第32話『走るヨガミ』
エクスが登場するのは前回のあらすじだけです。
「えっ…あ、本当だ!?」
前回のあらすじ
怪物の正体はゼウスが言うに音信不通のスタッフさん、つまり人間さんでした。
魔獣の血を摂取したことによって怪物に、生きる屍?になっちゃったとか。
そんな残酷な事をしている奴を許せない。
絶対に見つけ出してやる。
けれど今回はヨガミ先生が動き出している
そうですよ!
…
ヨガミ=デイブレイク
「おいっ待ちやがれ!!」
胸ポケットに忍ばせたアポロンの言う事を頼りに廊下を駆ける。火をつけたタバコはまだ長さが残っていたが致し方なく走りながら携帯灰皿に入れて鎮火させた。
『相手絶対素早さ上げてるよ!』
「ハッ…ハッ…だろうな…っ!!
俺もやってんだよ…っ!!」
一向に追いつけず、角を上手く利用され姿も捉えきれていない。見えたのは服の端の布。
ズレて聞こえる足音を頼りにひたすら走る。
タバコ止めようかと思うくらい息があがる。
止めないけど。
「っ…アポロン!
お前も見てないで支援しろよ!!」
『えー?仕方ないなぁ。
じゃあ太陽神の加護を授けよう!』
アポロンの手から立ち上る輝く粒子が俺の全身を包み込む。日光があればもっと速くなるが…
時間の関係で直射日光は無い。
だからと言って絶対に逃がしてはならない。
ゼウスの言う事が本当なら魔獣殺しをした
アビス=アポクリファが悪魔召喚を企む張本人かもしれない。それか真犯人がいて、
アビスは命令に従った共犯かもしれない。
今追っているのがアビスかその真犯人かもしれない。又は真犯人でもなく、アビス以外のもう1人の協力者かもしれない。
捕まえる他ねぇ…!
「待てやゴルァ!!」
一直線の廊下に出た!
見えた相手はローブ姿!
『ん?アレ女性だね。』
「んなこと今はどうでもいい!アポロン!」
『はいはーい!ぱーす!』
取り出した杖を金の弓に変え、アポロンが作り出した光の矢を受け取り引き絞る。
胸ポケットから飛び出したアポロンが風を起こし俺を浮かす。
標的…捕捉!
「穿つ!!」
『えっ穿つのはダメでしょ』
驚くアポロンを無視し矢を放った。
光の矢は俺が着地するよりも速く地を這い
ローブを下から掬い上げるように貫き、軌道を上に変え天井に突き刺さった。
こちとら弓矢のコントロールには自信あんだよ。
我ながらローブと生身の間を上手く貫けたな。
この光の矢は突き刺さると矢羽根が広がり拘束にも使える。それに丈夫だからローブの人物は落ちもせず宙吊りだ。ざまぁねぇ。
「おい、てめぇは誰だ。」
誰も居ないことをいい事に俺は相手を見上げて大声で話しかけることにした。
降ろしてやるつもりは毛頭ない。
「…!」
相手は足をバタバタさせもがいている。
手を使えば矢を抜けるが…
それをすれば当然高いところから落ちる。
分かっているということは降ろせと示しているんだろう。誰が降ろすかバァカ。
「…!」
まだジタバタしている。
何度暴れたって無駄だっての。
「…ん?」
よく見るとローブが引っ張られてアイツが着ているであろう服が見える。
ワインレッドの生地と黒いフリル?
何処かで見覚えがあるぞ。誰だ?
『ねーヨガミぃ。アレさ、ドレスだよね。
ローブも大きいし。
どっかで見たような……あ!!』
頭の上に乗ってきたアポロンは正体が分かったようで数回叩いてくる。
『分かったー!!分かったよヨガミ!』
「あぁ!?誰だよ!」
『言わなーい!
ヨガミもよぉく知ってる人だよ!』
こういう時のアポロンは死ぬほどウザイ。
ほら見ろ、人を舐め腐った顔をしている。
「はぁ…ワインレッドと黒フリルのドレスを着ている奴なんてオペラくらいしか知らね……
ん?オペラ?」
まさか…
「あ、アンタ、もしかして…
オペラ=ベルカントか…?」
仮にもそうならば先輩の為、そこまで強く言えない。そうじゃない事を祈る。
宙吊り野郎は空いている右手で震えながらフードを外した。
金髪、目が完璧に隠れるほどの長くガードの硬い前髪。黒いリボンでハーフアップ。
祈りは通じなかった。
間違いない。天使クラス副担任…
オペラ=ベルカントその人だった。
彼女は素早く右手にミカエルの人形を付けて
「お、お前らが超怖かったから逃げたんだよ!!
