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第62話『離さない』

前回のあらすじ


スカーレット=アルカンシエル、初の兄妹喧嘩を体験する。


これはその中で思いを馳せた彼の昔の噺。

追憶である。


 …


それからというもの、お父様の看病をしながらクリムを避けるように心がけた。

とても胸が締め付けられて今までの何より苦しかったけど、心を鬼にして接した。

これも彼女の為なのだと何度も自分に言い聞かせながら。


「に、兄様!」


「…。」


勇気を振り絞った顔のクリムがアタシを見つめていた。アタシは冷たい目を向けたけど、この子は目を逸らさなかった。


「く、クリムは何か怒らせるような事をしてしまったのでしょうか…!兄様の笑顔が見たいのです…!

理由を、お聞かせ…下さいっ!!」


怯えた目が潤む。…けど流さない。

やはりまだ素直に泣けないんだ。

そう思ってアタシは


無視をした。


「に…さま…」


本当にごめんね、ごめんね。貴女の為なの。

これまでと比べ物にならないくらい胸が痛くて苦しい。

何度もナイフで滅多刺しされているよう。

でも耐えないといけない、あの子の幸せのために。


しかしクリムは数日静かになった後、直ぐに行動しアタシの手を振り払う事はなく、一方的に握り続けた。

なら、アタシは嫌われる演技をしないといけない。


「に、兄様!お掃除致しますよ!」


「…埃。」


「はわっ!!すみません!」


「…」


埃なんてある訳ない、貴女は謝らないでいいの。

侍女達が凄く驚いているほど綺麗だもの。


クリムは笑顔でアタシに話しかけていた。

ずっと。


朝も。


「兄様!朝ご飯作らせていただきました!」


「いらない。」


「あぅ…。」


夜も。


「に、兄様!く、クリムがお夕飯を作りました!

ど、どうですか!」


「別に。」


永久保存しておきたいくらい美味しかった。

頭を撫でて頑張ったねって褒めてあげたい。

でもやったら今までが水の泡になる。

あの子の期待の眼差しが太陽のように眩しくて痛い。

目を合わせて話したいのに、嫌われないといけない。


「兄様!食後のデザートもお作りしたのです!」


「今まで食べたケーキの中で1番美味しい。

(アタシ、甘いの嫌いなのだけど。)」


「え?」


「アッ間違えた!忘れなさい!!ご馳走様!」


しくじった…慣れないことをするもんじゃないわね…。

いや、慣れないとあの子の為にならないわ。

それから暫く、これを続けた。

二度とさっきみたいな失敗はしなくなった。

この状態で何回も年を越したのだから。


「兄様!」


「煩い。」


あの子は何度も。


「あのっ」


「…。」


何度も何度も何度も何度も。


「兄様!」


「出てって。」


あの子はずっとずうっとアタシの手を握り続けるの。

今までで話しかけられなかった日はなかった。

凄く酷い言い方をして冷たく当たっているのに、嫌いになる様な事ばかりしているのに。

あの子は絶対に諦めなかった。

まるで最初にお父様を看病していた自分のようだった。


アタシ、本当はこんな事したくないのに。

終わりにしたいのに。何で笑顔なの!何で嫌悪しないの!何でアタシの後ろを追いかけ続けるの!


何で、嫌いだと言ってくれないのッ!?


早くアタシの手を振り払いなさい…!

お願いだから…っ!!



「兄様。」


やめて。


「にいさま。」


やめて…。


「にいさまっ!」


やめて……っ!!


「スカーレット兄様っ!」


「!」


家族に、久し振りに名前を呼ばれた。

そう思って足を止めてしまった。

だめ、だめ…自分に甘えたらこの子が心から笑えなくなってしまう…!アタシと居たら…!


もう…突き放すしかない!!


「何で…何でいつもいつも近寄ってくるのよ…!

アタシ、アンタに酷い事散ッ々してるのよ!?

いい加減アタシから離れなさいよッ!!!

