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第35話『彼の知らない過去』

前回のあらすじ


ポーション作りを頑張っているとスピルカ先生が獅子座レグルスと呼ばれていた白いライオンに跨って登場。

そして僕は居残り特訓、つまり補習させられることに。

僕らの事を気にかけてくれたり、ヨガミ先生は先生だけど何だかお兄ちゃんぽくって…

聞いたら地雷だったようです。

リアルのゲームや攻略本、ファンブックの人物紹介ではただの陰キャです的なことしか書いてなかったのに…。


 …


ヨガミ先生は悲しそうに微笑んだ。

謝らなきゃ!!


「ご、ごめんなさっ…!!僕…!」


「いーや。すまん、顔に出た。

お前の言う通り、俺には弟が居た。

確かに俺はお兄ちゃん、だ。」


弟が…《《居た》》?


「だが、姉も《《居た》》。だから弟でもあるんだな、俺は。弟感ねぇだろ?」


「…無いです。」


全て過去形…?


「だろ。なぁ、エクス。少しだけ話してやるよ。スピルカ以外に話したことは無いんだがねぇ。」


「?」


ヨガミ先生は僕の前でドカッと胡座をかいた。


「あんな、俺の家族は全員死んだ。」


「え」


そんな事、どこにも書いてなかった…

聞いたこともなかった…。

ヨガミ先生の有るはずのない過去など。


「突然現れた巨大な魔物に住んでた村ごと焼かれた。まだ餓鬼だった俺は何が起こったか分からなくてな。」


「え…?」


「瓦礫になった家から這い出た直前、瓦礫の下敷きになってしまったけどまだ息があった姉から杖とまっさらな魔導書を貰ったんだ。…姉はここの生徒になるはずだった。ゆくゆくは教師になるのが夢だと口癖のように言っていた。」


ヨガミ先生のお姉さんにもちゃんと過去が…


「その夢を託された俺は理事長の計らいで姉の代わりにここへ入学してアポロンと出会った。」


『へへっ!』


先生の胸ポケットに収まったアポロンはヨガミ先生を見上げてにぱっと微笑んだ。

ヨガミ先生も口角を上げた。


「コイツはとてつもなく腹立つが強かった。

…だからこそ毎日思ったんだ。

あの時コイツが居ればなって。

あの時俺が魔法を使えたらなって。

せめて姉だけでも救えるほどの力があればなって。」


嗚呼、わかる気がする。

強大な力が味方についてくれた時、苦しかった過去をわざわざ思い出してしまい、願ってしまうこと。僕もそうだった。


「なんにも無くなってからそう思った。

だからな、エクス。

お前は俺のようになって欲しくない。


失ってからじゃ遅いんだ。」


「…」


「人々が助けられなかったのはしょうがないと俺に言ったがそうは思わない。

もし瓦礫を退かせる力があれば姉は助かったかもしれないからな。」


でも先生は小さかった。

そんな力があるはずがない。

先生の声はひどく震えていた。


「けど、失ってからじゃ…あの時頑張っていれば…なんて言ったって消えた命は戻ってこない!嘆いたって戻ってこない!」


先生は拳を僕の胸にコツンと当てた。


「じゃあどうするか、その時に備えて強くなるしかねぇんだ。失わないように。

自分に甘えて強くなる事を止めてしまったら自分が救えるはずだった命に手が伸ばせなくなる。

目の前から急に消える。」


「…」


僕は何も言えなかった。

言葉の重みが違ったから。

本当に失ってしまった人の心の嘆きが痛いほど響いてくる。この痛みで自分の心のどこかで疑っていた事が確信に変化した。

やっぱりこの世界の人間は生きている。

プログラムなんかじゃない。

時間を1歩ずつ踏みしめている。

その間に過去が存在している、普通の人間だ。

失うことに恐怖を感じることができる人だ。


「俺は何で姉じゃなく自分が生きてしまったんだと思わずにはいられなかった。毎日学校内で死んでやろうと思った。それを止めてくれて、一緒に居てくれたのがスピルカだった。俺は特に荒れてて友達が居なかったから。あ、この事は内緒な。」


先生に友達が居ないのは皆気付いていると思います…。


「友達は本当に有難い存在だ。大切にしろよ。

そして失わないように強くなれ。」


「はい。僕、もっともっと頑張ります。

失う辛さを知らないように。

先生の教え子は凄いんだよって先生のお姉さんに知らせるために!」


決意を口にするとヨガミ先生は優しい笑顔を向けてくれた。


「あぁ。お前なら出来るよ。お前は強いんだからな。アイツらと一緒に成長して国に誇れる召喚士になれ。さぁ!頑張るぞ!

下級のポーション作るんだ!!」


「はいっ!!」


僕は先生とゼウスに頷き杖を握りしめた。


 …


「ぜぇ…っ…はぁ…っ!!

