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二人目の求婚者

「ペンドラゴン家といえば、この国で初めてドラゴンと心を通わせたと言われる伝説の一族。その功績を讃えてドラゴンという名の入った姓を授かったとか。知らなかったとはいえ無礼を働いてしまいました。申し訳ありません!」


 ダグラスと呼ばれた黒髪黒コートの男性は、どこかで聞いたようなセリフを口走る。

 

「自己紹介が遅れました。わたくしはダグラス・スレインと申します。これでも侯爵家の三男であり、それなりの教育も受けております。是非ともわたくしと結婚――」

「戯言はそこまでだ」


 ルーウェン様がダグラスという男性の言葉を遮る。

 

「ペンドラゴン嬢は俺の婚約者なんだぞ。今更何を言ってるんだ」


 ダグラス様は顔を上げると、微かに笑みを浮かべる。


「だが、まだ結婚はしていない」

「人の婚約者まで奪おうというのか? とんだ下衆男だな」

「ルーウェン。ペンドラゴン様がお前に愛想を尽かすことだってありうるだろう?」


 ダグラス様は再び頭を下げる。


「ペンドラゴン様、その時は是非俺と結婚して頂けませんか!?」


 なんなんだこの人は。まさかとは思うけど、ルーウェン様と同じ……

 その時後方にいた女性達がざわめき始めた。


「ダグラス様! 結婚ってどういうことですの!?」

「そうですわ! しばらく結婚の予定はないっておっしゃっていたじゃありませんの……!」

「雑魚は黙ってろ!」


 ダグラス様の喝に女性達は黙り込んでしまう。

 その様子を気にすることもなく、ダグラス様は立ち上がると私の手を取る。


「どうぞ。わたくしの自慢のドラゴン、ブリリアントブラックをご覧になってください」

「え、ええ……?」

「やめろダグラス! 俺の婚約者に触れるな! 無礼だろう! その薄汚い手を離せ!」


 ルーウェン様がダグラス様の手を掴んだので、その隙に私はダグラス様の手を振り払い、ルーウェン様の背後へと隠れる。

 ルーウェン様とダグラス様はお互いに睨み合い、一触即発の雰囲気だ。

 ど、どうしよう。もう帰りたいよう。


 その時


「どうした。なんの騒ぎだ」


 ピリピリした空気を打ち破るように、重厚な男性の声が聞こえた。


「騎士団長!?」


 今まで睨み合っていた二人の声が重なる。

 見れば、そこにいたのは濃いブルーのコートを纏った中年の男性。肩に竜騎士の印である刺繍が施してある。

 