嫌いになりなさいッ!!」


演技のつもりが、口から出たのは本心だった。

やばい、取り繕わないと。


クリムはゆっくり首を横に振る。


「…クリムは、兄様に酷い事なんてされた覚えがありませんよ。」


「……は?」


じゃあ何でそんな辛そうな顔なのよ…

アタシと居るからでしょう…!?


「確かに兄様はここ何年と素っ気なかったですが、

クリムに嫌いとは1度も仰いませんでした。

そう、1度たりとも。」


クリムの潤む大きな瞳はアタシだけを映している。

表面張力でアタシが歪んで見える。


「だから気付いたのです。

クリムの為を思ってくれているのだと。

だって、クリムの自慢の兄様はとおっっってもお優しい方なのですから。」


笑顔を浮かべ、1歩、彼女は踏み出す。

アタシは思わず1歩後ろに退いてしまう。


「父様の事やお勉強で大変な毎日の中、ご自分の時間を一切作らずクリムとの時間を作ってくれて…クリムが笑うと笑ってくれて…」


クリムの声を聞くと、自分の中で取り繕っていた黒い何かがバキバキと音を立てて亀裂が走る。

亀裂が走る度、感じたことの無い光と何かが込み上げてくる。

演技を…しないと…いけないのに!


「そんな優しい兄様を嫌いになれる訳…ないじゃないですか!」


今までクリムとまともに話をしなかったからか彼女からとても優しい言葉が沢山溢れ出てくる。


「だから素っ気なくなってしまった時、寂しかったですが…クリムに構わない時間が出来て兄様もゆっくり出来ると思ったのです。」


自分の時間なんて要らない。

貴女と過ごせる事がアタシの救いだったのよ。

一人の時間なんて…あっても過ごし方を知らないから何も出来なかった。


「でも兄様は凄く寂しそうで…辛そうで…!

クリム、兄様を笑顔にしたいって思いました。」


何で酷いことをしてる奴を気にかけるの。

今も貴女を泣かせる最悪な奴なのよ。


「昔みたいにクリムが笑えば兄様も笑ってくれるかなって思って……。

でも何やっても空回って兄様を怒らせてしまって…クリム、やっぱりダメな子ですね!」


傷心を隠し、無理に笑う彼女を見ると心が酷く締め付けられる。

貴女がダメな子なわけが無い。こんな酷いアタシの事を今でも兄だと言ってくれるこの子が…。


「本当に、本当に…兄様に頼りきりだったと、自分は無能だと思い知りました。」


違う、そんな事言わないで。

貴女はとても凄い子なのよ。

口を開こうとした瞬間、床を目掛けてクリムは勢いよく頭を下げた。


「!?」


「今まで申し訳ございませんでしたっ!兄様の辛さも知らず!父様の事も全て兄様1人に任せっきりで…!」


それはアタシが選んだことなのよ。

貴女の意見を聞いていなかったのはアタシなの。

クリムは頭を上げようとしない。


「お願いします兄様!昔のように心の底から笑って!

クリムを頼って下さい!

1人で抱え込まないで下さい…っ!」


クリムの事をとても良い子だと思うからこそ、ふと疑問が生じる。

何で…何で突き放さないの?


思いを吐き出したクリムの熱に感化されたアタシはずっと隠しておこうとした思いを等々声に出し始めてしまった。


「アンタは昔、アタシと居たから怪我したのよ…!」


「だってこんなに優しい兄様の悪口言う人なんて許せるはずありません!

それに兄様が結局助けてくれました!」


「だからアタシと居ちゃダメなの…!

アンタが…貴女が心の底から泣けないから…っ!」


「兄様に心配掛けたくなかったのです!

クリムの笑顔が好きと言ってくれた兄様の前でのクリムは笑顔で居たいのです!!」


「だから泣けないんでしょうがっ!!!」


()()泣きたくないのですっ!!貴方の為にっ!!」


「っ!」


表面張力が耐えきれず溢れる涙と、

初めて聞くクリムの大声で少し怯んだ。


そしてクリムは()と言った。


クリムの一人称はお父様に狙われないようにアタシが強制させたもの。

私と言うとお父様はアタシ達をお母様だと認知するから。


そうだ、この子はずっと言いつけを守ってくれていたんだ。


「何で兄様は私を遠ざけようとするのです?