頼む、降ろしてくれ!!」
とジタバタとその場で暴れ始める。
「…」
無言で睨むとビクリと震え上がる。
「り、理由は話すから!!頼む!」
『ヨガミ、降ろしてあげてよ。』
アポロンの顔を見て思い出した。
途中で鎮火させたタバコの存在を。
「あのタバコ…最後の1本だったんだぞ…!」
「弁償するからっ!!」
「2箱な!!!約束しろ!!」
「わかったから!降ろしてくれー!!」
そう叫ぶオペラ(ミカエル人形)を捕らえた矢がフッと消えた。
なっ!?消した覚えはねぇぞ!!?
まさかと思いアポロンを見るとアイツはニヤけていた。
『早くしないと床と衝突だよーん?』
「はあぁああぁああぁああっ!?」
落下するオペラを受け止めようと急いで駆け出した。
「おーーちーーるーー!!」
お前の召喚獣呼べよぉおお!!!
心で叫びながら全力のスライディングをして床スレスレで彼女を受け止めた。
「はぁ…はぁ…はぁ…っ!!!
おまっ!マジで巫山戯んなよ!!?」
俺は苛立ちながらオペラを抱えたまま座った。
横からふよふよとアポロンが視界に入ってニヤニヤしている。
『だって、ミカエルのマスター?』
「お前もだよ!!!」
『え?』
かーーっ!!ぶち殺してぇええっ!!
「アンタらこんな真昼間から何してん。」
おっと……今聞きたくない声がする。
後ろから…。
ゆっくりと、ゆっくりと後ろを振り返ると白黒頭のオッドアイの和服男がそこに立っていた。
「半分野ろ…いやシオン…ツキバミ…」
「デイブレイクよりも年上やぞ。
礼儀を弁えて先生を付けや。」
「せんせぇ…。」
俺の先輩その2であり苦手な先輩その1である。
「座ってお姫様抱っこかいな。
真昼間からお熱い事で。」
銀色に光る鉄扇で口元を隠しながらクスクス笑うアイツを見ると腹が立つ…!
たかが2歳差だぞ!!
「何でアンタがこんな所に居んだよ!」
「とある生徒をお説教してたらお腹が空いて、昼食のどら焼きを食べようとほんの一瞬目を離したら逃げられました。」
昼食にどら焼きってやべぇだろ…。
飯食えよ…。ともあれ。
「アンタお得意のお説教から逃げられるなんて腑抜けたものだな!ざまぁ!」
と馬鹿にしてやった。
半分野郎は表情1つ変えずに鼻を鳴らす。
「えぇ、不覚でした。
そんな訳で私の生徒見てへんか?
アビス=アポクリファと言う見た目が派手の。」
何だと?
「アビス…アイツを説教してただと?」
「えぇ。初日から爆睡してましたので絞めてやろうと。」
それならあの化け物を作り出すのは不可能…?
いや、時間によるな。
「いつから説教してた?」
「覚えてませんよ。
チャイムが鳴って5分後くらいでしょうか。
彼に会ってそのまま連行しました。」
そこからヨシュアが俺達を呼びに来るまで
約10分くらいだろうか。
シオンの説教は5分じゃ終わらない。
気配察知がずば抜けているコイツの不意をついたアビスは大分すげぇ奴だ。
その抜け出した間に?いや、若しくはエクスとヨシュアに会う前に既に化け物を作っていた?
予めスタッフに魔獣の血を投与して自分が離れてから化け物と化し暴れさせた?
可能性が高いのは1番最後のだな。
アビスが「こっちは危ないかも」と忠告出来たのは存在を知っているから言えることだろう。
しかもそれにレンが関わっている可能性もある。
アビスじゃなく、レンが投与させれば良いからな。レンが真犯人でアビスと手を組んでいるとして、これなら納得出来る。
「デイブレイク?何考えとるん?
さっきからおかしいで?」
「ぁ!?」
いい所なのに話しかけんなよ!!
「いつまでもベルカント抱いとらんと。
もうすぐ授業やで。ほなお先に。」
いつまでも…?
そう言えば…と思い下を見る。
「い、いつまでもお姫様抱っこは恥ずかしい…」
と顔を赤らめるオペラとミカエルの人形を見て抱えていた事を思い出した。
「あーーーーっ!!」
「ふぎゃっ!!」
勢いよく立ってしまいオペラは転がった。
「わ、わわ悪い!抱えていた事に深い意味は無い!助けただけだ!
怪しい行動をしていた方が悪いんだからな!
タバコ2箱頼んだぞ!じゃあな!!」
俺はその場から逃げるようにして走った。
アポロンに頼らず速度向上魔法を使って。
『ヨガミぃ、ミカエルのマスターが
何してたか聞いてないよー?』
「それどころじゃねぇえーーっ!!」
恥ずか死ぬーーっ!!
「な、何だったんだ一体…ローブ穴空けられたし…。いや、エクス=アーシェをつけていた私達も悪かったよな。
話したかっただけなんだけどな。」