「こんなところで何を争っているのだ。特に今日は国民も見学に来ているのだぞ。礼節を重んじる竜騎士が失態を晒してどうする!」


 このお方が騎士団長? 確かに纏う雰囲気から威厳やらなにやら重苦しい雰囲気を感じる。


「申し訳ありませんでした!」


 一喝された二人は、そろって床に跪く。

 そんな二人に騎士団長は問う。


「二人とも、なにが問題かわかっているのだろうな?」


「民の前で醜態を晒したこと、どうかお許しください」

「騎士団の権威を失墜させるような行動をした事、どうかお許しください」


 騎士団長は深くため息をつく。


「謝るのは俺にではない。民だ。二人とも民への贖罪として、今より一週間の謹慎を命ずる」

「そ、そんな、それではクーウェルの世話ができません!」

「同じくブリリアントブラックの世話ができません!」

「見習いにやらせておく。不満か?」

「クーウェルの世話を私以外の者にさせるなど言語道断! 考えられません」

「私も同じく! ブリリアントブラックは私がいないと本来の力が発揮できないのです!」


 なんとなくわかってきた。どうやらブリリアントブラックというのはダグラス様のドラゴンの名前らしい。

 そして二人とも謹慎は嫌だと。


 騎士団長は二人を一瞥する。


「そう思うなら自分の行動を反省し、次に活かせ」


 そう言うと、くるりと背を向け去ってしまった。

 あたりにはなんとなく気まずい雰囲気が漂う。

 だって、竜騎士の二人とも、この世の終わりみたいな絶望した顔をしてるんだもん。なんと声をかけたらいいのやら……。


 その時、ダグラス様の取り巻きの女性達が一斉にダグラス様に駆け寄った。


「ダグラス様! 気を落とさないでください! 一週間! ほんの一週間の我慢です!」

「私、一週間が過ぎたら、真っ先にダグラス様に会いに行きます!」


 そんな言葉をかけられてもダグラス様は上の空だ。

 上の空といえばルーウェン様も、死んだ魚のような目で虚空を見つめている。

 ここは私がなんとかしないと……


「あの、ルーウェン様……」


 言いかけた瞬間、ダグラス様に群がっていた女性達が一斉にこちらを向いた。


「あなたのせいよ! あなたのせいでダグラス様もルーウェン様も謹慎処分を受けたのよ!」

「そうよ! お二人に謝りなさいよ! もちろん土下座してね!」


 え、な、なにそれ……そこまでの事……?

 女性達は戸惑う私の手足を掴むと、頭を下げさせようとする。

 ど、どうしよう。逃げられない……!


「その方に触れるな」


 静かで、それでいて怒りを含んだ声が響いた。

 いつのまにかルーウェン様が立ち上がっていて、女性達を睨んでいた。


「雑魚どもが。その手を離せ」


 ダグラス様も私と女性たちとの間に割って入る。


「いいか。今後この方に危害を加えるようなことをしてみろ。どうなるかわからんぞ」


 威圧するように女性たちを見回すと、女性達は身を縮める。


「今日はもう散れ。俺は謹慎の身なんでな」

「そんな、ダグラス様……」

「散れと言ってるんだ!」


 その剣幕に、女性達は時折こちらを振り向きながらも厩舎の外へ出て行った。

 はー、助かった。あのまま土下座させられたら、ペンドラゴン家の名に傷が付くところだった。

 

「大丈夫ですか? ペンドラゴン嬢」


 ダグラス様が私の手を取る。


「おい! ヒルダ様に気安く触るな! この浮気男!」


 ルーウェン様がダグラス様の手を引き離すと、自身の背後に私を隠す。


「浮気じゃない。今度は本気だ」

「な……!」

「いいかルーウェン。婚約中だろうと関係ない。必ずペンドラゴン嬢を振り向かせて見せるからな」

「お前……!」


 ルーウェン様がダグラス様に掴みかかろうとするも


「おっと、また騒ぎを起こすのか? 謹慎期間が延びるぞ」

「ぐっ…….」


 その言葉に必死に怒りを抑え込んだようだった。


「じゃあなルーウェン。ペンドラゴン嬢、次にお会いできる時を楽しみにしております」


 ルーウェン様の背中越しに微笑むと、ダグラス様は去っていった。


「ヒルダ様、あのダグラスという男は危険な男です! なにを仕掛けてくるかわかりません! 出来る限り屋敷から出ずに過ごしてください!」


 そんなに……? 一体何をする気なんだろう。


「あの、少し気になったのですが……」

「なんでしょう?」

「ブリリアントブラックというのは……」

「ああ、ダグラスのドラゴンの名前です……なぜ俺のルナティックアイズが却下されて、奴のブリリアントブラックなどどいうかっこい……ふざけた名前が採用されるのか理解できない……!」


 うーん、ブリリアントブラックとルナティックアイズじゃなあ……その名の通りブリリアント具合が違う。


 ルーウェン様は話を続ける。


「それでクーウェルという名を付けてくださったのが、先程の騎士団長なのです。私の最も尊敬する人物です」


 そうか。尊敬する人が付けてくれた名前なら納得せざるを得ないよね。騎士団長がまともなセンスの持ち主でよかった。



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