それこそ私は笑えません!泣けません!

そんな事も分からない今の兄様はあんぽんたんです!!」


「あ…っ!?」


「私の為を思ってくださるのなら傍にいて下さい!!無理をしないで笑ってください!!怒ってください!!泣いてください!!喜んでください!!」


彼女は涙が溢れているのに、怒っていた。

生まれて初めてクリムに怒られた。


「私は何を言われても兄様のお傍におります!!

兄様がそうしてくださったように!!

だから兄様!!私は…わたしはぁ…っ!」


「!」


アタシは何て救いようの無い酷い兄なのだろう。

クリムの為と言っておきながら冷たい態度でクリムを傷付け、我慢させ、無理をさせ…。


本当はクリムに嫌われるのが怖くて嫌で仕方なくて…

「貴女が手を振り払って」なんて酷い選択をクリム1人だけに押し付けた最悪な臆病者…。

この子の思いに全く見向きもせずに。


あの時アタシは壊れていて、選択を間違えた。


クリムが怪我したあの時、アタシが絶対に守ってあげると誓えば良かっただけなのに。

アタシがそうやって頑張れば良かっただけなのに。


アタシはクリムを何よりも優しく、抱きしめた。

こんなので今までの清算が出来るわけないのに。

黒い何かは完全に砕け散り、光が溢れる。

自分で勝手に付けた独り善がりの首輪と手錠が取れたようだった。


「ごめん…本当にごめんね、クリム。

アタシは1度たりとも貴女を嫌いになった事なんて無い。

貴女が大好きよ。ずっと…ずうっと…」


耳元からクリムの息を飲んだ音が聞こえた。

そしてゆっくりとアタシの背中に手を回してくれる。

その小さく細い手は震えて段々と握りしめる力が強くなり、クリムは声を上げて泣いてしまった。

この子がこうやって泣くのはお母様が亡くなった時以来だ。

この子はその時以来遊んで転んでもこんなに泣かなかった。

本当は泣きたかったけれど、アタシに心配かけまいと必死に堪えていたかもしれない。

沢山泣きたい場面はあっただろうに、頑張ってくれていたのに、それをアタシは我慢と履き違えた。

この子が強くなろうとしていた頑張りなのに。


いつの間にか(クリム)はこんなにも大きくなっていたんだ。


「今までごめんね。アタシが間違ってたわ。

辛い思いさせてごめんね、悲しい思いさせてごめんね、我慢させてごめんね。嫌だったでしょう?」


「…いいえ、兄様は最初以外2度無視しても次は素っ気なく返事をして下さいましたから!」


し、知らなかった…。

心が耐えきれなかったのかもしれない。

次は…いいえ、これは今日でおしまい。


「…そう。もう二度としないわ。

貴女が添い遂げる人を見つけるまで守り続けるからね。」


「私もです…!

えへへ、久し振りの兄様はとても温かいです……。」


?クリムが動かない。


「クリム?」


「…」


「クリム!?」


「すやぁ…」


寝てっ…寝てる…!?こんな状態で!??


よく見たら眼の下に隈が…。

髪も傷んで手も傷だらけ…そんな手で…ずっと…。


「…ごめんね。」


それからクリムの部屋へ行き、彼女を寝かせ、お父様の元へ向かった。


いつまでやってんだこんな狂った演目を。

もう身代わりはやめる。


お父様の自室の扉にノックを3回。


「お父様、アタシよ。」


「おぉ…アリアか…こちらへおいで。」


いつも通り、重たい空気に沈む部屋。

この部屋に入ると希望の光は全て絶たれる感覚に陥る。

お父様もいつも通り、赤い天蓋付きベッドにバスローブ姿で座っていた。


「…あなた。」


「ん?」


「アタシはだぁれ?」


虚ろな瞳は数秒アタシを見つめる。


「何を言っている?アリア=アルカンシエルだろう?」


あぁ、やっぱり。

その目に息子アタシは映らない。

アタシを抱き寄せる父を思いっきり押し退けた。

父は立てかけてある枕へ沈む。


「…違う!!お母様は死んだ。うんと前に!!