でっ…出来た!!!」


僕の震える手に握られている試験管の中身は…

綺麗な黄緑色の液体だった。


それが出来たのは丁度100本目。

僕の魔力が空っぽに近くなる手前だった。

息が苦しい。僕は苦しくて仰向けに倒れた。

視界にヨガミ先生が見下げてる姿が。


「やっと出来たな。よく出来ましたー。」


『流石はマスターー!

普通に1歩近付いたぞ!』


ゼウスが頬にくっついた。

僕は汗かいてるからダメと言って指で摘んで引き剥がす。


『あーっ』


ジタバタするゼウスを摘みながら大きく息を吸い込み、体から抜けていった空気を多めに取り込む。


「はぁ…っ…あー…」


「よく出来た。けどな、お前の魔力が無くなりつつあるから出来たんだろうな。

分かってんだろゼウス。」


『私は褒めて伸ばす教育だ!水を差すな!』


より一層ジタバタするゼウスから目を逸らしたヨガミ先生は僕を見た。


「へーへー。ま、今日は及第点だな。

ほれ、いい時間だし準備してお嬢達と風呂入ってこい。昨日言い忘れたが風呂には疲労回復と魔力回復の成分が含まれている。

お前の魔力量だと全回復まではいかないかもしれないが多少は回復するさ。」


「は、はひ…」


僕が作ったエリクサーは…?

ダメだ、疲れすぎて手が伸ばせない。


「やっぱりお前体力ねぇな。実践では体力作りも含まれるからな。箒で回ったトラックをその足で走らせるぞ。」


「えっ!?聞いてない!!」


「言ってない。」


嫌すぎて急に起き上がった僕の額にヨガミ先生はデコピンした。


「いって!」


「それくらいの声が出るなら大丈夫。

お前はまた補習になると思う。

簡単に行くとは思うなよ、エクス。」


先生は杖を振って僕が作ったエリクサーを

全て回収した。あ!使う前に没収された!


「エリクサー99本か、学校側は助かる。

これで多少なりともお前がやらかしても目を瞑れる。」


「そ、そうですか…。良かったです…。

先生、今日はありがとうございました。

また明日お願いします。」


「おう。しっかり休めよ。」


僕はお辞儀をして後ろの扉から退出して荷物などを置いていくために寮に戻ることにした。




『父上のマスターの子、凄いね。』


「あぁ。

あんなにやってもまだ魔力が残ってやがる。

…教師何人分の魔力量なんだよアイツ…。」


『少なくともヨガミ10人分はあるね。

いや、それ以上に。』


「アイツが怖いわ。」


『うん、父上のマスターも怖いけど…

やっぱりボクは父上自身が怖いよ。

父上、時には残酷な面が見えるから。』


「そうか。まぁ、アイツの召喚獣としてなら大丈夫だと俺は思う。」


『ふふっ…まぁねん。父上、彼を気に入ったみたいだしでろっでろに甘やかすと思う。』


 …


「もう暗いな…。」


廊下は吹き抜けが多く陽の光に頼っている為電気が少ない。あってもランタンくらいの大きさの明かりが扉の近くに付いているくらいだ。冷たい風が頬を撫で誰も居ない廊下から中庭をちらりと見ると太陽が沈んでおり、

夜の帳が下りていた。

夕焼けも拝むことなくもう一日が終わろうとしている。


「急ごっと。ゼウス、戻っていいよ。」


肩に乗っているゼウスに話しかけるとふわりと目の前に移動した。


『マスターの残り魔力を考えると私を呼べるのはあと1回が限度だぞ?良いのか?』


「1回もあれば大丈夫だよ。授業も無いし。」


そういうと腕を組み、うーむ…と唸ってから頷いた。


『分かった。

何かあれば呼ぶんだぞ、マスター。』


「うん、ありがとう。」


微笑んだゼウスは魔導書の中に自ら入っていった。


「急がないと。

シャル君達待たせる訳にはいかない。」


僕は授業用カバンを両手で抱えて小走りした。


 …


寮の入口である青い扉を開けると、沢山の電気が中を照らしている広間で少しザワついていた。

誰かの部屋の前で小さな人混みが出来てる。どうしたんだろ…?


知らない人が怖いので遠目から見ると1人の男子の手が赤く、湯気が見える。えっ!?

火傷!?その彼の横にいた人が口を開いたのが見えたので聞き耳を立てる。


「お前馬鹿だろ、部屋間違えんなよ。」


「だってどの扉も同じだから間違えるだろ!?

それで雷魔法発動とか最悪だ!」


「間違えたお前が悪い。

 自分で回復魔法使えよ。」


「最悪だぁ…。」


どうやらあの人は自分と他人の部屋と間違えて雷魔法を手にくらったようだ。

一種の防犯なのだろう。僕も気を付けよう。

ちゃんと表札を確認して部屋に戻った。


「ただいまー。」


なんちゃって。部屋が暗いからヨシュアも居るはずないの…に……あれ?ヨシュアの靴がある。

自分も靴を脱いで廊下を歩き、中の扉を開けると…


ヨシュアが制服のままうつ伏せで倒れていた。


「よ、ヨシュアっ!?」

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