通りはひっそりと静まり返っていて、耳をすますと左右に並ぶ家の中から誰かの寝息が聞こえてきそうなほどでした。毎日友達と遊んでいる公園には誰もおらず、上級生がいつも独り占めしているブランコが退屈そうに一人でゆらゆら揺れています。お日さまが照っているお昼は少し歩くだけで汗をかくくらいに暑いのに、空気はひんやりと冷たく、時折吹く夜風があなたの首筋を撫で、あなたはくすぐったさと寒さでぶるりと体を震わしてしまいます。


 町の外れにあるパイナップル砂漠は、大人からすればそこまで遠い場所にあるわけではありません。しかし、あなたはまだ一人で町の外に出たこともないような子供で、夜空の下、たった一人で自転車を漕いでいるのです。本当にこっちの道で会ってるんだろうかという不安や、この世界から自分以外の人間が消えてしまったのではないだろうかという想像が、あなたを少しだけ心細い気持ちにさせます。


 しかし、そんなあなたの孤独を察したのでしょうか。夜空に浮かぶお星さまたちが楽しそうな声で話しかけてきました。

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