此処に居るのは息子。

貴方の息子…スカーレット=アルカンシエル!」


今のお父様を見たらお母様はきっと失望する。

少しの間でもお母様は愛を持って接してくれていたのを覚えているから。


「いい加減目を覚ましてよ!!もう十分壊れたでしょうアンタもアタシも!!!

もう二度とお母様のフリなんてしない!!」


いつも着替える服をこれまでの関係と共にベッドへ叩きつけた。


「アタシはスカーレット=アルカンシエルとして守るものがあるの!!アンタも当主なら家族をちゃんと守んなさいよこのクズ!!!」


実の父親にクズと言い、頬を思いっきりひっぱたいた。…今思えばヤバいことね。


それ以来、お父様とは暫く口を聞かなかった。



壊れる前にそうしていれば…。

間違いに気付かせてくれたのは貴女よ、クリム。

あんなアタシを見捨てないでくれてありがとう。

あんなアタシを思ってくれてありがとう。

無理をさせてごめんね。


…あの口論はアタシの一方的な行動が原因だから喧嘩じゃないもんね。

でもやっぱり喧嘩せずとも仲が良いのがアタシ達よ。


ね?クリム。


「クリム、苦しいのなら我慢せず吐き出しなさい。

全部、兄様が全部受け止めるから。

何があってもずっと隣にいるから。」


「うあぁああああああっ!!!」


叫び、ナイフを握りしめたクリムは突進してきた。


『主様!!』


「命令!手を出すなッ!!」


腹部に強烈な冷感と痛みが走り、じわじわと熱を帯びる。


でも貴女はアタシのせいでもっと痛い思いをしたでしょう。


「はぁ…っ…は…っ…はは、捕まえた…。」


クリムを抱き締めると彼女は獣のような声を上げ、

じたばたと身をひねり暴れる。


「ガァウゥウッ!!!」


やっぱ喧嘩は楽しくないし良くないわね。

何よりアタシの美学にそぐわないもの。

言い合いくらいがぴったりよ。


「ね…クリム…。

苦しいでしょう、ちょっと休みなさいな。

【クリスタル:クリムゾンローズ】」


左手でナイフから手を離させ、右手で自分の杖を振りクリムをバラの形をしたクリスタルの中へ封じた。

クリムの召喚獣の動きが一瞬止まった瞬間


『【アイリスオース】!』


イーリスが虹色の剣をクリムの召喚獣の胸に投げ、貫いた。


『主様、ただ今回復致します!!』


「…っ…ありがとう…。」


ナイフを引き抜いた際の目眩を覚える痛みに耐え、

イーリスの回復魔法によって傷が塞がった。

完全に痛みが取れるわけじゃないのね…。


「…イーリス。」


『はい。』


「喧嘩って、アタシ達に似合わないのよね。」


無表情の綺麗な顔はゆっくりと笑みに変わる。


『えぇ、とても相応しくないと思われます。』


「…そうよね。じゃあイーリス、クリムを保健室へ連れていくわ…手伝って頂戴。」


『は、ですが主様。どうやら保健室にあの養護教諭殿はいらっしゃらないようです。』


「あら、じゃあ何処に?」


『この先の別棟で同じ気配を感じます。』


彼女が指した場所を目で追う。

周りに危険は…無さそうね。


「分かったわ、そこに行きましょう。」


『畏まりました。』


クリムの温かい手を握り、結晶の中から出した。


貴女の想い人が出来るまではこの手を離さない。

絶対に。

♢ミカウの手記♢


☆アフロディーテ

パートナー:ローランド=ローゼン


好きな物:花

嫌いな物:不明


♢ミカウさんメモ

喋ったところを見たことがない召喚獣だね。

美人の中の美人って感じ。

スピルカの相棒のアストライオスも少し話すのに彼女は全く話さないんだ。リアクションしている所を見るに声を出したくないのか、出せないのか。

不思議な行動をするローランド君のサポート役で最初の方にゼウスの雷に打たれた彼を撤収させたりしてたね。

いつか喋ったところを見たいなぁ。録音して売り捌いて…うへへ。

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