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世界を滅ぼしてみた。  作者: Shiro
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第一話

世界を滅ぼしてやる、そう決意した。

なにもかもにウンザリしたからだ。


腐敗した政治だの、少子高齢化だの、国同士の争いだの、男女平等だの、セクハラパワハラモラハラその他云々。挙げればキリがない。本当にろくでもない世界に生まれてしまったのだと、痛感する。数十分前のハプニングを、ニュースでうやむやにして脳裏から抹消しようとしたのが完全に裏目だ。


余計に気が滅入った。


心の底から辟易した俺。遂にはケラケラと渇いた笑いが零れる。傍から見れば頭のネジがゆるんだおかしなヤツだろう。


——結論は出た。これ以上の思考は必要ない。


清々しい晴天の空に遠い目を向けながら、自室で嘆いた。


「この世界はもう救いようがないな。一度滅ぼしてやり直すしかあるまいて」


自室の押入れの奥深くに封印してある正方形で灰色塗装の金庫。小型のクセにずっしりしているせいで取り出すのに一苦労させられる。ダイヤル式の暗証番号を入力。カチッと施錠が外れる音がすると、中から一冊のノートを取り出した。背表紙が銀メッキであること以外、なんの変哲もなさそうなノート。


重苦しい溜息をつきながら真ん中よりやや前辺りのページを開く。最後に書いたメモが、俺の字で綴られていた。


『カノジョが人のプライバシーを侵害するのをやめる』


うん、最初こそマジメな願いを書いたとも。けど、書いたら書いたで今度は別の問題点を発見してしまい、次にその対応。ドミノ倒しのように増える課題に追われ、徐々に願いが歪んだ方向へと向かうようになってしまった。


人生で初めてできたカノジョは見てくれこそ高スペック。が、中身はヤンデレの地雷女だった。浮かれていたのも束の間、親密度が上がるにつれ、人のスマホを無断でチェックしようとする。しかも、暗証番号をかけても、指紋認証にしてもロックを解除してくる。


勘弁してくれ。他人に見られたくないもののひとつやふたつ、俺にだってあるんだ。そうキッパリ説明しても馬の耳になんとやら。すべてはふたりの愛を深めるためとか宣いやがる。


メモを最後に、以降は白紙がずっと続いている。いくらくだらない願いに費やしてきたと言えど、まだまだ人生で使い切るには程遠い。これ以上無茶苦茶な使い方さえしなければの話だが。




さて、本題に戻ろう。


「とりあえず、世界には終焉を。あー、でもさすがに家族を巻き込むワケにはいかないか……そうだ。この家を除く全世界を滅亡させる。うん、悪くないはず」


有言実行。それが今のモットー。ただし、モットーは気分でころころ変わる。人生、状況に応じて動いた者が勝つ。


シャーペンをノート上に走らせ終える、と。


突如、辺り一帯がブラウンカラー一色に染まり、視界が塞がれた。土や砂ぼこりが盛大に巻き上がっているようだ。辛うじて視認できる遥か先に何十メートルあるかもわからない高さの超巨大な竜巻が生成され、まっすぐこちらへ向かってきた。自然界にありえないはずの、尋常じゃない速さで。


しかし。


家自体に網状のバリヤーが瞬時に張り巡らされ、高速で突進してきた竜巻を正面から受け止める。しばらくの競り合いの後、竜巻の向きが180度転換した。


本来聞こえるはずの強風音も衝撃もバリヤーがことごとく遮断しているから、音量をゼロにした映画を観ているような感覚。土やら砂ぼこりが不規則に舞い上がり、たまにご近所さんの屋根の瓦や窓ガラスの破片と思しきものが飛んでくる。が、相変わらずウチはノーダメージ。


高みの見物とはまさにこのことである。


「ちょっとお兄ちゃん?!」


ドタドタと初めて家で騒々しい出来事。愛しの我が妹が血相を変えて部屋に乗り込んできた。おたまを持ったエプロン姿で。今日もかわゆい。


「なになになにこの騒ぎ?! ウチの周りとんでもないことになってるんだけど?! てか、なんでなにも聞こえないのっ?!」

「……土木工事かなんかだろ。派手だけどうるさくなくていいじゃん」


言い終えるか否かというタイミングで黒い物体が飛来してきた。高速過ぎたため、我が家のバリヤーに弾かれると「キャウンッ」と鳴き声を発したように思えた。ついでに血しぶきも僅かに見えたが、瞬く間に風の奔流に飲み込まれて消えた。


近所に住んでいる河野さんが飼ってたドーベルマンだ。河野さんは町中ですれ違うたび挨拶をしてくれる気のいいジェントルマンだが、犬の方はすれ違うたびギロリと殺意の籠った視線を飛ばして威嚇してくるクソ犬だった。河野家の近くを通りかかるだけで、鋭利に尖った犬歯を見せつけながら吠えてきやがるし。オマケに追い掛け回されたことさえある。本気で噛み殺しに来る迫力に、犬に対するトラウマを植え付けられそうにもなった。


本音を言えばざまぁと言ってやりたいが、河野さんに免じて念仏ぐらいは唱えておいてやるか。


真顔で合掌した俺を見てなのか、妹の表情から血の気が失せた。

そんなビビらなくてもこの家は安全地帯だというのに。

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